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スクープ3

 その日の撮影は颯矢さんの方を全く見ることなく、ただ演技をすることに集中した。亜美さんも疲れているはずなのに、演技に集中していたので撮影は巻いて予定より少し早く終わった。  20時少し前に終わったので、夕食はロケ弁を食べたし、この時間だと病院の面会時間は終わってしまう。かと言ってまっすぐ家に帰る気にもなれずに、ミックスバーに行くことにした。なので、バーから少し離れたところで降ろして貰う。さすがに近くまで行くとまずい。いや、ここもバーが多いから多少注意はされるけれど。 「呑むな、とは言わないが、ほどほどにしろよ。明日もテレビ収録の後に撮影もあるから」 「……」 「柊真? 最近、お前変だぞ」  変と言われても困る。颯矢さんが結婚なんてしなければいいんだ。そうすれば以前の俺に戻れる。どこの世界に好きな人が結婚するって聞いて元気な人なんている? いないだろう。  大体、なんで気づかないの? 颯矢さんは聞き流していたけれど、俺は何度も、耳にタコができるほど好きだって言ってきた。そんな俺が様子がおかしければ、あの告白は本気だったんだとなぜ気づかない? その方が驚きだ。 「お疲れ様」  颯矢さんの話も途中に俺は車から降りた。なんで気づいてくれないの。2年間も好きだって言い続けてきた。なんで本気に取ってくれないの?   そんなことを考えながらミックスバーのドアを開ける。  以前来たときはあまりお客さんはいなかったけれど、今日はそこそこいる。なんでだろう? と考えて、今日は金曜日だったことを思い出す。  そうか。サラリーマンにとっては華金なんだな。曜日も時間も関係ない仕事をしていると、曜日なんて忘れてしまう。  人はそこそこいたけれど、カウンターの奥の席は奇跡的に空いていたので以前と同じくそこに座る。すると、以前声をかけてくれた男性スタッフが目の前に来た。 「いらっしゃいませ。また来てくれて嬉しいです」 「覚えていてくれたんですね」  接客をしているとお客さんの顔を覚えるものなのだろうか。 「覚えてるに決まってるじゃないっすか、こんなイケメン。お仕事帰りですか?」 「はい」 「今日はなににしますか?」 「マティーニで」 「度数高いけど、仕事は大丈夫っすか? あ、土曜だから休みっすか?」 「明日も仕事だけど、ちょっと呑みたい気分なんで」 「じゃあ一杯をゆっくり呑んでください。あ、夕食は食べました?」 「はい、食べました」 「じゃあ大丈夫っすね」  そういうと目の前でカクテルを作ってくれる。  そうだよな。明日、仕事だというのに度数の高いお酒呑むっていうんだもんな。まぁ、さすがにテレビ収録があるから、あまり深酒はしないようにはする。でも、今日は呑まないとやってられない。 「はい。どうぞ」  一口、口に含むと、辛口なベルモットの味とジンの味がする。 「なにかおつまみ出さなくて大丈夫っすか?」 「あ、ナッツってあります?」 「ありますよ」  そう言ってナッツを出してくれる。ほんとはチョコレート、と言いたいところだけど、タイでご飯をがっつり食べてきていたので、ほんの少しだけ甘いものを控えることにした。  まだ撮影が残っているから、さすがに今太るわけにはいかない。   「ちょっと気をつけた方がいいかもしれないっすよ」  こそっと言われる。なにを気をつけろっていうんだろう? そんな疑問が顔に出ていたんだろう。 「あっちのテーブル席にいる男性3人のうち1人が、こっちをガン見しているんで。出会い求めてないって言ってたじゃないっすか」 「あぁ、うん。出会いはいらないね」 「じゃあ気をつけてください。いや〜、イケメンも大変っすね」  そんなことをこそこそと話していると、隣に影ができる。 「1人?」  話をしているそばから声をかけられる。その言葉に頷くと、空いていた隣の席にその男は座った。 「一緒に呑まない? 1人じゃつまらないでしょう?」  1人で呑みたくて来ているのに、なんでつまらないんだろう。なんて言えないから無視をする。 「一緒に呑もうよ。明日お休みでしょ」 「明日も仕事なんで」  明日仕事の人間がマティーニなんて呑んでいるけれど。 「まあ、仕事でもさ、一緒に呑もう」 「いや、1人で呑みたいんで」 「つまんないじゃん、1人じゃさ」 「つまらなくないです」 「えー、つまらないでしょう」  結構しつこいな、とイラっとくる。1人で呑みたいんだからつまらなくもないし、放っておいて欲しい。 「スタッフと話してたじゃん」  いや、あれ話していたうちに入るのか? と思うが、男は話していた、と言い張る。まあ、それならそれでいいけれど、あの人は引き際知ってるから。無理には話しかけてこない。あんたとは違う、と言えたらいいけれど、喧嘩になるから言えない。さすがに、城崎柊真だとバレてもまずいんで、早々に帰ることにした。  店を出るのにドアを開けたときに、腕を掴まれる。 「待ってよ。まだ時間早いよ」 「離して貰えますか? 明日も仕事なので、もう帰ります」  そう言って少しキツイ目で見ると、諦めたのか手を離してくれた。最初から離してくれればいいのに。  ただ、このときカメラを向けられていたことには気がつかなかった。

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