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第25話、青のドラゴン
次の日。
王宮の前の広場にランベルトと向かい合わせで立った。
これからドラゴン化しながら気をコントロールする術を身につけていく事になっている。
遠巻きに王宮の皆んなが眺め、自分たちの仕事をこなしながらまた戻って来たりしていた。
——あれ? あの人確か……。
一瞬姿が見えただけですぐに見えなくなってしまった。
ザワリ、と首元の毛が逆立つ。頭を触られた気がして振り返るが、そこには誰もおらずに首を傾げる。
大学院生だった時にも一度同じ事があった。あれは……。
「どうかしたの、レオン?」
ランベルトの声で意識を戻された。
「ううん……何でもない。俺さ、ランベルトがドラゴンになった姿も見てみたい」
「レオンには百聞より一見だったね。先にそうしようかな」
ランベルトが脱力したように力を抜くと、バチンと何かが弾け飛んだ音がした。
体の周りを幾重にも連なったパライバトルマリン色の雷光が横向きに走る。
輪郭がボヤけて行き、十メートルはありそうな大きな体に、背にある翼も全身を覆い隠せそうな程に大きい。
四本の手足が地に降ろされると振動が来た。
『怖い?』
頭の中に直接語りかけられる。
「ううん、怖くない。かっこよくて綺麗だランベルト」
フワリと空を舞って、ドラゴンになったランベルトの鼻先に口付ける。それから真似をするように力を抜いた。
空にいる筈なのに、水の中を揺蕩っている気がして、流れに身を任せる。肩甲骨あたりがやたらむず痒くなった。
バサリ、と音がしたのと同時に体の感覚がおかしい事に気がつく。視界がやたら高い。
「レオン、目を開けてみて?」
言われた通りにすると人型に戻っているランベルトにmgフォンで連続で写真を撮られた。抜かり無い。
「レオン可愛いね。綺麗。俺の大好きな青」
ニッコリと微笑まれる。
「ちゃんとドラゴンになれたじゃないか」
「レオン〜かっこいいね」
サーシャとエスが混ざり、その後ろから城にいる者たちが数名駆け寄ってきた。
その中にケミルもいる。
「レオン、マジで青の一族だったんだな!」
喋ろうとすると「グルル……」と喉が鳴った。このまま言葉は喋れないらしい。ランベルトは話していたなと考えて、視線を向けた。
「レオン、こうやって戻って?」
またドラゴン化したランベルトに、目の前で人型に戻られる。
——ああ、これ浮遊した時に丸い防御壁に身を包むのと似てるな。
容易くイメージする事が出来て、簡単に戻れた。
「レオン、待って! 服着るイメージするの忘れてる!」
結構な人数の前で裸体を晒す羽目になり、羞恥で全身が熱くなってくる。
一秒もの間でランベルトが着ていたマントで隠してくれたが、恥ずかしくて堪らない。
「へえ、見えないとこはエグい事になってんのな〜。何その腰の手痕と鬱血痕」
ニヤニヤしながらケミルに言われ、その場に気まずい空気が流れた。何より身内の前での指摘が一番堪える。
「ケミル……極刑にして」
「ちょちょちょ、元ルームメイトに酷くない⁉︎」
「うるさいケミル」
ランベルトが無言で頷いた。
***
三ヶ月経ち、ドラゴンの気をコントロール出来るようになると、その時を待っていたと言わんばかりに突然体に不調が表れ始めた。
特定の匂いが不快になり、次の日には食べ物を受け付けなくなった。
治癒魔法も一切効かないので、寝たきり状態で困り果てている。
魔法薬も調合して貰ってはいるが気休め程度だ。
横向きでベッドに転がっている背をランベルトが撫でてくれた。
「レオン、あんた妊娠してるね?」
部屋に様子を見に来たサーシャの言葉に、ランベルトと二人揃って「ないない」と手を振った。
「それは無いよ。俺子宮作る呪文もやり方も知らないから」
「俺は出来るが作ってない。特訓中に孕むと危険だからね」
「だが、間違いなく孕んでるよ。しかもその子は不死鳥だ。不死鳥は気まぐれでね、世代を飛び越えて親の組み合わせも関係なく生まれてくる。気配を消すのも上手いんだ。最近下っ腹が熱くて堪らなくなった事はなかったかい? それが授かった合図だ」
「えっ、あ……ああーー……」
心当たりは確かにあった。三ヶ月前にランベルトと体を重ねた時だ。
「こら、目を逸らさない。その顔を見る限り当たってるね?」
「風邪で熱でもあるんかと思ってた」
「何時だ?」
「三ヶ月前かな」
ランベルトが部屋に医療魔法師や産婆を呼び寄せて診察を受けた。
サーシャの言う通り、レオンは懐妊していると言われ、子宮を作ってないのにどうしてこうなったか話し合っている最中だ。
「後継ぎを沢山求める誰かに別の方法で子宮を作られていた可能性はないですか?」
その隣でランベルトがはっきりと否定していた。
「いや、ないと思うが……。前回の出産の時、レオンが死にかけたというのもあり期間をあけるつもりでいた。周囲にもその旨伝えている。それに今はドラゴン化を安定させる特訓中だ。作る訳がない」
ランベルトが言うと、サーシャは何かを逡巡するように目を細めて、やがて口を開いた。
「原因究明は同時進行で行こう。嫌な予感がするね。今回の出産には、治癒魔法を使える魔法師が十人、防御魔法の強い魔法師が三人は必要になる。不死鳥を産むのは命懸けでね、リスクしかないんだよ。胎の中にいるのは三ヶ月半もないくらいだ。時期を逆算して脈動を見る限り、産まれるまで後四日もない。そしてここからが本題だ。産まれる予兆が出た時から不死鳥の子は体内で高温度の熱を発するようになる。しかし生身の肉体ではその高熱に耐えられない。それどころか母体やその周りも全て焼いて消し炭にしてしまう。全力で治癒魔法をかけながら即行で子宮ごと取り出すしかない。勿論取り出す魔法師へも治癒魔法をかけなければいけないよ。燃えちまうからね。あと、医療室には防御魔法をかける。万が一の事も考え、王宮が燃えてしまわないようにもしなきゃいけない」
不死鳥が稀な存在である所以が分かり、納得した。
それから王宮は忙しくなった。
他所から魔法師も契約で雇い、配置の確認作業も徹底して行われた。
レオンはレオンでやりたい事があるので、ランベルトから王宮を中心とした地図を貰って全て記憶するように頭に叩き込んだ。
「これはね、こうするの」
王宮内を歩いているとエスポワールの声が聞こえてきて、その場所へ足を向ける。そこには三人とも揃っていた。
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