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34 貞操の危機?!▶月森side ※

 緊張でカチコチになっている俺を、先輩はクッと笑ってどこか楽しそうに服を脱がせ愛撫する。  俺どうなっちゃうのっ?!  後ろなんて何も準備してないけど……っ!  あまりに突然で覚悟が決まらず脳がテンパっていたから、先輩の愛撫にどこか既視感があることに、俺はしばらくしてからやっと気が付いた。  もしかしてこれ……昨日の俺と同じ流れじゃ……。  俺の身体中にキスを繰り返す先輩に、吐息をもらしながら昨日を思い出してみた。  うん、絶対そう。服を脱がす前からそうだ。愛撫の順序が昨日と同じだ。  キスの仕方もタイミングも、身体を撫でる手や指の使い方にも既視感がある。  先輩の手が、焦らすように中心のソレに触れずに周りを撫で、やっと触れたと思った瞬間に口の中に……。 「ぅ……あっ……」  ほら、やっぱり昨日と同じ流れだ。  先輩……可愛い。たまらなく可愛くて顔がにやける。  本当に昨日が初めてだったんだと、まさかこんな形で実感できるなんて幸せすぎる。  そしてやばい。俺のものが先輩の口の中に……っ。  一生懸命に俺のものを咥えて顔を上下する先輩が、もう愛おしくてたまらない。頭をそっと撫でると、先輩は上目使いで俺を見て目で笑い、ゆっくりと舐め上げながら口を離した。 「覚悟はできたか?」  唇に軽くキスを落とし、口角を片方だけ上げてそう言いながら、ローションの蓋をパチンと開ける。  そうだ……このあとは後ろだ。  昨日は『先輩はどっちがいいですか?』と聞いておきながら、全然覚悟ができていなかった。俺が抱きたいと言えば、先輩は「いいよ」と言ってくれる気がしてたんだ。  ずるいな……俺。 「覚悟……できました」 「へぇ。じゃあ遠慮なくもらうぞ」  ああ、本当に覚悟しなきゃ。  俺は静かに目を閉じてその時を待った。  でも、なかなかその時がやってこない。しばらく待っても、後ろにローションが塗られることも、指が入ってくることもない。  不思議に思って目を開くと、全裸で俺にまたがった先輩と目が合った。クッと笑いながら俺のものにゴムを被せ、手を添えて先輩の後ろにあてがう。 「えっ?」  先輩が抱くって言ったのになんで?! 「……っ、ぃ゙……っ……」  俺の先端が先輩の後ろにぐっと押し当てられ、先輩が痛そうに顔を歪める。  ハッとした。何も準備しないで入れたら……っ!   「先輩! だめです! まだ入れちゃ!」 「は……っるっせぇ、だまれ」 「だめ! 怪我しちゃうから!」 「いいから動くな……今日は俺がお前を抱くんだよ」    ああ、先輩の『抱く』は、主導権を握るって意味だったんだ。  抱くか抱かれるかで言えば、昨日までの先輩と同じように『抱かれる側』を選んだんだ。  事故のあとの先輩を見ていて、本当の先輩はこちらなのかなと感じていた。記憶を失って穏やかになった先輩を見ていると、本来の先輩は穏やかな人なんだと思う。優しく笑う先輩を見るたびに、俺と出会う前に何があったんだろうと心配になった。  その何かのせいで変わってしまったのかもしれない。だからずっと気を張って無理をしていたんだろうか、そう感じていた。  それなのに、『俺が抱くって言いそう』なんて俺が言っちゃったから、イメージを守るために主導権を握ろうとしているのかもしれない。   「先輩」  絶対に痛いのに、まだ無理をしようとする先輩の腕を引いて、俺の胸に倒れ込んだ身体を抱きしめた。 「あっ、おい……っ。もう少しで入ったんだぞっ」 「まだだめですってば」 「なんでだよっ」 「無理しちゃだめです。俺がちゃんと準備しますから」 「そ……それが恥ずいから嫌なんだっ」 「どうして? 昨日の先輩、可愛かったです」 「き、昨日のは忘れろっ」 「忘れません。だって昨日までの先輩が、本当の先輩……ですよね?」 「……っ」    カマをかけると先輩が黙り込む。ほら、やっぱりだ。昨日までの先輩が本当の先輩なんだ。 「もう俺の前では無理しないでください。素直な先輩、可愛くて大好きです」 「……っ、っるっせぇだまれ……っ」 「はい、黙りますね」  くすっと笑うと胸をドンと殴られた。  でも、先輩は否定しなかった。それって認めたってことだよね。  先輩がまた無理をしないようにと、俺は急いでローションを手に取り、先輩の後ろにそっと塗った。  ビクッと身体を揺らし、先輩の口からわずかに吐息が漏れる。  ゆっくり優しく指を入れると「ぁ……っ」と今度ははっきりと声が漏れた。   「可愛い」    思わず口にした俺の胸を、またドンと殴ってくる。  本当に可愛い。やばい。  素直になりきれない先輩が、本当に愛おしくてたまらない。   「て……適当でいいから……早くしろ」 「だめですよ、もっとちゃんとトロトロになるまで」    またドンと殴られた。  殴られるたびに、俺の顔はゆるゆるに緩んでいく。   「それ、可愛いだけなんですけど」 「だまれ……って……ぁっ、そこやめ……っ、ん……っ」 「殴った仕返しです」 「……月森のくせに……生意気、んっ、……ぁっ」    強がる言葉なんてもう言えなくなるくらい、俺は先輩をドロドロに溶かした。  

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