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第250話

「お父様は応対できないだろうと思いまして、私の方に来ていただきましたの。その時にお預かりした肖像画をこちらに埋め込ませていただきましたわ。懐中時計でしたら、いつでも持っていられますでしょう?」  確かに、フィアナが用意してくれた懐中時計は美しいが派手ではなく、普段使いしていたとしてもなんら問題はないだろう。細い鎖がついていて落とす心配もない。  アシェルはジッと肖像画を見つめ、丁寧に蓋を閉じると両手で握りしめた。 「……ありがとう、フィアナ」  これはアシェルにとって必要なものだ。それを与えてくれたフィアナに頭を垂れれば、彼女はクスリと笑ってアシェルの手から懐中時計をとり、落とさぬよう鎖をシャツのボタンホールにつけた。 「ロランヴィエル公が軍務を終えられるまで、お茶をしましょう。せっかくの機会ですもの、お兄さまとゆっくりお話しがしたいわ」  ね? いいでしょう? とおねだりするフィアナに小さく微笑んで、アシェルはポケットに懐中時計を仕舞うと頷いた。  フィアナの私室に戻り、紅茶を飲みながら穏やかに話しをする。グッスリ寝てご機嫌だったエルピスがフィアナに頭を擦りつけジャレてくれたおかげで、話題はもっぱらエルピスのことばかりだった。それに小さく安堵の息をつき、アシェルは可愛いお姫様たちが楽しそうに笑っているのを穏やかに見つめる。そんなことをしていればあっという間に時間が過ぎ、小さなノックの音と共にルイがアシェルを迎えに来た。

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