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転機2

 葬儀は無事終わり、遺骨を家に持ってくるとほんとに母さんはもういないんだと思い知らされた。小さな骨壷に骨が入っているだけ。母さんの存在はそれだけになってしまった。  遺骨は、仕事の合間に納骨を済ませることになっている。伯母さんは遠いから、特に式は行わず納骨だけをすることにした。それならいつでもオフのときにできる。  三回忌には伯母さんが来てくれるし、時間があえば伯父さんも来てくれると言っている。伯父さんは会社を経営しているから忙しい。それでもそう言ってくれるのはありがたい。  うちは父さんがもういないので親族も伯母さんしかいないから、その点は寂しいけど、そんなことを言ってはいけないのはわかってる。だって伯母さんはいつも親身になってくれるのだから。  そして、葬儀が終わり、伯母さんが帰る時間になった。   「私帰るけど、柊真くん大丈夫? もう少しいようか?」 「ううん。伯母さんだって伯父さん待ってるんだし、大変でしょう。俺も明日からまた仕事だから」 「そう? 大丈夫なのね? でも、なにかあったら遠慮はいらないから電話してね」 「ありがとう」 「私もできることはさせていただくので」 「ありがとうございます。柊真くん、ほんとに辛くなると私にも遠慮しちゃうから、よろしくお願いします」  伯母さんが帰るのに、颯矢さんに挨拶をしていた。伯母さんは遠慮するなっていうけど、伯父さんいるからそんなに甘えるわけにはいかない。 「伯母さん。大丈夫だよ」 「その言葉信じるわよ? 智恵もあの世で柊真くんのこと見守ってるから。私だってなにかあったらすぐに来るし。マネージャーさんだっているから、ね? 1人だなんて思っちゃダメよ」  心配そうに言う伯母さんを見ていたら、自分が1人ぼっちになったんだと再確認させられて涙が出た。そっか、今日から1人なんだ。 「あぁ、もう行かないと新幹線が……。柊真くん、たまに電話するから。ね? ごめんね。新幹線くるからもう行くけど。辛かったら私でもマネージャーさんでもいいから話すこと。約束してね」 「わかった。伯母さん、急がないと」 「じゃ、柊真くん、しっかりするのよ」  そう言うと伯母さんは慌ただしく帰っていった。残ったのは俺と颯矢さんの2人だ。でも、会話はない。伯母さんは颯矢さんにも話せって言ってたけど、きっと俺は話さない。  以前であれば話してたかもしれないけれど、最近はまともに会話もしていないし。俺が一方的に作ったけれど、今、俺と颯矢さんの間には溝がある。颯矢さんが結婚したらその溝はさらに広がるだろう。  そんなこと、余計に心配させるから伯母さんには言えなかったけれど。  伯母さんは1人じゃないって言ってたけど、1人だよ。もう、母さんはいない。そう思うと涙が出て止まらなかった。 「俺も一度事務所に戻って仕事の調整してくるが、大丈夫か?」 「……」  大丈夫かどうか訊かれたら大丈夫なんかじゃない。でも、大丈夫って言うしかないじゃないか。それに今、颯矢さんがいたところで話はしないんだから、いなくても一緒だと思う。それに、今回のことでスケジュール調整があるんだろう。それは颯矢さんじゃないとできない。 「柊真……」 「行っていいよ」 「なにかあったらすぐに連絡しろ。寂しい、でもなんでもいいから」 「大丈夫だよ」  颯矢さんが親身になってくれるのは仕事だから。個人的になんかじゃない。だから、なにかあったって電話なんてしない。それに今の俺と颯矢さんの間に溝があるのは気づいているだろう。それならなおさらだ。  大丈夫だと言って颯矢さんを帰らせ、俺は1人になった。そう、1人だ。誰もいない。1人になった俺はどうしたらいい?   入院しているにしても母さんが生きているときは考えたことがない。母さんも頑張っているんだから俺も頑張る。そう思っていた。でも、その母さんはもういない。  なんのために頑張っているんだろう。  あんなでっちあげの記事書かれて。行きたいところにさえ自由に行かれない。それでも、颯矢さんのそばにいられれば良かった。でも、もう違う。  颯矢さんは結婚する。香織さんとか言う人と。俺が欲しくて欲しくてどうしようもない人を、女という性別だけで手に入れることができる人。  俺は男で、かつ颯矢さんにとっては商品のようなものだ。どうやったって叶うはずがないんだ。  そう考えて、ふと仕事を辞めようかと考えた。  仕事自体は決して嫌いじゃない。演技をするのは好きだ。でも、息苦しい。そして、どうやっても手に入らない颯矢さんと顔を合わせなくてはいけない。  辞めるなら今が辞め時かもしれない。他の仕事に就くにせよ、20代の今ならなんとかなる。  母さんもいないから、何にも縛られない。引退してもいいのかもしれない。そうしたら、颯矢さんとも顔を合わせなくてもいい。そうだ。そうしよう。  自分の中でそう決めると、後は近いうちに事務所に行って社長に話そう。そう決めると少し気持ちが軽くなった。

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