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第52話

「そもそもそんな貴重な機会、それもこのように神聖な式典で私を望むなどという冗談を口にする方が間違っているでしょう。その為に私を呼ぶなど、戯れにも程があります」  いかに実の妹とはいえ相手は王妃。私的な場所でならともかく、このような公の場で礼を失することはできないと、アシェルは青筋を浮かべながらも努めて丁寧に言葉を紡いだ。それでも口端がピクピクと痙攣しているのは正面にいる王や王妃には明らかで、二人は揃って顔を見合わせる。  さて、自他ともに認める頑固さのアシェルをどう説得しようかと無言で視線を交わした時、それまで黙って見ていたルイが突然立ち上がり王と王妃に礼をすると隣にいるアシェルに向き直った。 「申し訳ありません、アシェル殿。私としたことが、陛下の許可を頂くことに焦るあまり、あなたに対して礼を失していましたね。これではあなたが拒絶されるのも無理からぬこと。不格好ではあるでしょうが、どうか今からやり直させてください」  令嬢方を虜にしてやまない優しげな微笑みを浮かべながら紡がれる言葉の何一つとして理解ができない。ちゃんと理解できる言語であるはずなのに、まるで呪文を羅列されているかのようだ。思わず遠い目をしてしまったアシェルに構わず、ルイは流れるような動作で膝をつき、アシェルの手を取った。アシェルの手に口づけが落とされた瞬間、キャァァと黄色い悲鳴があちこちで上がる。この激しい物音は誰かが失神でもして倒れたのだろうか?

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