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第198話
「なら、それは二人きりの時にしたらいい。結婚したら、殿下はお前の夫君になるのだから、殿下のお言葉通りにしたらいい。城に住むようになれば殿下が護ってくださるだろうし。けれど、婚約者で、ノーウォルトの屋敷に住んでいる間は、人の目がある場所では〝殿下〟とお呼びするんだ。それがお前を守る術にもなる」
アシェルとしては、いつだって妹のことは守ってやりたい。だが貴族社会では場合によってはアシェルが庇うことすら許されないこともあるだろう。ましてラージェンの正室の座を狙っている者にとってフィアナは目の上のタンコブ。何をしても消してしまいたいと考えている者も、想像すらしたくはないが数えきれないほどに存在しているだろう。だからこそ、些細な言動ひとつひとつに気を配り、自分の身は自分で守らなければ。
「いいな、フィアナ。お兄さまとの約束だ。もしも殿下がそれも嫌だと言われたら、僕が殿下とお話するから。だから、殿下の御名をお呼びするのは、二人きりの時だけにしてくれ。結婚して正式な伴侶となったら、どこで呼ぼうと、何をしようと殿下のお言葉のままにしたらいいから」
その時までは隠していなさい。殿下とフィアナの、二人だけの秘密にしておくんだ。そう言えば〝二人だけの秘密〟という言葉に惹かれたのか、唇を尖らせて拗ねていたフィアナはうふふ、と隠しきれぬ喜びを浮かべた。
「わかったわ。お兄さま、秘密のお約束ね」
「そう、お約束」
忘れないでね。忘れないよ。そんな言葉を交わしていれば、使用人の一人がやって来て母の診察が終わったと告げた。その言葉に再びパァッと顔を輝かせたフィアナに、アシェルはチラと窓から空を確認する。
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