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第62話

「フィアナ、謀ったな」  王や父、更にはノーウォルトを離れた次兄にまで手を回し、大勢の前で自分だけ知りませんでしたということは高すぎる矜持が邪魔をして絶対に口にしない長兄の性格を利用した。そんなことを企てるのは、フィアナしかいない。 「あら、謀っただなんて人聞きが悪いですわ、お兄さま。私はお父様と一緒に、お兄さまに寄せられる縁談話の中でより良い方を選んだだけですのに」  兄が自分を害することなどあり得ないという絶対的な自信がそうさせるのか、アシェルに睨まれようとフィアナはまったく動じず、むしろ何が悪いのかと小さくため息までついて見せた。 「選んだなんてよく言う。領地も爵位も持たない、更には足も不自由で目も悪くした、ただの男を誰が迎えたがるんだ? あのロランヴィエル公が何を考えて僕と結婚したいだなんて陛下に申し出たのかサッパリわからないけど、少なくとも選べるほど僕に縁談話が来るなんてことありえない」  自虐ではないが、貴族社会において領地や爵位、そして見た目の美しさと社交界でのダンスの腕や話術は必須。それらの何も持たないアシェルを欲しがる令嬢も令息も家も存在しないだろう。何も持っていなくともアシェルと結婚したいなんて宣ったルイが変人の部類であるだけだ。そのルイもきっと〝本当に何も持たないアシェル〟になど興味はなく、何かしらの利益を見てこのような縁談を申し込んだのだろうが、それはきっと彼が先を見る目を持たなかったか、親族という立場では王や王妃を動かすことなどできないと知らなかったのかどちらかだろう。

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