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第28話 宇宙航路船
『どうしてあの二人を殺しちゃったの?』
『ああ、力が制御できなくて、間違って殺しちゃったんだ。次から気をつけるよ』
少しだけ大きくなった、二人の姿だ。
『私の顔や肌のことを笑ったからじゃないの?』
『違うよ。誰もそんなことはしてない。ところで、あの二人の財布には結構お金が入ってたから、何か食べよう。服も買えるし、布団で寝れるよ』
そこに、警官が二人来る。
『君たち、どこから来たの?』
『~~~タウンです』
『随分、遠いとこれから来たね。親御さんは?』
『いません』
『その財布、見せてもらっていいかな?』
警官が手を差し出すと、警官の指が4本切り落とされる。
アシュラスはティスの手を引いて走り出した。
『待て!』
もう一人の警官が銃を構えたが、銃を持つ腕が切り落とされた。
『せっかくお仕事がんばったのに、それで体が無くなっちゃうなんて、お巡りさんたち損したね』
『………………』
『お巡りさんはさぁ、俺たちが困っているときは来なくて、会いたくないときには寄ってくるんだよな。不思議なもんだ』
♢♢♢
親善試合という名の決闘から2週間が経った。
決闘後、ウェンは帝都でアシュラスのヒーリングを受け、1週間後に目を覚ましたところでプロポーズをされ、そのあとの1週間も帝都で治療を受けた。
アシュラスは毎日、四六時中ウェンの治療用ベッドに潜り込んできた。
ヒーリングに必要だから、と、ウェンが動けないことをいいことにキスをしたいだけしてくる。
ウェンはキスに関しては諦めの境地に達した。
ラムズと隊員たちは帝都で3日間治療を受けた後、姜王国へ帰って療養していた。
隊員たちは全治1か月だ。
しばらくは訓練は中止で療養期間とした。
♢♢♢
ウェンとアシュラスは帝都から姜王国に移動するために、宇宙航路船に乗っていた。
船、書いてあるが見た目は列車だ。
ボックス席に向かい合って座る。
アシュラスは一般人と同じ服を着ていて、ちゃんと紛れている。
帝王オーラが消えると、本当にただの兄ちゃんだ。
足を組み、窓に肘をかけて頬杖をつきながら窓の外を見ている。
「帝王の専用機とか、ないのか?」
「ないよ。俺は護衛がいらないほど強いから。それに、俺は支配した星や国を見て歩くのが好きなんだ」
へぇ、とウェンは返した。
図らずも二週間、裸でベッドにいたせいで、アシュラスに対する余計な遠慮は無くなっていた。
「最近……お前の幼い頃の夢を見るんだ。お前とティスの逃避行だ」
アシュラスはチラリとこちらを見た。
「夢にまで俺を見るなんて、遠回しに情熱的な告白をするね」
「違うから。あれは、お前の記憶なんだろ?お前の術の、後遺症なんじゃないか?」
「おそらくな。”血の鎖”は相手の精神世界に侵食する術だ。本来、相手の精神世界の情報を取り、相手のトラウマを引き出して精神を壊す。どんなに体や技を磨いても、精神が壊れれば何もできないからな。完全な廃人にもできるし、手加減すれば操り人形ができる」
「俺が見たのは、スタジアムでは死体と苦しむ人間たちの映像、今はお前とティスの幼少期。俺も戦場には行ってるが、あれほど酷いのは見たことがないし、お前の過去ならなおさらだ。だから、お前の記憶かと思ったんだ」
「そうかもな。俺の血を使った魔術とお前は相性が悪くて、本来の効果がでない。今、夢に見てるのも、術の影響が変に残っているんだろう」
「……辛い幼少期だったんだな」
「俺もティスも、親を知らない。気がついたら狂った大人に囲まれてて、ゴミを食って、人から盗んで生きる生活だった。まあ、世界中によくある話だよ」
アシュラスは窓の外を見たまま言った。
アシュラスのタブーである出自。
その後の帝王としての殺戮の日々。
ウェンにとっては、地獄のような世界だ。
そんなアシュラスの背景を知って、アシュラスを倒し損ねた。
結果的に、今みんな生きているが、そんな甘い判断では本来ダメだろう。
みんなを命の危機にさらしてしまった。
自分のやってしまったことに、一度は出てきた自信がまたゆらいだ。
「……なんで、俺にはお前の術が効かないんだろう」
「血の契約は効かないし、血の鎖では精神世界の侵食を振り切ってお前は自我を保った。お前は、俺の力に"反発する何か"を持ってるんだろうよ」
「……反発する何か……か」
「俺は流血損だよ、全く……」
アシュラスは舌打ちをした。
♢♢♢
宇宙航路船が動き始めた。
しばらく街の中を走る。
帝都は政治と経済の中心、高層ビルやマンションが立ち並び、大きな工場、港も揃っている。
諸外国や星の中継点でもある大都会だ。
もともと小さな都市だったが、アシュラスが帝都にしてからは急激に発展した。
アシュラスは窓の外を見たまま話し出した。
「帝都は、星の運行を読んで、100年先まで気の流れが充実し、天変地異が少ない星を選んだ。都市を選ぶときも、天然の結界に恵まれているところを開発した。道路や路線は地のことわりに沿わせ、常に滞らない向きと流れにする。宮廷は都市の気の要の場所に。神殿は気のバランスが不安定な場所に作る」
「それは……姜王国の聖典にある『地』の内容だ……。なぜ、お前がその内容を知っている………?」
聖典はある日忽然と消えた。
そして、聖典を守る最高責任者の父のフェイオンはその失態の責を負い、処刑された。
「まさか、お前が犯人なのか……?!」
アシュラスは窓の外に視線を向けたままだった。
「俺はガキの頃、お前の親父に三年間、面倒をみてもらっていたんだよ。その時、三つの聖典を教わった」
心臓の鼓動が大きくなった。
「な、なぜ父が……?!」
こんな、暴力の塊みたいなアシュラスと……
♢♢♢
宇宙航路船は帝都を出て、姜王国に向かって宇宙に飛び立った。
「ある日、俺が油断して、ティスが連れ去られたことがあった。それをたまたま通りがかった姜王とフェイオンが助けてくれた。俺は頭に血が昇っていて、さらに姜王からティスを奪おうと攻撃を仕掛けた。そしてお前の親父に半殺しにされた。ちょうど、この間お前がやってくれたようにな」
そんな話、全く知らなかった。
「俺たちが孤児だと知って、フェイオンは同情した。姜王に掛け合って、俺たちをまともにしようとしたんだ。俺たちはすでに『宇宙の災厄』と呼ばれるくらい各地で暴れ回っていた。だから秘密裏に、俺たちは匿われた。ティスはそこで勉学して才能が開いた。俺は力のコントロールを学んだ。あのひだまりの小屋でだ」
「あの小屋は、お前のために建てられたのか……」
自然に囲まれた、穏やかな地。
ラムズと暮らして感じていた。
子どもにとって、あそこは何もかもちょうど良いのだ。
「さらに言えば、聖典を盗んだのはパイリーだ」
「……そういう噂はあった……。だが、聖典は見つからず、証拠もなかった。なぜ、パイリーが犯人だと言い切れるんだ……?」
「簡単な話だ。パイリーが俺のところに聖典を売りに来たからだよ」
「そんな……」
パイリーは、姜王とアシュラスの関係を知らずに、帝王とのお近づきの印に聖典を手土産にしたかったのか。
「聖典のない姜王国なら支配は簡単だ。その際は自分を国王に……という交渉だ。仮に俺が乗らなくても、お前の親父がいなくなれば、姜王と次期国王の長男の勢力は削がれる」
姜王の王政は、長男の経済と父の軍事の柱があって強固なものとなっていたのだった。
「あのバカのパイリーが一人でやったと思えなかった。黒幕が誰か、どうやって聖典を手に入れたのか、探っているうちに、フェイオンは処刑された。予定された日にちより早く、な」
アシュラスは足を組み直して、ウェンを見た。
「パイリーの戦場での死体は偽物だよ。連れ去って、今でも拷問をかけている。記憶に強力な魔術がかけられていて、聖典のこととなると都合良く忘れている」
アシュラスの目が冷たく光った。
アシュラスは、戦闘だけでなくこういうこともしながら帝王をやっているのだ。
「汚い仕事は俺に任せろ。お前はあのスタジアムで俺を斬れなかったが、お前の親父は……お前がそういう優しい人間に育って喜んでるだろうよ」
アシュラスは、ほほえみながら言った。
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