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1、プロローグ

『はるにい、すきだよ。だーいすき』 『ありがとう。俺も嬉しいよ。俺も陽介(ようすけ)のこと好きだよ』 『本当?うれしい!じゃあ僕が迎えに行くまで誰のものにもならないでね』 『うん、待ってるよ…陽介』 「晴兄(はるにい)ぃ…好き…あでっ!…イッテェ…はっ…晴に…って夢か…」 俺は頭を摩りながら起き上がり、床に落ちた布団と枕を拾った。 晴兄の夢を見たってことは、またこの季節が巡ってきたのか。 桜が咲くこの季節はいつも晴兄の夢を見る。 小さい頃の晴兄との約束の夢。 お互いが好きだって言い合って、抱き締めて、幸せだった。 俺はその頃まだ第二性についての授業を受けてなくて何も知らなかった。 だから無意識のうちに晴兄にPlay(プレイ)のようなことをしてしまっていたらしい。 もちろんCommand(コマンド)なんて知らない幼稚な子供だ。何も考えず、ただ内から湧き出る熱い感情に身を任せて言葉を発していたに過ぎない。 晴兄が姿を消して気付いた。なんて愚かなことをしたんだろうと。 知っていれば、俺たちは離れ離れになることもなく、今でも晴兄と隣同士の幼馴染以上の関係になれていたかもしれないのに。 あの日の後悔を俺はずっと埋められないまま、俺は高校3年の春を迎えていた。 ――もう8年だよ、晴兄  晴兄と離れ離れになって8年。長い時間だった。その間も俺の心はずっと晴兄を求めていた。  忘れようと思ったこともある。本当はSub(サブ)という第二性を持った人なら誰でも良いんじゃないのか。そう思って別のSubとPlayをしていた時期だってあった。でも俺の心は、身体は満たされなかった。  渇ききった俺を埋められるのは晴兄だけだと、思い知らされるだけだった。  あと1年で俺は自由を手に入れる。そうしたら晴兄を探しに行くんだ。  親には「晴兄は病気の療養で遠くに引っ越した」とだけ説明されたけど、俺と引き離すためだったと、俺は考えている。  自由に行ける場所が広がれば、いつか絶対会える。俺は晴兄のこと運命だと思ってるから、絶対に巡り会えるって信じている。 「陽介、早くしないと遅刻するわよ」 「はーい。今行くー」 母さんに呼ばれ、俺は勢いよく階段を駆け降りたいつのも朝だった。そう、何の変哲もない朝だった。 しかし俺たちの止まっていた時間はゆっくりと確実に動き始めていた。 この1年が俺の人生を一変させる。 この出会いは偶然か、それとも必然か。 あの日止まった俺と晴兄の時間が音を立てて動き出す――

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