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第11話、不穏な気配と決裂
緩やかに体を揺さぶられている気がして薄っすらと瞼を開けた。
何故か下っ腹の奥が熱くて重っ苦しい。皮膚の上から手を当てられているのが分かって数度瞬きをする。
「起きたのレオン?」
「ラン……ベルト? ひっ、ァあ! お前……ッ何して……」
起きた瞬間快感に襲われ、思わず下っ腹に視線を向けた。
寝ている間に体を開かれたらしい。結合部分から淫靡な音が聞こえていた。
「レオンが起きるの待てなかったんだよ。だってレオンさ、今日で最後とか意味分かんないよ。俺の意見も気持ちも何もかも無視して終わるの? 酷いよね?」
同意を求められても困る。
それよりも体が全く動かないのに気が付いて、レオンは焦燥感に捉われていた。これではレイプと変わらない。
「ランベルト、なんで……っ」
「何で? それはレオンに薬を盛った事? 今俺がしてる事? それともこれからやろうとしている事?」
——薬? 眠気と眩暈はそのせいか……。
会話をしながらも緩やかに奥を突かれ続けている。
ランベルトに抱かれ慣れている体には刺激が強くて、射精感が込み上げてきた。
「や、ぁ、ラン……ベルトッ、もうイク‼︎」
「一緒にイこうか? ——ねえ、中に出していい?」
普段はそんな事聞きもしないで出す癖に確認を取られ、返答に詰まる。
——何を考えている?
けれどもう絶頂に上り詰める手前だったのもあってコクコクと頷いてしまった。
「あ、あ……ん、出して、いい。んん、もう出して、アア、いいから、あ、あんっ、イク……っ、一緒にイ……っ、ァ、ああ、あああ!」
パチュパチュと音を響かせて、肌を打たれる速度が増す。
吐精するのと同時に思いっきり腰に力を入れると、ランベルトが中でイった。
「そうだ、レオン」
「な、に」
情事後の気怠さでまだ息が整わないでいると、話をふられた。
「さっきレオンの中に子宮作っちゃったんだけど痛くなかった? 初めてやったから心配でさ。違和感ない? 大丈夫?」
「お前……何、言って……?」
声音はいつもの穏やかなランベルトだった。
でも顔つきはそうじゃない。
ランベルトが今まで見た事もないシニカル笑みを浮かべながら、下っ腹を撫で上げてくる。
内部に挿れられたままのランベルトの陰茎は硬度を持ったままだ。
「ラン、ベルト……抜いて……」
「せっかく子宮作ったのに、孕ませる前に抜くと思う?」
再度律動を開始され、レオンは焦った。
「いや、だ……っ、ランベルト待て! 待てよ! 何でっ?」
止められる事もなく揺さぶられ続け、快感と絶望の間で板挟みにされてしまった。
「何で? 何でだと思う?」
レオンからすればそれは酷い裏切りだった。初めてランベルトが怖いと感じた。
「嫌だっ、止まれ……っ、ひ、ぁ……っ、遊びにしては……ッ度を……、ん、ァ……超しすぎだろ!」
「遊び……ね。それなら良かったんだけどね」
契約は今日で終いになるのに、孕んでしまうとレオンの逃げ場が無くなる。それに卒業したとしても、就職するのは難しいだろう。
ランベルトのほんの戯れで壊されようとしている。沸々と怒りが湧いて仕方なかった。
——あんな契約、初めから受け入れるべきじゃなかった。
「お前は、王族だから……、ひ、ぅ……っ、いいかもしれないけど、俺は働けなくなると困るん……っだよ! お前に……は、分からないっ! 俺には、死活……っ問題なんだ!」
前立腺から奥にかけて抉るように突かれ、大きく体が揺れる。
必死に唇を引き結んでも、声を抑える手が使えない。
「んぁ、ああッ、ああん!」
ランベルトを押し返すこともできなくてされるがままになっていた。
「うちに嫁いでくればいいでしょ。皆 んなが羨ましがる玉の輿だよ? レオンは一生働かなくていいよ」
その他と同じ様に囲う気だと分かり、絶望感に打ちひしがれる。
これからの人生も簡単に決められた気がして、ランベルトを睨んだ。
——俺は、情夫じゃない。
こんな風にランベルトを見るのは、真っ向から意見を述べた時以来だった。
「それ……っ、マジで、言ってるんなら……、おまえを……っ、軽蔑する!」
「そう」
苛立ったように結腸を抜かれ、レオンの頭の中では星が散った。
「ひっ、ん、ア、あああ! 嫌だっ、ランベルト!」
「はっ、人を暴発させそうな勢いで締め付けといて……ッ、よく言うよ」
「や、ァあああ、ああッ、んんんーー!」
乱暴に突かれる度にレオンの内部が痙攣し、ランベルトの陰茎を締め付けた。
「何でいつもより感じてるの? もしかして甘やかされるより、拘束されて無理矢理される方が好きだった? それとも孕むかもしれない事に興奮してる?」
「違っ、ん、ぁ、あああ!」
「違わないでしょ。ほら、レオン。また中に出すよ。レオンが出して良いって言ったもんね。ちゃんと受け止めなよ?」
抽挿される度に堪えきれなくなった涙が溢れ落ちていく。
「泣かないでよレオン。俺と一緒に居るのはそんなに嫌なの?」
唇で涙を掬い取られる。
激しくなった動きが緩やかになって一度止まった。
「人、でなし……っ」
「なら、ずっと俺の言葉を無視し続けてきた行為は人でなしじゃないの? それとも俺は何言っても、何をしても傷付かないとでも思ってた? ねえ、レオン。俺をこうさせたのは……お前だよ」
内部に擦り付けるように動かされ、繋がったまま腰の上に座らされる。
体はいつの間にか動くようになっていたけれど、受け入れられない現実が今目の前にあって、放心状態のままランベルトの気が済むまでずっと抱かれ続けた。
「何で……こんな事を、したんだ?」
数時間経過してやっと解放された。
問い掛けるとランベルトが苦笑する。
「レオンを、誰にも渡したくないから」
涙と一緒に乾いた笑いが込み上げた。
「何で泣くの?」
「お前が、俺の事を……っちゃんと好きじゃないから!」
「だから、俺はずっと好きだって言ってる! いつもはぐらかして無かった事にするのレオンでしょ! 何で無視するの? 一体何が違うの⁉︎」
珍しく感傷的になって叫ぶ様に言ったランベルトに向けて、同じ様に声を荒げた。
「全っ然違うだろ!」
恋愛対象として好き、という理由ならまだ許せた。
でもそうじゃない。
ランベルトは単に自分が手塩にかけて育てたオモチャを誰にも取られたくないだけだ。
ランベルトが言う、好きも可愛いも大好きも〝人〟に向ける言葉ではない。
自分とランベルトでは歯車が噛み合わない。ずっとズレたままだ。きっとこれからも噛み合うことはない。
魔法を使って衣服を全て着用した。
「レオン!」
伸ばされた手を弾き返す。
「お前との契約はこれっきりだ。俺は……もうお前に……っ、関わりたくない」
震える足を無理矢理立たせて扉に向かう。
「ねえ、レオンってば……!」
掛けられた言葉を無視して部屋を出る。
自室に戻って体を労わるようにベッドの上に転がった。
「俺たちは……一体何処で間違えたんだろうな?」
その日を境に、ランベルトとの契約は履行出来ないまま白紙に戻り、顔すら見ない日が続いた。
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