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18 俺が壊した……▶月森side

 一年のブランクを感じさせないほど、俺たちの距離はすぐに縮まった。そして、先輩が卒業する頃には、唯一無二の親友と言っていいほどに、絆はさらに深まったと思う。  俺の気持ちが、憧れから恋心に変わったのがいつなのか、自分でもわからない。  もしかすると、最初からだったのかもしれないとも思う。  男同士で恋愛感情なんてありえない。気のせいだ。ずっとそう気持ちを押し殺していた気がする。  俺は、中村先輩が好きだ。  そう認めたら、すごく気持ちが楽になった。  好きなんだから仕方ない。そばにいたいんだから仕方ない。そう自分に言い訳をして、就職先まで先輩を追いかけた。内定をもらった時には歓喜で震えた。  高校では二年、大学では三年、必ず別れがやってきた。でも仕事は違う。どちらかが辞めない限り、ずっと一緒だ。もうずっと先輩のそばにいられる。 「お前、そんなに俺のことが好きなのか?」  内定を伝えに会いに行くと、また呆れた顔で開口一番にそう問われた。  先輩のことだから、どうせ揶揄(やゆ)ってそう言うだろうと覚悟していたから、平静を装うのは難しくなかった。 「目指す業種が先輩と同じだったんで。なら一緒のほうが楽しいかなって思って」  余裕で笑って見せると、「あっそ」というそっけない返事が返ってくる。  声色は普通だ。なんだ……もっと喜んでくれるかと思った。ここまでくると、さすがにウザかったかな……。  そうガッカリした時、「内定祝いだ。飲みに行くぞ」と頭をくしゃっと撫でられた。先輩の口元が緩んだように見えて、俺は思わず硬直した。  笑ってる……?   笑ってる気がする。  見間違いじゃないと思う。  この先もまた一緒にいられると喜んでるのは、俺だけじゃないと思ってもいい……?  たとえ友達としてでも、きっと先輩も喜んでくれてる。  先輩が口元をぎゅっと結び、背を向けて歩き出した。  今、緩んだ口元を隠したように見えた。  違う? 気のせい? 都合のいい思い込み? 「おい、何してんだ。早く来い」 「あ、は、はいっ」  慌てて先輩を追いかけた。  今度は、俺の口元が緩んで仕方なかった。  実家を出るための部屋を探す際、先輩が仕事帰りに思わず寄りたくなるくらい職場に近いところを探した。あわよくば入り浸ってほしくて……いや「余ってるならここに住んでいい?」と言ってほしくて、わざと二部屋あるところに決めた。  先輩が俺の思い通りに同居を決めたときには、可愛くて悶絶しそうになった。バレたらヤキが入ると必死で平静を装うも、先輩が寝たあとベッドで悶えた。  幸せだった。後輩として、友達として、親友として、ずっと一緒にいられればそれだけで幸せだと思ってた。  あの日、先輩が突然女性を俺に紹介しようとするまでは……。 「同期の奴がお前を紹介しろってうるせぇんだ。まあちょっと気の強い奴だがいい奴だぞ? 今週どっかで二人で飲みにでも――――」 「それ、断ってください」 「は? なんでだよ。一回くらいいいだろ」 「先輩は……俺がその人と付き合えばいいって思ってるんですか?」  先輩が俺と同じ気持ちだなんて期待はしてなかった。してなかったのに……胸がえぐられたように痛くて苦しい。 「ああ、結構合うと思うぞ。お前はマスオさんタイプだから、ああいう気が強いくらいの女のほうがいいんだよ」 「…………」 「おい、月森? なんだよ、そんな顔して」  「…………」 「なに、もしかして他に好きな女でもいたか?」  なんだよそれなら教えろよ水くせぇな、と目尻を下げて俺の頭をくしゃっとする。  先輩の笑顔なんて、たまのたまにもらえるご褒美なのに、こんなときに笑顔をくれる先輩に堪えきれなくなった。だからつい勢いで、俺が好きなのは先輩だと伝えてしまった。  一生伝えるつもりはなかったのに。ずっと友達のままで満足だったのに……。  俺が自分で壊してしまった……。  先輩が事故で記憶喪失になって、これでまた一緒にいられると自分勝手に喜んだ俺への罰だ。  先輩がはっきりと思い出した最初の記憶が、よりによって俺の告白だなんて……。  これで、全て終わり。  先輩はもう、ここには戻ってこない。  でも、先輩は俺と友達でいることまでやめようとしているんだろうか……。  事故に遭う前の先輩は、週末に出ていくと言って荷物をまとめながらも、いつも通り接してくれていた。変わらずお弁当も作ってくれたし、嫌われたわけではないと思う。ただ、一緒には暮らせない、と言われただけだ。  それなら、今の先輩だってきっと同じはず。冷凍庫に満タンの作り置きだって、全部俺のためだった。昨日からずっと俺のためにキッチンに立ち続けてくれたんだ。きっとまだ、嫌われてはいない……。  だったら俺は、先輩に拒否されない限り友達でい続ける。好きだとバレても嫌われていないなら、これまで通り先輩のそばにいたい。  友達としてでもいいから、そばにいたい。  いいですよね……先輩。  お願いだから「いいよ」って言ってください。  言ってくれますか……?  

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