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7年前──第26話*

「こわい……」 「大丈夫、こわくないよ。橘がいい子にしてたらもう殴ったりしないから。いい子じゃなかったらわからないけど。優しくしてほしい?」  こくこくと何度も頷く。 「う、ん、うん……ッ」 「じゃあ、キスしてあげるから口あけて?」  口を開ける前に、食らいつくように唇を押し付けられた。 「ん──ん、んぅ……んむ」 「は、ぁ……橘のくちびる、リップより甘いね……八重歯も、こんなにちっちゃかったんだ」 「は……ァ、ふ」 「可愛いなぁ……もう。かわいいね」  舌をねじ込まれ、ちゅう、ちゅく、ちゅるぅ……と、絡みついてくる舌はしつこい。だらりとはみ出てしまった舌にさえゆるく噛み付かれ、また絡めとられた。 (口んなか、あつい。どろどろする……ぜんぶ、とけそう……)  顎を伝う唾液が気持ち悪い。でもそれ以上に、舌の根本をぬとぉっと擦られると、腰の辺りがゾクゾクした。奥の歯から前歯にかけてを順番になぞられ、八重歯をくにくにと弄られるのもたまらない。  頭の中が、ひどくぐらぐらした。  ちゅぷ……と糸を引きながら引き抜かれた舌を、名残惜し気に追いかけてしまう。  口の中がすぅすぅする。 「あ……」 「僕の舌、抜かれたくなかったの? しょうがないなぁ……口、開けててね」  くいと顎を引かれて、姫宮がその上に舌を伸ばしてきた。またキスされるのかと思っていると、姫宮の舌の先からとろりと、唾液が垂れてきた。 「……っ」  がっちりと顎を抑え込まれていたので逃げられなかった。しかも親指が強引に口の中に入ってきて、口を閉じられないようにされる。 「ぐ……」 「飲んで」  嫌だ。姫宮に舌打ちされた。 「飲めよ、橘……飲め」  ちょっとの拒絶で、姫宮は「怖い姫宮」になる。  結局、無味無臭の唾液を舌で受け止めざるを得なかった。  とろとろと喉の奥にたまった二人分の唾液をんく……と飲み下せば、姫宮が嬉しそうに笑った。そしてまた口を強制的に開けられ、同じことを何度か繰り返される。  熱い液体を舌の上で馴染ませ、従順に喉を鳴らし続けた俺に、姫宮はようやく満足したようだ。 「ふふ……僕の唾液、おいしい?」 「け、ほ」 「おいしいでしょ、おいしいって言って?」  ちゅ、ちゅ、と顔中にキスの雨が降ってきた。 「さっさと言えよ」  びくりとして、「おいしい」とか細い声を出せば、すりすりと頬ずりをされた。  口周りも涎塗れなのに、汚くないのだろうか。 「じゃあもっといいものあげるから、いい子にしててね」  そのまま、頭を深く抱えこまれた。 「う、ぁああ! 痛いっ」 「しー……橘、落ち着いて。しー……ほら、僕を見て」  奥を目指されながら、あやすようにまぶたに口付けられる。涙で滲んだ顔で姫宮を見上げれば、姫宮は嬉しくて仕方がないとでもいうように微笑んでいた。  赤らんだ頬は、まるでもぎたての林檎のようで。 「うん、そのまま僕を見てて。大丈夫だから、だいじょうぶ……ね?」  根拠のない「大丈夫」を繰り返しながら、姫宮はずるりと引き抜いては、挿入しやすい位置を探るためか、ぐりぐりと腰を推し進めてくる。 「ふ、うぅ、ぐ、う」 「もっと足を開いて。閉じちゃダメだ。そう、いい子だね……力を抜いて」  唇を噛みしめて、最後まで貫かれるまでの長い時間を、耐えしのぶしかなかった。 「っ……──ッ!!」  トンっと姫宮の恥骨が下腹部に当たり、ふっと意識が遠ざかった。

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