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 俺という人間は顔が良い。散々モテる。バレンタインや修学旅行といった告白イベントでは女子が列をなしていたし、通学路で他校の女子に待ち伏せされてたこともある。「気持ちを伝えたいだけだから」と男に告白されたこともあった。だからまあ、自分を好きな人間の挙動というのは大体分かる。それでいくとzh@は分かりやすい方だった。  言われてみれば本当にそう。むしろ何で今まで気づかなかった?ってくらい。差しで会うと照れてんのか全然目が合わないし、ちょっとそういうこと言うとむせちゃうし。最初に猫被ってたのも少しでも俺に好かれようとしてたんだと思えば……え、可愛くない?ガチじゃん。  頭良くてゲーム上手くてイケてる外資系エリート様は、たかが顔とノリだけで配信やって食ってる高卒無職の推し配信者にガチ恋してる。優越感がパない。調子に乗ってしまう。なんかもう、俺のこと好きなんだよね?じゃあ何言ってもいいじゃん、ってめちゃくちゃネタにしてしまった。zh@の好意を完全に利用して、zh@が否定出来ないことを良いことに好き勝手言った。3人で飲みに行ったときもそう。可愛い反応してほしくてやたらめったらちょっかいかけてたら楽しくて酔っちゃって、全然関係ないところで転んでzh@の上に乗っかった。そしたらzh@の胸に手が触れて酔いが冷めた。    だってあれ。  おっぱいだった。  女の子みたいに胸全体が膨らんでるんじゃなくて何ていうの、乳輪?乳首の周りにある色ついてるところ。多分そこがこんもり山になってて柔らかかった。山の真ん中がぷりぷり主張してたからそれが乳首だって分かった。男の乳首は普通もっと平らだ。あんな柔くないし、ぷりぷりしてない。だから気づいちゃった。この人、男に抱かれてる人で乳首開発してる人だ。体のラインが分かるような細身のトップスにジャケット羽織っただけでこんな性感帯晒しちゃって、大丈夫なの、すぐ触れちゃうんだけど。ブラとかつけるべきじゃない?男はブラつけないか。ニップレス?……スケベ過ぎるんだけど。もうそっからはエッチな考えが完全に頭の中に居座ってしまった。完全に下心で「家行っていい?」なんて聞いてしまった。一発やれると思った。男とやったことなんて無いけど、あの乳首となら酔いと勢いで全然やれると思った。そんな俺の浅い妄想がバレたのか、zh@にブチ切れられてキスされて唇切った。  あれから一週間、あのときのキスと乳首だけでずっと抜いてる。   「まーた喧嘩してんのぉ?」  ヤカモレさんが配信前にわざわざ話しかけて来たと思ったら、俺とzh@の確執について聞いてきた。実家手伝いが終わって戻ってきたヤカモレさんが早速俺とzh@をゲームに誘ったが、zh@に断られたらしい。 「ぜっとさんにブロックされてんの?」 「うん」 「早く謝んなぁ?」 「……何で俺が謝る側って分かんの?」 「どっちが悪いの?」  散々からかってちょっかいかけて、挙げ句部屋に上がり込もうとした。女の子相手でもこんなことしない。完全に俺が悪い。 「……俺」  全く事情を知らないヤカモレさんも何故か俺が悪くて当然と言わんばかりに「ほらぁ」と言う。いやそうなんだけどさあ。 「謝りたくても連絡とれねーんだもん」 「ディスコもラインも繋がんねーの?」 「うん」  あらゆるSNSで俺はzh@にブロックされていた。一言も会話できない状態だ。こうされたら俺には何も出来ない。こんな歳の離れたゲーム仲間との仲直りの仕方なんて知らない。今までは、同級生だったら次の日学校に行けば良かったし、地元の友達なら家に行けば良かった。でも俺はzh@がどこ住んでるのか知らない。ていうか本名すら。 「俺知ってるよ。ぜっとさんの名前と住所」 「え!?」  ヤカモレさんに愚痴ってたら、にやついたヤカモレさんにzh@との仲良しのマウントをとられた。 「米送ったもーん」  そういやそんなこと言ってた気がする。  てか、歳が近いからかzh@とヤカモレさんは普通に仲が良い。友達って感じだ。この間の飲み会でだって「ヤカモレさん、太った?」なんてzh@から笑顔で話しかけてた。 「え~、もう? 太ったように見える? 俺実家帰る度に肥えた言われるんだよね。肉体労働しに行ってるはずなのに」 「はは、飯が美味いんだろ」 「美味いよ~、うちの米、品評会とかに出してるブランド米だから。こっちでも高級店とかに卸してる」 「へえ、すごいな」 「送ろっか?」 「いいのか」 「いいよ。いいけど、ぜっとさんって自炊すんの?」 「しないな。炊飯器すら無い」 「米炊けねぇじゃん!」 「いや、レンジで炊くやつがある。多分百均で買ったやつ」 「あ~、はは、彼女が置いていったやつだ~」  zh@の高給取りのイメージからかけ離れた"百均"という庶民的な単語に、すかさずヤカモレさんが彼女の存在を揶揄った。zh@は「まあ、昔の」なんて濁して言ったけど、絶対違うと思う。彼女じゃねぇだろ、彼氏だろ。この人ゲイだもん。……いや、ゲイ、だよな?それかバイ?だって俺のこと好きみたいだったし、キスしてきたし。ただのイケメン好きじゃないだろ。  ゲイでもバイでも良いけど、そのどちらかではあって欲しい。 「……ぜっとさんち知りたい」 「言うと思ったけど教えないよ」 「だよな~!」  zh@の家まで押しかけて仲直りを迫ろうかと思ったけど、常識人のヤカモレさんに断られた。ヤカモレさんの性格上、本人の了解を得ない限り個人情報を他人に教えたりしないだろう。もどかしい。同じゲーム仲間なんだから俺にも名前くらい教えてくれといて良かったんじゃない?ヤカモレさんとのこの違いはなんだろう。何なヤな感じ。 「ゲームのフレンドは?」  俺が一人でモヤモヤしているとヤカモレさんが他の連絡手段を提案してきた。 「フレンドも切られてる? 見てみなよ」  言われていつもzh@とやってるFPSゲームを起動し、フレンドリストを表示した。いる。zh@の名前がいつものところで光ってる。 「え!? 何で」 「あーやっぱり。ゲームのフレンドブロック、あんま意味ないからなあ」  驚く俺とは対象的にヤカモレさんはうんうんと頷いている。 「このゲーム、ブロック出来るのチャットだけなんだよね。ブロック相手ともマッチングするから、野良やってると同じチームになったりすんのよ」 「えー、まじ? 気まずくない?」 「気まずいよね。特にぜっとさんってボイチャ開いたままやってること多いし」  英語が出来るzh@は野良のときもボイチャでチームメイトと話して協力しながらプレイする。流石に俺に対してのようにトロールした相手を説教したりはしないけど、危ない場面を相手に教えたり、蘇生に向かってる宣言とか、チームとしてあると嬉しい報告をする。zh@が野良にアーマー割ったときに言うやたら発音の良い「BREAK」を思い出した。 「マキちゃんともマッチングすること考えてブロックしてないんじゃない?」 「なるほど」  もうわざわざ待ち合わせて一緒にしたりはしないけど、たまたまマッチングしたら協力プレイはしてくれるつもりみたいだ。偶然マッチングする可能性なんてそう無いだろうけど、zh@とは最初に野良で出会ってるから0とは言い切れない。 「しつこくパーティ参加申請したら一緒にやってくれるかな」  パーティを組んだらボイチャで喋れる。 「俺申請しようか?」  ヤカモレさんがリーダーになってパーティを組むか聞いてきた。確かに申請主がヤカモレさんだったらzh@は参加してくるかもしれない。で、俺もしれっと同じパーティに参加してると。――それが一番喋れる可能性が高いんだろうけど、なんかやだ。zh@の本名も住所も知ってるヤカモレさんは俺と違ってzh@に避けられるなんて1ミリも思ってない。何でだよ。仲はそっちが良いんだろうけど、zh@が好きなのは俺だろ。俺が受け入れられてる感じがしない。 「いい。俺やる」  ヤカモレさんに頼ったら仲直りしても今まで通りだ。俺はzh@ともっと仲良くなりたかった。 「……でもやっぱ無理ってなったらお願いするかも」  そう言ったらヤカモレさんは笑いながら「おけ~」と返事した。

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