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15:固定配信

 固定をやると決めたときの俺をぶん殴りたい。忘れていた、馬鹿なんだ、こいつは。 「ぜっとさんぜっとさん、まず俺を守ってぇ!?」 「守る意味ねーんだよ」 「ファイトなら勝てる! ファイトなら勝てるって! 俺を信じろ!!」  何でわざわざ安地外走ってるやつを俺が助けなきゃならない。別パに突っ込んでいってる馬鹿を放置して目の前の敵をやっているとヤカモレさんが「うるっせぇ」と延々と騒がしいマキを笑っていた。ずっと何か言ってる。聞いてられなくて流石に口を出す。 「お前まじで必要なキャリー要請しろよ、さっきの試合じゃ安地回って蘇生中のブデルとかち合って2対1で相手して落ちてんじゃねーか。必要なのはそういうときだろ」 「だって蘇生中の初期ブデが目の前居たら攻撃するって」 「それはいいんだよ、報告来て俺かヤカモレさんがキャリーしてたら繋がってたっつってんだよ、何で一人でやろうとしてんだ、ドームファイト舐めてんのか」 「今は!?」 「今はお前守る意味ねぇ」 「何で!?」 「なんっ……お前話聞いてるか!?」 「ね、も、わらっ、笑ってッ、画面見れな」  俺とマキのやりとりにひいひいヤカモレさんが笑い続ける。試合中に駄目出しするとアドレナリン出てるマキにやたら口答えされてヤカモレさんが笑い死ぬから出来るだけ控えてるんだが、まじでうるせぇからつい言ってしまう。試合終わってからまとめて言ったらそれはそれで鬼詰めしてしまうしな。おかげでついたあだ名が「教官」だ。こんな馬鹿を生徒に持つんじゃなかった。  ゲームをプレイ中はとにかく突っ込んで行くキャラしか画面に映らないからそういうbotか前にしか進めない猪にしか見えないんだが、実物はやたら顔がいいからタチが悪い。ムカついてもうこいつとやるのを辞めようと何度思っても配信画面でマキの顔を見るとフレンドを切れない。  初めて3人で飲みに行ったときも最悪だった。  マキは俺の姿を見た途端、「うわ~、想像通りのイケメンが来たぁ」と笑った。その顔がずっと頭から離れない。まいった。俺は想像以上だった。顔が良過ぎる。破顔してても顔が良いのが分かる。尻が切れ上がった涼やかな目元も角ばった輪郭もスッと通った高い鼻筋も男らしく線が真っ直ぐなのに、くっきりとした二重や黒々した長いまつ毛、本人の性格から出る柔らかい表情が万人にウケるように調整されている。これをイケメンと呼ばない人間はいない。見てられなくて不自然に目をそらしてしまった。俯いたら今度はシンプルなTシャツに浮き上がる筋肉と引き締まったウエストが目に入るからたまらない。目のやり場がない。タイプ過ぎる。この日は飲み過ぎてしまった。日本酒を水のように飲んで酔いが回ってようやく言いたいことが言えた。次の日の体調は最悪だった。  会うべきじゃなかった。ゲームをしている限りは声しか聞こえないからただの騒がしい突っ込んで行くだけのbotなのに、もう俺からこいつを切ることは出来ない。 「ごめんって! まじでぜっとさんうるさい~~~!」  試合後にマキに改めて鬼詰めしたら不満げに文句を言われた。 「文句があるなら上手くなれ」  そう告げると黙った。  しばらくしてマキとヤカモレさんは突然マスターを目指すと言って、俺を配信に誘わなくなった。

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