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第60話
「さて、アシェル殿。あなたが懸念することはすべて問題ないと申し上げましたし、こうして陛下も王妃殿下も、お父上も兄君もお認めくださいました。ですから安心して我がロランヴィエルにお越しください。私の求婚、受けてくださいますよね?」
どうか、とアシェルの手に口づけが落とされる。キャァッと、どこかで黄色い悲鳴が上がった。なんならこの場所を替わってくれても良いよ? なんて思考を別の方へ向けようとするが上手くいかない。
「……それ、逃がす気あります?」
受けてくださいではなく、受けてくださいますよね? と彼は言った。文字にすればたった四文字増えただけであるが、その違いは大きい。そしてその予想通り、目の前の紳士――のはずだった騎士はニコリと笑みを見せた。
「いいえ。こればかりは譲れません。今日陛下にお許し頂くのをずっと楽しみにしていたのです。騎士であるならば期を逃してはなりません。この期を、私が逃すはずもない」
本気で逃がす気はないらしい。何故だ、なぜ自分なのだ、と頭を悩ませるが、そんな時間さえも彼は与えれくれないようだ。
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