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3、確認 後編

俺は甘やかすように晴兄の頭を撫でた。すると晴兄はあっという間にSub space(サブスペース)に入ってしまった。 「き…きもちい…」 「そうだね、でも今はお仕置き中。ご褒美が欲しかったら続きを早く話して」  晴兄は涙を流しながら、気持ち良さそうな顔で続きを話した。もう最後の方は鼻水もすごくて、顔はぐちゃぐちゃで、しゃくり上げながらも嬉しそうに話し続けていた。  晴兄の話を聞いていくにつれ、俺は絶望でしっかりと晴兄を見れなくなっていった。  あの日、フェロモンが漏れ状態で、Dom(ドム)を刺激してしまい、廃工場に連れ込まれ、無理やりPlay(プレイ)をさせられ、性行為までさせられた。  ずっとSub spaceに入っていたせいか、見つかった頃には精神も崩壊しかかっていて、身体中の骨も何本も折れていた。手足の付け根は何度も切られたせいで、かなり酷い傷があるらしい。  一命は取り留めたが、自分のせいで、関係ないDomを犯罪者にしてしまった。しかもそのDomは…晴兄の友人だったそうだ。  「優しくていい人」と言う晴兄は本当にその人を思っているようだった。  こんなことにあったなんて俺が知ったら、自分のせいだと俺が気に病むだろうと、晴兄は思ったらしい。  これをきっかけに自分のSub(サブ)としての性質は、被虐嗜好が強いと確信した晴兄は、自分の大切な人をもう犯罪者にしたくはないと思い、俺の前から姿を消した。  これが、晴兄が自分の気持ちを抑え込むようになった理由… 「俺のせいで…晴兄が…」 誰も晴兄がこんな目にあっていたなんて教えてくれなかった。俺は勝手に自分が第二性を知らなかったせいだと、だから完璧に制御できるようになれば、また一緒にいられると思っていた。  実際第二性を知らなかった俺が悪いのだけれど、俺は想像以上に残酷な現実を突き付けられた。そして自分が怖くなった。 「ごめん…晴兄…俺のせいで辛い思いさせて…晴兄のせいじゃないよ…Good Boy(いい子)…苦しかったよね。話してくれてありがとう」  俺は精一杯褒めて、頭を撫でて、優しく抱きしめた。 ――俺の、最上の愛を晴兄へ…  晴兄は嬉しそうに笑っていた。撫でていた手に自ら寄ってきて自分を擦り付けてきた。その仕草が可愛くて、俺の庇護欲を満たされていく。こんなに満たされたのは8年前以来だ。  願わくばずっと晴兄とこうしていたい。晴兄とパートナーになりたい。  だけど俺が近くにいると晴兄はずっと自分を責め続けてしまうんじゃないのか。そう思ったらどうしたらいいかわからなくなった。 「俺に撫でられるの、気持ちよかった?」 「うん…こんな気持ち初めてぇ」 「よかった…」 「ご褒美…キス…して…」 晴兄は俺に擦り寄りながら顔を近付けてきた。  Sub Spaceは信頼の証。晴兄は昔の記憶のまま、無意識に安心して、信頼してくれたのに、俺は合意なしにCommand(コマンド)を使った、最低なDomだ。 ――ごめんね、晴兄。今日が最後。最後にするから。だから今だけはキスすること、許して。  大好きな晴兄との初めてのキスは塩っぱかった。  嬉しいはずなのに、心は痛くて、寂しくて。気持ち良さそうにしている晴兄を見ると、胸が締め付けられて苦しくなった。  晴兄は俺を守りたくて離れてくれたのに、不用意に近付いたせいで、俺は晴兄を傷付けた。  晴兄の心も身体もずっと欲しかったものなのに、自分の過ちで手の届かないところに行ってしまった。そう思ったら自然と涙が溢れてきた。 「陽介…泣いてるの?悲しいことあった?」 「違うよ…これは嬉しいんだよ…晴兄とキスできて嬉しいんだ…」 「そっかぁ…俺も嬉しいよ、陽介…ちゅっ」 ――最初で最後の好きな人とのAfter Care(アフターケア)は、笑えるほど惨めで、滑稽だった。

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