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第186話

「あなたの兄君たちは婚約者たちと楽しそうにダンスを踊るのに、あなたはいつだって妹君に付きっ切りだった。好奇心旺盛な妹君を追いかけて、妹君が陛下とお話されている間は少し離れた壁際で一人立っておられた。妹君に強請られて、ダンスを踊られたこともありますよね。あなたは親よりも過保護な眼差しを向けて、妹君のどんな我儘にも付き合っておられたし、妹君はあなたの事が大好きなのだと隠しもしなかった。あの頃、陛下があなたに嫉妬して私に愚痴を言っていたこともあったのですよ」  仲の良い兄妹だ、と思った。生憎とルイに兄弟はいないのでその感情を本当の意味で知ることはできないだろうが、ウィリアムやジーノとの関係を見ていると、アシェルとフィアナが殊更仲が良いことは理解できた。 「陛下が……?」 「あの方は私の事を執着心が強いと言いますが、私からすれば陛下も変わりありません。王妃殿下にとってあなたは特別で、流石の陛下であっても間に入ることも成り代わることもできない。おそらくアシェルは、陛下が王妃殿下に関することで初めて敗北を味わい、これからも決して勝利することのできない存在でしょう」  でも、それも仕方のないことだ。アシェルがフィアナの為にしたことを、ルイはその目で見ている。 「話を戻しますが、これでも、私は公爵です。ある程度のことは噂であっても耳にしますし、私自身が知ることもあります。……あなたは、アシェルは、優しすぎる人です。すべてをあなたが愛した人に捧げたのでしょう。そんなあなたの手に残ったものは? それを考える度に、私はあなたに降りかかったすべての理不尽に対して怒鳴りつけ、斬りつけたい衝動にかられます」  どうしてアシェルだったのだろう。言ったところで何にもならないとわかっていて、それでもルイは思わずにいられない。偶然だ、運命だと片付けるには、あまりにもそれは理不尽で、重すぎた。

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