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ひとつに還ろう。

 子供の頃から、何をするにも一緒だった。  兄が体調を崩せば、俺も何となく具合が悪くなった。  一卵性双生児。  元はひとつだった命が、ふたつに分かれて生まれてきた俺たち。  小さい頃は親もよく俺と兄を間違えていたし、二次性徴期を終えた今でも、親と親しい友人以外にはよく間違えられる。  一番分かりやすいのは、兄貴には泣きぼくろがあって、俺にはないことかな。  あとは、ヘーゼル色の目も、染めなくても明るい栗色の猫っ毛も、日焼けしても黒くならなくてすぐ戻っちゃう色白の肌も、ちょっと痩せ形で骨が太いとこも全部一緒。  身長は俺の方が2cm高いけど、並んでもほとんど分からないと思う。  体格もほとんど一緒だから、よく服の貸し借りなんかもしてる。 「柊馬(とうま)!」  高校に進学した今も、行き帰りは一緒。  よく周りからは気持ち悪いと冷やかされるけど、俺たちにとってはそうするのが自然だから。 「壮馬(そうま)、ごめんごめん。待った?」  今日も兄と一緒に家に向かって歩く。  さすがに部活は別れたが、終わりの時間は一緒だから問題ない。  兄の柊馬は陸上部、俺は演劇部。  ちなみに、兄って言っても普段は名前でしか呼ばない。  柊馬は親友で、家族で、それから…恋人。  最後のは、親も、友人も知らない。  もちろん、柊馬も俺も、こう言っちゃなんだけど割と見た目がいい方だったから、小学校から中学にかけて、それなりにモテてきたし、何人か付き合った女の子もいた。  俺の初体験は中学2年の時だったし、柊馬もその辺り。  でも俺は、彼女よりも柊馬と遊んでいる時間の方が楽しかったし、彼女のことをいつもどこかで柊馬と比べてた。  その意味が分かったのは、中3の冬。  受験勉強でなかなか会えなくなった彼女と、自然消滅みたいにして終わってから、何だかホッとしたのをいまでもよく覚えている。  柊馬と俺が同じ高校に行くことは、何も言わなくても当たり前だったから、その冬はずっと2人で過ごした。  同じ塾に行って、塾が休みの日は2人で図書館に行って。 そうやって小学校以来久しぶりに毎日2人でずっと一緒にいることが、すごく自然に思えて、誰といるより楽しいしほっとするし癒されるし、何でもっと早く、こうしなかったんだろうって思った。  そうか、柊馬だったんだ。  俺の隣にいるべきなのは。  これからは、柊馬といたい。  そう思った。  柊馬も同じだったって、俺には分かる。  だけど、それ以上の関係になるには、ちょっとハードルがあった。  俺も柊馬も、お互いに抱いてる感情が恋愛のそれだって気づくのには、少し時間がかかったから。  でも今は、お互い以外考えられない。  世界一可愛くて、優しくて、俺のことを一番に理解してくれるひと。  誰もいなくなると、手を繋いで歩く。  柊馬の体温がたまらなく愛おしい。  早く、誰も見ていないところに帰りたい。  家に帰ると、靴を脱ぐのももどかしく、部屋へと駆け込んだ。  共働きの両親は昼間はいないが、母親は夕食に間に合う時間に帰ってくる。  母親が帰ってくるまでのわずかな時間だけが、俺たち2人のものだった。 「ン……ふ、」  唇を奪い合うように重ねる。  自分と同じ顔をしたこの存在が、たまらなく欲しい。  学校の授業でナルキッソスというのを習ったが、そいつの気持ちならよくわかる気がする。  自分の顔が好きだなんて気持ち悪いと思ったが、自分と同じ顔をした柊馬のことがこれだけ好きなんだから、俺もそう変わらないだろう。 「ゃ……壮、馬っ……先、シャワー、させて……」 「やだ。俺は柊馬の匂いが好き」  わざと首筋に顔を埋めて、ふんふん匂いを嗅いでやると、柊馬が耳まで真っ赤になった。  死ぬほど可愛い。  最近の悩みは、柊馬をついつい虐めすぎてしまうこと。  泣かれるまでやめられないのは、少々やりすぎだと自分でも思っているんだけど、やめられないんだ。  好きな子ほどいじめたくなる、というのをこの年になってようやく実感した。  これまで好きだった子や彼女のことは、好きに入らなかったんだな、と思う。  彼女たちには申し訳ないけど。  もつれるように、柊馬を抱えてベッドに転がり込んだ。  狭いシングルベッドに育ち盛りの男子高校生2人が乗るのはさすがに無理があるんだろう、安いスプリングが悲鳴を上げる。  シャツのボタンをプチプチと外して、アンダーシャツをまくり上げる。  脇腹を舐め上げると、少し塩辛い。 「ぁ……っ」  ピク、と柊馬が反応してくれる。  滑らかな肌は触っても舐めても心地良くて、いつもしつこく撫で回して舐めたり噛んだりしてしまう。  でも、まだこんなのは最初のイタズラ。  柊馬が一番弱い乳首は、じっくり焦らしてから、そっと触れるか触れないかのタッチで刺激してやる。 「……ひぁぁっ……ゃ、ぁンン!」  ビクビクと震え、背を反り返らせて柊馬が悶える。  胸を突き出すような格好になっているのが余計に淫らで、俺も腰にカッと熱が集まるのが分かる。  腕をシーツに縫いとめて、尖らせた舌でツンツンと突いてやると、だんだん色づいて紅くぷっくりと勃ち上がるのが何ともいやらしい。 「ぁ、っや、そんなっ、に、したら、やだぁ……っ!」  溶け落ちそうに甘い声で、柊馬がイヤイヤをする。 「俺には「もっとして」って言ってるように聞こえるけど……?」 「ちが、っ、ひぁ、ふぁああッン!」  ……正直、こんなに可愛くて感じやすくてエロい柊馬を、陸上部なんて狼の群れに入り込んでいくのを許したのは俺の痛恨のミスだ。  汗に濡れる柊馬の素肌をどれだけの男が舌舐めずりをして見ているかと思うと、自分の台詞も飛びそうになることがある。  中学の時から足が早かった柊馬にとって、インターハイ常連のこの高校の陸上部は憧れだったらしい。  俺は汗臭いスポーツには興味がなかったから、残念だったけど柊馬と同じ部活は選べなかった。  演劇部は、いくつか勧誘を受けた部活の中から消去法で決めた。  初めてみたら結構面白くて、今は結構真面目に練習に顔を出しているけど。  散々嫌だと言われ、その声が泣き声まじりになってきた頃、俺はようやく、赤く腫れ上がった柊馬の乳首を解放した。  俺ももう腹の中で暴れる欲望を抑えておくのは限界だった。  俺がベルトを緩めてズボンを脱いでしまう間、柊馬も自ら脱いでいく。  その様が柊馬も欲しがってくれているのを表しているようで、たまらなく気持ちが高ぶる瞬間だった。  俺たちは、まだ挿入まではしたことがない。  やり方は何となく知っているけど、柊馬を怖がらせたくなかったってことと、そもそも準備や後始末を入れるととても時間が足りなかった。  バイトしてる奴らはその金で彼女とホテル行ったりもしていたみたいだけど、俺はそんな時間があるなら、何もできなくても柊馬と一緒にいたかった。  ——大学へ進学したら、柊馬と一緒に2人で暮らす。絶対に!  これが今の俺の望み。  シャツだけを引っ掛けた格好で俺は柊馬の上に跨り、期待に震える柊馬の屹立と、自分のものをひとまとめに握って擦り始めた。 「ぃあ……ぁん、そ、ま……気持ちい…は、ぁっ」  柊馬は目をギュッと瞑って俺にしがみつき、ただひたすら与えられる快感に耐えている。  可愛い。  俺はたまに柊馬の耳や首を噛みながら、できるだけゆっくり高みを目指す。  なるべく長く、感じる柊馬を見ていたいから。 「……っふ……んんっ……あ……っんぅぅ……そ、まぁ……」 「ん……? 柊馬、気持ちい?」 「ぅん……ぃい……ぁうっ……気持ちっ……」  鼻にかかった声で甘く啼いてくれる柊馬に、思わず頬が緩む。  ビクビクと跳ねる身体に、パンパンに張った亀頭。  上下に擦るたびに、どちらのものか分からない先走りで濡れた音が上がる。  そろそろかな、と感じた俺は、ゆるゆるとした動きから、両手を使って先端と根元を同時に責めて追い立てることに集中する。 「ぃや、ぁ! ぁああ、だめっ、ひゃあん、んんっ、やぁああ……!」  柊馬の声が高く悲鳴のように変わる。  俺ももう限界だ。  2人でほぼ同時に達して、白濁が噴き上がる。  はっ、はっ、と2人分の息が部屋に響いた。  くったりと俺にもたれかかる柊馬が愛おしくて、ティッシュで手を拭うと頭をポンポンと撫でてやる。  ちょうどそのタイミングで、表で車の音がした。  2人で目を見合わせる。  母親だ。  手早く汚れを拭き取ると部屋の窓を開け放ち、何事もなかったかのように部屋着に着替えてリビングに急いだ。  こうして、俺たちの1日は今日も平和に過ぎていく。

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