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第26話

宗吾さんは、僕が落ち着くまでただ、頭と背中をそっと撫でてくれた。 それから肌触りのいいパジャマを着せてくれた。 少しサイズが大きい。多分宗吾さんのものなのかもしれない。 いつもなら気が付かない事が、お腹が減っていないので気が付くことができる。 サラサラとした手触りのパジャマは濃紺色をしていて、多分宗吾さんが着たら似合うのだろう。 「こういう時、人間ならホットミルクなり、柚子茶なりを出すんだが……」 出されれば飲める。 味も少しなら分かる。 けれど宗吾さんが求めているのはそういう事じゃないって少しだけなら分かる。 「すみません」 「どうしたら、那月は安心できる?」 宗吾さんに聞かれる。 僕が安心できるって何だろう。そもそも、宗吾さんは僕に安心して欲しいという事なんだろうか。 こういう時になんて伝えるべきなのか僕は知らない。 暴力を振るわないで欲しい。 お腹がすくのは嫌だ。 自分が何をしたいのか知らない。 「頭を撫でられるのは、好きです」 まるで犬の様だと思わないでもないけれど、それは先ほど気が付いた。 この人に頭をそっと撫でられるのは心地いい。 宗吾さんは、俺の頭をそっと撫でる。 まるで僕が大切な物みたいにそっと撫でられる。 ぼんやりとしながらベッドに二人で横たわる。 ベッドのシーツもさらさらで、気持ちがいい。 宗吾さんは僕をなじったりするつもりは本当に無いのだろう。 そう思って、僕の横にいる宗吾さんにそっと手をのばす。 温かい。筋肉の感じがする。 手をのばして脇から背のあたりに触れても宗吾さんは嫌がらない。 別に性的な目的のある接触じゃなかった。 事実僕はまだお腹は減ってない。 僕の頭を撫でる手が一瞬止まって、それからまた優しく撫でられる。 それから宗吾さんも僕と同じように、僕の背中に手をまわしてそっと撫でる。 気持ちいい。これが安心するってことだろうか。 僕はここで安心していいのだろうか。 優しい手だ。宗吾さんは優しい人なのかもしれない。 ウトウトする。 お腹がいっぱいで、温かい。 「おやすみ。また明日」 宗吾さんは僕の隣でそう言った。 また明日と言われるのは、少しくすぐったいような嬉しいような、不思議な気持ちになる。 「また明日」 オウム返しみたいに繰り返す。 宗吾さんが笑った気がした。 眠たい。 二日連続できちんと栄養と取れたのは久しぶりかもしれない。 だから、体が消化のために疲れているのかもしれない。 眠るのなら、宗吾さんに伸ばした手は戻した方がいい。 そう思うのに、なんとなく離れがたくてそのまま眠りに落ちた。

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