194 / 196

第194話

「兄を心配するのは妹の権利とも言えますが、本当にお知らせしなくて良いのですか?」 「妹を悲しませないのが、兄の義務だ」  それに、知らなくて良いことなどこの世の中に山ほどある。陛下の隣に立ち、国を支える役目を担うフィアナには尚更に、アシェルのすべては知らなくて良いことだ。 「……わかりました。私の口から言うことはしません」  不承不承であると隠しもしないが、ルイが頷いたことにアシェルは小さく微笑んだ。その微笑みはただただ優しく、美しくて、だからこそ悲しい。 「アシェル、このネコの名前、何にしますか?」  アシェルのそんな微笑みを見ていたくなくて、ルイは話を変えるようにネコへ視線を向けた。その言葉にキョトンとアシェルは目をまん丸にさせる。 「飼うのか?」 「ずっとここに餌を貰いに来ているようですし、天敵もいる外にこんな小さな子を放り出したままというのも気が引けます。私は軍務があるので、基本的に世話をするのは屋敷の者とアシェルになりますから、アシェルが良いのでしたら名前を付けてあげてください」  それがきっと、アシェルの枷になる。フィアナを悲しませないのが己の義務だと言い切った彼ならば、この小さな子供を放り出すことなどできないだろう。偶然にも、このネコは茶色い毛をしている。アシェルが気に掛ける〝お姫様〟の髪と、同じ色だ。  そんなルイの予想通り、アシェルはジッとネコを見つめていた。己に手を伸ばし、身を寄せてくるか弱い子に向ける眼差しはどこまでも優しい。 「そうだな。なら――」  すり寄せられる小さな頭を撫でる。安心しきった小さなお姫様に、アシェルは最初の贈り物をした。 「エルピス(希望を)

ともだちにシェアしよう!