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第1話
至って平凡な見た目、並の学力、可もなく不可もない運動神経を持ち、今現在何の変哲もないサラリーマン。
我ながら平凡を絵に描いたら、自分になるのでは? と思うほど、ド平凡な生活、そして普通の人生。
そんな僕が一つでいいから、人に自慢できることを何か挙げろと言われたら、めちゃくちゃイケメンでハイスペックな幼馴染がいることだろうか。
俺様幼馴染はどうやら僕にしか興味がないみたいだ
「はぁ〜〜足を怪我しただぁ⁉︎ 何やってんだよこのドジッ!」
「いや……ちょっとこけて捻っただけだから」
電話の向こうから聞こえてくる大声に、スマホを耳から離して三波朔文字 はそう答えた。
「何やってんだよ! まったく……」
なおも大きな声でそう言い、呆れたように幼馴染の木元侑星文字 は溜息を吐
いた。
ことの発端は仕事終わり、朔は今日侑星と食事に行く約束をしていた。少し待ち合わせ時間に遅れていたので、急いで会社の階段を駆け下り、調子に乗って三段ほどの段差をジャンプで飛んだのがよくなかった。
着地の瞬間見事に足を挫き、たまたまそこを通りがかった同僚に助けを借りどうにか病院に辿り着いたのだった。診察を済ませ、食事に行けなくなったことを侑星に連絡を入れたところ……このように朔は電話越しに怒鳴られている。
「たいしたことないらしいから大丈夫だって」
宥めるようにそう言うと、ハァとまた侑星は大きくため息を吐いた。
「で、どこの病院?」
「え?」
急な問いに朔は首を傾げる。
「だから! どこの病院にいるんだよ」
「えっと……〇〇病院」
朔は今自分がいる病院の名前を答えた。
「分かった。すぐ行くから、一歩もそこを動くなよ!」
「動くなって……?」
行くってどこに?そう聞こうとしたら、すでに通話は切れていた。
(もしかして…迎えにきてくれるのかな)
わざわざ何で? 通話の切れた画面を見つめながら、朔は首を傾げた。
「お前……一歩も動くなって言っただろうが!」
会計をするため、受付カウンターの前に立っていたら、聞きなれた声が後ろから聞こえて朔は振り向いた。
「侑星」
(ほんとに迎えにきてくれたんだ)
その姿を見て、朔は驚きに目を瞬かせた。
現れたまるでファッション雑誌から切り抜かれたような侑星の姿に、待合場にいた全員の視線が一気に集まる。精悍な顔の男らしい美貌に、スタイルのいい長身の体躯、そんな侑星を見て周りから感嘆のため息が零れた。
「たくっ……」
そう呟いて侑星が朔の方に歩いてくる。モデル並みにスタイルがいい侑星が歩くと、質素な病院の廊下も、さながらファッションショーのランウェイのように見えて、ますます周囲の人間はホウとため息を零した。
そんな幼馴染の登場に驚いていると、松葉杖をつく朔の姿に顔を顰め、朔の手から荷物を奪うと、侑星は近くにあった椅子を指さした。
「そんなのいいから、座ってろ」
「お会計……」
朔はそう言うがそんなことには構いもせず、侑星は自分の財布からお金を出して支払いを済ます。朔は大人しく言われたまま、椅子に腰かけた。
「あいつの足のこと聞きたいんですけど」
「あら、家族の方ですか?」
受付の女性スタッフが、侑星を見てポーッと頬を染めながら聞き返す。
「はい。そうです」
頷いた侑星を、スタッフがこちらへどうぞと案内する。
(いや、家族ではないだろ……)
小さい頃からの幼馴染で、朔と侑星の家は家族ぐるみで仲がいいから、家族と言ってもいいようなものだけれど。
その後姿を眺めながら、朔は心の中でつっこんだ。
「ほら」
戻ってきた侑星が、朔の方に背中を向けてしゃがむ。ほら、と言われ目の前にある大きな背中を朔はジッと見つめた。
「え? まさかおぶってくれようとしてる?」
慌てる朔に侑星は相変わらず背中を向けたままだ。
「いいって! 歩けるって……‼」
さすがにそこまでさせるわけにはいかない、それに何より人前でおんぶなんて恥ずかしい。朔が戸惑っていると。
「早くしないとお姫様だっこするぞ」
ちらとこちらを見て侑星がそう言い放つ。
「………」
お姫様抱っこなんて、おんぶの恥ずかしさの比ではない。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
朔はしぶしぶと言った様子で、侑星の背中に体を預ける。
「ん」
軽く頷いて朔を軽々と持ち上げると、侑星が歩き出す。そんな二人の仲睦まじい様子を、周囲は微笑ましい視線で見つめていた。
「足、気をつけろよ」
助手席に乗り込んだ朔にそう言葉をかけて、侑星が車のエンジンを入れる。朔の方に体を寄せるので何かなと思っていたら、自然な仕草で朔のシートベルトを締めてくれた。
「わざわざ来てくれてありがと」
「んー」
朔のお礼に、侑星は何でもないことのように返事をする。
「で、なんで怪我したんだ?」
「あー時間に遅れてたから、会社の階段急いで駆け下りてこけちゃって……」
本当は調子にのって、階段を飛んだのが原因だけど、恥ずかしいのでそれは隠しておく。
「バカ…急がなくていいんだよ。朔のことなら何時間だって待てるんだから」
「……ああ、そう」
車を走らせる侑星に、朔が少し間を空けて答える。
「遅れるって連絡あったきり、返事入れても既読にならないから、なんかあったのかって心配した」
「それは……ごめん」
「何謝ってんだよ、朔はなんも悪くないだろ。病院からじゃなくて、会社で連絡入れてくれてよかったのに」
そう言って、侑星が朔の髪を撫でる。大きな掌の温かい感触と優しい言葉に、どこかくすぐったさを朔は感じた。
「なんで侑星んち……?」
辿り着いた高い高い高層マンションを見上げながら、そう零す朔に侑星が首を傾げる。
「はぁ?その方がいいからに決まってんだろ。不便だろうが、その足じゃ」
確かに朔は一人暮らしだ。それに実は会社からは、朔の家より侑星の家の方が近い。
どうやら侑星は、朔の足が治るまで面倒を見てくれるようだ。
「はぁ…うまかった…ごちそうさま」
「そっかよかった」
出された夕食を食べ、手を合わせる朔を嬉しそうに侑星が見つめる。
夕食は侑星が作ってくれた。とてもとても美味しくて、いつの間にこんなに上手になったんだろうと朔は思う。
「こんなんでよかったらいつでも作ってやるよ」
そう言って笑顔で朔の頭を撫でる。その笑顔が眩しくて、こんなの女性
だったらイチコロで落ちる、いや女性でなくても落ちちゃうなと朔は思う。
侑星は、それはそれは立派な家に住んでいた。所謂タワマンというやつだ。そして朔を乗せ、ここまで運転してきた自家用車も海外メーカーの高級車。外資系の会社に勤め、何やら投資等の勉強もしているらしい。
同じ歳なのに、朔とは全く違う暮らしぶりだ。といっても、侑星が特別すぎるだけで、朔の方が一般的に年相応の暮らしだろう。
とても男前でスタイルもよくて、その上料理まで上手ときた。もはやイケメンすぎて、純粋にすごいと朔は感嘆する。
「あ……でも、僕も一人暮らししてるから料理はできるよ。だから今度は僕が作るね」
(世話になる上に、ご飯まで作ってもらうなんて申し訳ないし)
そう言うと侑星が顔を輝かせた。
「でもたいしたものは作れないから、あんま期待するなよ」
さすがに侑星ほど豪華な料理は作れない、朔はそう付け足した。
「朔が作ってくれるなら、なんだって嬉しい」
とても嬉しそうに侑星が笑う。精悍な顔つきが笑うと、目尻がふにゃっと下がって、とても人懐っこい笑顔になる。
「……」
朔に向けられる、昔から変わらないその笑顔に、胸がキュンと締め付けられた。
「じゃ、風呂入るぞ」
「えぇ!?」
リビングのソファーで、テレビを見ながらまどろんでいると、朔の分と自分の分の寝間着を手に持った侑星にいきなりそう言われる。
「一緒に……⁇」
朔は驚いた声を上げる。
「その足じゃ、危ないからな。ほら早く」
「うん……」
軽症なので一人で入れるけど、そう思ったが、あまりにも当然のように言う侑星に気付いたら朔は頷いていた。
(さすがに恥ずかしい……!!)
シャワーを浴びる侑星の横で、小さくなりながら朔は頭を洗っていた。浴室は広いので、男二人でも窮屈さは感じないが、それでも恥ずかしさは拭えない。
朔はチラと侑星を見る。手足の長い四肢に、引き締まった筋肉、そして。
(そこも立派なんですね……)
男らしい体躯に引けを取らず、侑星のモノはとても立派だった。そんな侑星の体を見ていると変な気持ちになってきて、朔は慌てて頭を洗うことに集中する。
「流してやるよ」
侑星がシャワーを持って朔の後ろに回る。頭にシャワーをかけて、朔の目に入らないよう気を使いながら泡を流してくれる。髪に触れる手が心地よくて、朔はうっとりと目を瞑った。
「ひゃ……」
だけどあらぬ場所に、その心地よい手の感触を覚え、変な声を出してし
まう。
「ちょ、侑星!何……?」
「何って…体洗ってるだけだけど」
いつの間にかボディーソープを手に付けた侑星が、朔の体を丁寧に洗っていた。
「洗ってるだけって……」
(なんで掌で洗うんだよ!!)
ボディタオルではなく、手で直に肌に触れられ朔は戸惑う。その間も侑星の掌が肌をなぞっていく。
「あっ…ちょ、っ…ゆうせ、い……んっ」
くすぐったさと、人肌が手を滑る感触にもじもじと反応してしまう。その感触に、身をよじりながら堪えていると、不意に侑星の動きが止まった。
「侑星…?」
不思議に思って後ろの侑星を振り返る。侑星は顔を赤く染めていて、そして心なしか鼻息が荒かった。
「立った…」
「へっ?」
言われた言葉に、視線を下に降ろすと、先程見た侑星の立派な男のシンボルが大きく反り立っていた。
「ちょっ、バカバカッ!! 何大きくさせてんだよ‼︎」
「朔が可愛い反応するのが悪い」
慌てる朔に、侑星がそう返す。拗ねるように言われて、朔が困っていると侑星の手がとんでもない場所に伸びてきた。
「っぅ…!」
「朔のも反応してる」
大きい手が朔のソコを包む。緩く上下に動かされて、知らず甘い声が漏れ腰が揺れた。
「朔…こっち向いて……」
熱のこもった声に誘われるまま、朔は侑星の方に体を向けた。そんな朔を太ももの上に乗せ、侑星は体を密着させた。
「んーっ」
朔と自分のモノを一緒に握り込み、侑星が強く手を動かす。痺れるような快感がそこから体中に流れて甘い声が零れる。朔は拳を口に当ててそれに堪えた。
「さく……」
「ふ、ぁ……」
耳元で熱く名前を呼ばれて、ぞくぞくと背中に震えが走って快感に腰が反れる。
「ゆう、せっ……」
「うん、一緒に、な……」
限界だと訴えると優しく侑星が頷いて、さらに激しく性器を包む手を動かした。
「あんっ、あ、あぁ――」
「さく、っ…」
そして二人は同時に精を吐き出した。
「ほら、水」
「うーありがと」
ベッドに腰かける朔に、侑星が水の入ったコップを渡す。それを受け取って朔は一気に飲み干した。
「ふう……」
のぼせた体に冷たい水が心地いい。生き返るような心地で朔は一息ついた。
「大丈夫か?」
「生き返ったありがと」
空になったコップを、自然な動作で侑星は朔の手から取ると頭を撫でる。その掌が心地よくて朔は瞳を閉じた。
いつの間に持って来ていたのか、侑星が後ろに座って朔の髪をドライヤーで乾かし始める。優しい手が髪を梳いていく感触が気持ちいい。朔はとろんと瞳を溶けさせた。
「凭れていいぞ」
そう言われ、朔は気付いたら後ろにいる侑星の体に背中を預けていた。髪が乾く頃には、すっかりうとうとと朔はまどろんでいた。
「眠い?」
優しい声にうんと頷く。すると侑星がリモコンで電気を消して、ベッドに寝転がった。片腕を差し出すように横に伸ばし朔の方を見る。
「ほら、こいよ」
「……」
誘われるまま、朔は侑星の横に寝転ぶ。差し出された腕に頭を乗せると、すぐにもう片方の腕が朔を抱きしめて引き寄せた。
(腕枕…されてる……)
何で?と思うが抱きしめられる腕と、侑星の体温が心地よくて何も考えられなくなる。素直に体を預ける朔に、侑星は上機嫌で微笑んだ。
「なぁ……さくぅ……そろそろここに引っ越して来いよ」
(引っ越す…?ぼくがこのへやに……)
「家賃も何もいらない。朔一人ぐらい余裕で養えるし」
(養えるって。僕も働いてるから生活には困ってないけど……)
「なぁ~~さく……」
心の中で侑星の言葉に返事を返していると、甘え切った声で名前を呼んで、侑星が朔をギュッと抱きしめた。
それに、ふと朔の中で昔の記憶が蘇る。
泣いている小さな侑星。
『なんで! なんで!? 朔と結婚できないの?』
そんな侑星を小さい朔は必至で抱きしめていた。
『男同士は結婚できないってママたちが言ってた』
そういう朔もうるうると目を潤ませ泣くのを必死に我慢していた。
『大きくなったら結婚しようね』と約束をしている二人を微笑ましそうに見ながら、侑星と朔の母親は言ったのだ。
『それは素敵だけど……男同士は結婚できないから残念ね』
初めて知った事実に、侑星と朔は打ちのめされていた。
『おれ……がんばる!』
『え?』
涙を堪える朔を侑星がギュッと抱きしめる。
『いっぱいいっぱい努力して誰よりも勉強ができるようになって、かけっこも早くなって、お金もいっぱいいっぱいつくる! そしたら朔をお嫁さんにしたいって言っても誰ももんく言えないでしょ?』
『ゆうちゃん……』
『だから待っててね、さく!』
そう言って朔を抱きしめる侑星に、朔は強く抱きつき返した。
それから本当に、本当に侑星は努力をした。
成績はいつもトップ。所属するバスケ部では小中高ともにエースでスタメン。大学は経済学部に入学し、在学中から企業でアルバイトを始め経済を実践で学び、投資の勉強も始めだした。一流企業にいち早く就職を決めたと思ったら、卒業と同時に車を購入した。そして一年ほど働いた後に、自分の会社と朔の会社に通いやすいという理由でこのマンションに住みだした。
完璧な侑星に、周りはいつも「さすが侑ちゃん!」「侑星なら当たり前」という言葉を送っていたけど。
朔は知っている。それがどれだけの努力の上に成り立っているのかを。あの約束を交わした日から、一番側でずっと見てきたから。
侑星が努力を実らせる度、その努力を純粋に尊敬し、すごいね!と言う朔を、いつも嬉しそうにそして愛しそうに侑星はギュッと抱きしめた。
「うん。住む……」
気付いたら勝手に口から言葉が零れ落ちていた。
「えっ……」
侑星が驚いたような声を出す。
「今…うんって言った……?」
自分で言っておいて驚くなんて、なんだか可笑しくて笑ってしまう。朔はもう一度、しっかりうんと頷いた。
「ここで侑星と一緒に暮らす。ずっと……」
「っ……朔」
朔の言葉に侑星は息を飲んで、そして次の瞬間嬉しそうに朔の名前を呼んだ。
顔を上げた朔の目の前に、侑星の笑顔が広がった。瞳を潤ませて、とてもとても幸せそうな笑顔の侑星が朔の瞳に映る。
心がキュンと締め付けられて、朔は侑星の胸に顔を埋めた。その体に強くしがみつく。すぐに温かくて大きな腕が朔を包み込んでくれる。
きっと今、侑星の腕の中にいる自分も、侑星と同じ顔をしている。
(なんだかとんでもないことを言ってしまったけど……)
抱きしめてくれる体温がとても心地いいから、細かいことは全部後から考えればいい。
「さく…すきだ、大好き…愛してる……」
(僕も昔からずっと…大好きだよ……)
繰り返される愛の言葉にそう答えて、朔は幸せに包まれたまま目を閉じた。
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