72 / 199

第72話

「さすが陛下が開かれる舞踏会だけあって、どれも逸品ですよ。せっかくですからこれだけでも召し上がりませんか? さぁ」  どうぞ、と小さなフォークに刺された艶やかなイチゴを口元に持ってこられて、誰が抗えるだろう。いわゆる「あーん」であることも気づかず、アシェルは思わず口を開けてパクリと頬張った。大粒のイチゴが歯をたてた瞬間にジュワリと果汁を溢れさせ、口の中が幸せでいっぱいになる。久しぶりの感覚に思わず頬が緩めば、なぜかルイが「んんッ」と気まずそうに咳払いしていた。その頬がほんのりと赤く見えて、アシェルはコテンと首を傾げる。 「僕よりもあなたの方が体調が悪そうだ。随分と顔が赤い。舞踏会の熱にあてられたなら、僕のことは気にせず主治医の所に行った方が……」  そもそもこの舞踏会の主役である第一連隊は凱旋したばかりだ。舞踏会までに多少は休めたかもしれないが、兵士としてはまだまだ休み足りないだろう。何よりルイはただの兵士ではなく司令官だ。疲れも相当なものだろう。何でもないように振る舞っているからといって、本当に疲れていないとは限らない。主治医を連れてきているのなら彼こそが診察を受けるべきでは? と完全なる親切心で言ったのだが、ルイはどこか不機嫌そうな顔で首を横に振った。

ともだちにシェアしよう!