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01売春宿での出合い
「あの役に立たねぇガキなら、要らねぇから売春宿に売った」
「はぁ!?」
俺はロン、一房の前髪と濃い紫色の肩まで届かない髪と黒い瞳を持つ男だ。俺はハンターで今これ以上ないほど一生懸命に走っていた、何故なら従兄がようやく十歳の子どもを授ってお祝いに行ったのに、その男の子を売春宿に売り飛ばしたなどと言ったからだ。俺はどうか間に合ってくれと祈りつつ、そうして俺は村の端っこにある、普段なら絶対に来ない売春宿にどうにか辿り着いた。
「おい!? ババア!! 今日ダリルが売った子どもはまだ無事か!? 客とらせてないだろうな!?」
「おや、ロンがここへ来るなんて珍しい。ああ、あの瘦せっぽちならまだ売れてないよ」
「そうか、それじゃ俺が引き取る、あの子はハンターなんだ」
「なんだって!? ダリルのやつめハンターの売り買いは禁止されてやがんのに、あたしから金だけはとりやがって!?」
「いったいいくら取られたんだ?」
「あんな痩せっぽちに銀貨七枚だよ!!」
俺は白髪に赤い目をした売春宿のババアに代わりに金貨一枚を払ってやった、そうしたらババアは喜んでさっさと子どもを連れていってくれと言いだした。俺は売春宿で客待ちをしている者を見回した、ダリルの子どもは誰だと聞いたら他の者がその子を避けた、そうして俺はその子をやっとみつけた。ハンターの証であるアーツも左腕につけていた、薄汚れてはいるが白っぽい金色の長い髪に金色の瞳をした子だった、確かに酷くやせ細っていてこれでは戦えそうになかった。
「俺はロンだ、お前名前は?」
「痩せっぽち、役立たず、無駄飯くらい、お荷物、死にぞこない……」
「正式な名前もつけてもらえなかったのか!? そっ、そうか……それじゃお前はオウガだ、今日からオウガと名乗れ」
「オウガ?」
「そうだよ、お前の名前だよ。それじゃ、もうこんなところは出て行くぞ、まずは役場に行く必要がある」
「うっ、うん」
俺はどうせ従兄はオウガの引き取りの手続きもしていないだろうと思った、そうして役場に行ってみたら案の定オウガの戸籍は、誰も引き取り手が無くて未処理になっていた。ダリルからの引き取り拒否の書類もあったので、俺が親戚として引きとると言ったら村の戸籍係も安心していた。そうしてオウガは正式にこの子の名前になって、それからこの子は俺の養い子ということになった。
「次は買い物だな、お前に合う服や靴を買わないと……」
「服って何枚もいるの?」
次に買い物だと思ったらこの発言だ、この子はよっぽど母親の方でも冷遇されてきたようだ。このカリニの村には独特の掟がある、ハンターは基本的に十歳になるまでは母親が育てる、男女のハンターはそれぞれの村に住んでいて交わることがないのだ。ただし男の子は十歳になったらカリニの村に帰される、それで俺は従兄の家にお祝いにいったら、子どもを一人引き取ることになったというわけだ。
「服や靴はそれなりにいるぞ、訓練をするから破けたり壊れたりもする」
「うっ、うん」
「それから俺のことはロンとよべ、お前のことはオウガと呼ぶ」
「うん、僕分かった。ロンだね、ロン……」
そうしてそいつに必要な物を買ったらもう昼も過ぎていた、適当な飯屋に入って消化に良さそうなものを注文した。オウガは野菜と肉が入ったパン粥に最初はキョトンとしたが、お前の分だというと物凄い勢いで食べていた。随分お腹が空いていたのだろう、オウガは綺麗に全部食べてしまった、この様子だと母親の方からも碌な扱いを受けていなかったのだ。
「眠いなら、寝とけ」
「うっ、うん」
飯を食べるとオウガはこっくりこっくりと頭が揺れていた、無理もない父親に売春宿に売り飛ばされて緊張していたのだ。俺はオウガを背負いバッグにいれておいた荷物を持って海の近くにある家へと帰った。そうしてぐっすりと眠っているオウガを起こしてまず湧き水で体と頭を洗った、それから長い金髪を短く切ってしまった。
「長い髪のハンターが長生きするんじゃないの?」
「そんなのは迷信だ、実際には髪を掴まれたらそいつは死んじまう」
このカリニの村には長い髪のハンターほど長生きするという迷信があった、だが戦闘においていえば長い髪は引っ張って殺してくれと言っているような危険なものだった。そうしてオウガの身なりを整えると十四時ほどだった、俺は寝台が一つしかないからオウガにそこで仮眠するように言った、幸い寝台は大きかったので俺も横になっても平気だった。
「夜はアビスの時間だ、今のうちに寝ていろ。オウガ」
「うっ、うん、分かった」
そうして夕方まで俺たちは短い仮眠をとった、夕方になったら俺は起きてアビスの襲撃への準備をした。オウガも起きてきたので魚中心の夕食を食べさせて、今日は基本的に見学だけだと言っておいた。オウガは何の見学というので、俺はオウガに全くハンターの教育をしていないことを知った。父親も酷いが母親の方もなんて酷い女なんだと思った、そうして俺はオウガに少しずつ勉強させることにした。
「アビスが何か知ってるか?」
「骸骨に皮が貼りついたような真っ赤な敵」
「そうだ、それを狩っているのが俺たちハンターだ。今までアビスを見たことは?」
「…‥……一回だけ」
「それじゃ、今夜はアビスを何体か見れるかもな。俺が守ってやるからお前はこの掘っ建て小屋から出るな、ただ俺の動きだけをよく見ておけ」
「うっ、うん、分かった」
そうしてやがて夜がやってきた、俺はあらかじめ用意しておいた灯をつけた。アビスからとれる黒石を加工して作ってもらったものだ、昼間の間に光を貯めておけばこうして夜に良い灯になってくれる光石なのだ。灯なしでアビスと戦えなくもない、あいつら自身が赤く光るからだ。でも俺は灯があるほうがやりやすいからこうしている、アーツにもアビスの反応が五つ出てきた。ちなみにアーツはリストバンドや、武器化するとどうしてか白く色が変わるものだ。
「オウガ、よく見てろよ。一瞬だぞ」
「わっ、分かった」
俺はアーツを槍に変えてしっかりと握り締めた、アーツとは武器であり様々な形状に変化することができた。だから剣や槍時には銃にも姿を変える、そうやって様々な状況に対応するのがアビスハンターだった。俺は五体のアビスを見てそれから身体強化をかけ地を蹴った、最初のアビスの体に槍で穴を開けその体を蹴って次へ、そいつも同じようにして次へ、俺は稲妻のように五体のアビスを攻撃して葬った。アビスは黒石を残して全て消えた、アーツの反応も消えていた。
「どうだ、オウガよく見てたか?」
「みっ、見てた!! 凄いよ、ロン!! 最初に下のを刺し殺して、次にそいつを足場に左に飛んで刺し殺して、その次は右、また左に飛んで、そして最後は上に向けて攻撃した」
「へぇ、お前目は良いじゃないか。ちょっと出てきてアーツを武器に変えてみな」
「………………うん」
「ん? 剣だけか?」
「………………うん、僕ができるのこれだけ」
オウガは俺の言葉に出てきて左手のアーツを剣に変えた、そうしてから暗い顔をして黙ってしまった。なるほどこいつアーツの武器化が上手くできなかったのか、だから母親の方でも馬鹿にして碌な扱いをしなかった。でも俺はオウガの目の良さに十分な才能を感じた、だから今にもべそかきそうなオウガのところに行って、その頭をよしよしと撫でてやった。
「オウガ、お前は一流のアビスハンターになれるぞ」
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