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第115話

「アシェル、そう呼ばせてください。そしてどうか、私のことはルイ、と。最愛のあなたにロランヴィエル公爵と呼ばれるのは、とても寂しいのです」  何かの芝居か? と思うほどにルイの言葉は台詞じみている。それはルイも感じているのだろう、どこか悪戯っ子のような、けれど〝ロランヴィエル公爵〟と呼ばれるのは距離を感じて本当に寂しいと告げる子犬のような、なんとも言えぬ絶妙な苦笑にも似た笑みを浮かべていて、アシェルは「ぅッ……」と言葉を詰まらせた。  フィアナの言葉通り、アシェルは年下のこのような姿にそれはもう、非常に弱い。 「やっぱりあなたは、とても優しい人だ」  アシェルの中で拒絶よりも許容の方が勝っていると感じ取ったのだろう。ルイはふわりと嬉しそうに笑って立ち上がると、身をかがめて両手でアシェルの頬を包み込んだ。 「アシェル、一緒に帰りましょう?」  顔を真っ赤にしているアシェルの額に羽が触れたような口づけを落として、恥ずかしさに思考停止したアシェルを抱き上げた。 「ではジーノお兄さま、アシェルお兄さま、またお茶をしましょうね。ロランヴィエル公、アシェルお兄さまをお願いしますわ」  ルイがアシェルを優しく抱いたのを見て、フィアナは満面の笑みを見せるとラージェンの腕に手を回し、揃って部屋を出た。

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