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薔薇の花束
「オウガ、俺はしばらく筋トレするけど、お前たちはどうする?」
「分かった、それじゃエフィ、僕たちはお茶にしよう」
「わぁ、いいね。ロン、そうしてもいい?」
「おう、しばらく鍛えるから楽しんで来いよ」
「エフィ、三階のカフェに行こう。誘ったんだから僕が奢るよ」
「えへへへ、ありがとう。オウガ」
金色の髪に金色の瞳をした僕はオウガ十五歳、濃い紫の髪と黒い瞳を持つロン二十二歳の養子だ。エフィは僕らの友達で最近知り合った、肩くらい金の髪に蒼い瞳を持っていてなんと十歳なのにアビスハンターをしているのだ。アビスハンターはとても危ない職業だ、骸骨に皮をはりつけたようなアビスという化け物は食人種でとても危険だ。
「ねぇ、ねぇ、オウガ。オウガはロンのお嫁さんなんでしょ、結婚って楽しい?」
「うーん、それがねぇ、エフィ。ここだけの秘密なんだけど……」
「なぁに?」
「僕とロンは確かに書類上、僕はロンの養子だけど恋人でも、奥さんでも無いんだよ」
「そうなの!? あっ、ごめん。大きい声だしちゃった。それじゃ、どうしてロンの奥さんだってオウガは言ってるの?」
「そうなって欲しいからっていうのと、ロンを狙うライバルが現れないようにね」
カフェでエフィはジュースを僕はカフェオレを飲みながら話していた。ロンは僕が十歳の頃から好きな人だ、最初は十歳の一目惚れだったと思う、でもロンは優しくていつしか僕は本当にロンが好きになった。この気持ちがいつからかは分からない、でもロンを愛していると間違いなく僕は言えた。僕の考えることはロンのことばかりだ、エフィとだってロンがエフィに目をかけているから僕とエフィは友達なんだ。
「ロンのことどのくらい好きなの?」
「他のものが無くなっても、ロンさえいてくれればいいくらい」
「一緒に住んでるなら、夜這いしちゃえば?」
「もう何回そうしたか分からないよ、ロンは一度寝ると危険が迫らない限り起きないんだ」
「うーん、うーん、それならどうしたらいいかなぁ」
「全く困ったことにね、僕もずっとそうやって悩んでいるんだ」
運が良いことにロンが言い間違えをしたおかげで僕たちは一緒に住んでいる、でも普通の男性のロンの性的興味の対象は女性で、男性である僕は色仕掛けすらできなかった。せめて僕がロンの奥さんなんだと家中の家事を勝手に僕一人でやって、僕たちが住む場所を整えて縄張りを主張するみたいにしていた。
「でも私ロンは絶対にオウガのこと好きだと思うな」
「本当? どうして? ただの養い子への好き?」
「どんな好きかは分からないけど、オウガのこと物凄く大事にしてるもん」
「まぁ、僕はロンの養い子でアビスハンターのパートナーだからね」
「絶対それだけじゃないよ、これは女の勘!! なにか切っ掛けがあればきっと!!」
「ロンが薔薇の花束を持って、僕に告白してくれるかな」
エフィは優しくて強い良い子だ、だからこうやって僕のことを慰めてくれる。あのロンが目をかけるだけはある、僕もエフィのことは女性だが友達として好きになった。女嫌いの僕にしては珍しくエフィはその例外だった、一生懸命にアルコール依存症の父親を救おうとしている彼女には、そのままエフィらしく元気に頑張って欲しいと素直に思えた。
「絶対にロンはオウガが好きだけど、薔薇の花束はまだ無理かも」
「一生無理かもしれないよ、あのロンが薔薇の花束を持って告白なんて」
「ロンには思いつかないだろうなぁ、オウガも結構乙女だね」
「僕はロンの前では乙女だし、ただの恋して震える少女みたいだよ」
「分かった、二人が恋人になったら、私がロンにオウガの夢を伝えておく」
「ふふっ、本当にそうなればいいな。それじゃ、そろそろロンの筋トレが終わるから戻ろうか」
僕はその時はエフィのいうことは夢物語だと思っていた、ロンが薔薇の花束を持って僕に告白なんてしてくれるわけがない、僕とロンはただ戸籍が一緒の養い子だ。でも僕はロンを諦めてはいない、いつどんな機会が巡ってくるか分からない、何かあった時はロンを絶対に逃がすつもりはなかった。それからしばらく何も変わらない日々が続いて、そして……
「エフィから聞いたぞ、俺はオウガが好きだ」
「……ロン、この薔薇の花束は僕のため?」
「もちろんお前のためだ、結構花屋で買う時に恥ずかしかったぜ」
「嬉しい、ロン。お願い、もう一度言って」
僕の為にロンが薔薇の花束を用意してくれて、僕は心の底から涙が出るくらい嬉しいという感情がわいてきた。僕の愛しているロンが、僕の為だけに用意してくれた薔薇の花束だ。元々女性が性的対象のロンだ、凄く綺麗な女性が現れて僕は振られるかもしれない、やっぱり男は無理だと捨てられるかもしれなかった。でも、今日、今、この時だけはロンは僕のものだ。
「俺はオウガが好きだ、お前だけが好きだよ」
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