31 / 35

24、思い出の星空 ①

 気持ちいい風を感じる。俺、寝る前に窓でも開けたっけ。あ、でもベッドは硬くてジメジメしてるな。というか俺、いつ家に帰ったんだっけ。  俺はゆっくりと目を開けた。 「え…どこだここ…」 そこは自分の部屋でもなければ、陽介の部屋でもなかった。 「なんで森にいるんだ…」 わけが分からず驚いて起き上がると、下からは人の呻き声が聞こえてきた。 「な、なに…やだ…」 俺は驚きに加え、何かが下にいる恐怖からまた目を瞑った。  俺の下にいるのは人なのか、それとも人じゃないのか、それを確認して安心したいのに、俺には目を開ける勇気はなかった。  暗くて怖いし、下からは呻き声が聞こえてくるし。それに俺はどうしてこんなところで寝ていたんだ。確かに俺は学校にいたはずだ。陽介も一緒にいて… 「そうだ、陽介…」 さっき一瞬周りを見た時、陽介の姿はなかった。その事実が俺を一気に不安にさせた。  陽介は俺を1人残して帰ったのか?俺があの時、陽介を怒らせたから、嫌になって帰ってしまったのだろうか。 「いや…置いてかないで…離れてかないで…」 俺が勝手に気を失って、陽介の問いに応えられなかったのがきっといけなかったんだ。俺が悪いのは分かってるけど、それでも隣にいてほしい、いてほしかった。  勝手に溢れ出す涙が抑えきれず、俺は無意識に下にある布を掴んで泣きじゃくった。 「俺は…陽介のモノだろ…置いてくなよ…」 言えば言うほど、寂しくて、悲しくて、心が抉られるように痛かった。  周りを気にする余裕なんてもう俺にはなかった。だから忘れていた。下に何かがいることを。  そのさっきまで動かなかった下にいる何かが、急に俺の腕を掴んできた。その手の強さが痛いくらい強くて、俺の恐怖はさらに増した。  それと同時に、その痛さにさえも、俺は興奮した。嫌になるほど浅ましい本能だ。 「いや…離して…陽介…助けて…」 掴まれた手を振り解こうと、俺は力の限り腕を振り回した。それでも力の差は歴然でどんなに頑張っても、全く解ける気配がなかった。  その力はもう人間のそれとは違うように強く感じるものだった。そう認識すると俺の恐怖心は最高潮に達した。 「お…お化け…ご、ごめんなさい!勝手に踏み入ってごめんなさい…踏んでごめん…なさい…」 俺はわけも分からず、必死に謝った。謝って、早くここから去らないと。そう思うのに俺は腰が抜けて立つことができなかった。 「お化けじゃないから、晴兄落ち着いて」 「やっ…ごめんなさっ…」 「Shush(静かに)」 「んぐっ…んんっう…」 なんでお化けのCommand(コマンド)なんて、そうじゃなくても陽介以外の命令なんて聞きたくないのに。  俺は気が動転して、落ち着くことなんてできなかった。動く限り身体を動かして、手を振り回した。 「イッ…嫌なのに…Stop(動くな)」 無理やり暴れた結果、動くことさえも止められてしまった。  何もできなくなった俺は、なすすべなく閉じた目をさらに硬く瞑った。  下にいる何かが、ゆっくりと俺の腕から手を離し、俺の下から抜け出していく感覚がする。それから俺の前に座り直した、生暖かい気配がした。  これから何をされるのだろうか、恐怖に喉を鳴らしながら、俺は触れてくる手に怯えるしかできなかった。 「目、開けて、ちゃんと確認して、晴兄」 そう言われて俺は自分の思いとは裏腹に、閉じた目をゆっくりと開けた。

ともだちにシェアしよう!