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第141話

「公爵様は各地に別荘をお持ちだとか。雨季は社交界もありませんし、別荘に行かれるのですか?」  どうにも思考がボンヤリとして、考えがあちこちに飛んでしまう。そんなアシェルを他所に、皆は楽しそうに紅茶を飲み、菓子を摘まんで話に花を咲かせていた。いつの間にか紅茶から別荘の話になっていて、メリッサが扇では隠しきれぬ好奇心をのぞかせながらルイに視線を向けている。 (雨季……)  そう、もうすぐバーチェラは雨季がやって来る。晴天である方が珍しいこの時期は夫人方のドレスが汚れてしまうという理由もあって、常は頻繁に行われるお茶会や舞踏会、夜会といった社交界が無くなるのだ。その間は領地の別荘に滞在して家族と団欒しながら領地経営に集中する貴族も多い。しかし、ルイは王を守る連隊の隊長だ。そう長く王都を離れるわけにもいかない。 「いいえ。雨季もこの屋敷で過ごそうかと。別荘に行ったところで雨季から逃れられるわけでもありませんしね」  連隊長で公爵という立場であれば、長期休暇を取るのも難しくはないだろうに、とメリッサはなぜか残念そうに小さくため息をつく。

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