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第3話
テーブルを挟んで向かい合うように座ると男はリラックスした様子で頬杖を付き少し顎を上げておもつろに口を開いた。
「君…面白いね。あ、こんな事言ったら失礼かな」
少し厚めの唇の口角を上げてふふ、と柔らかく微笑んで続けた。
「いきなり付き合うとかはちょっとアレだけど、友達になら喜んで」
そう言って体格に見合った大きな手を差し出し正面から俺に視線を寄越す。
俺も真っ直ぐにその瞳を捉え同じように右手を差し出しその手をゆっくりと握った。
「よろしく。俺は中黒友仁(なかぐろともひと)」
「俺は香束郁弥(かづかいくや)。…改めると何だか照れるな。…って、もういいだろ」
握っていた手を強く引かれて温もりが離れ、俺の指は名残惜しく宙を掴んだ。
つい離すタイミングを逃してしまった。
…というよりどちらかというと離したくなかった。
「ねえ、中黒っていつもそうなの?」
「そう、って?」
香束は俺から視線を逸らし前髪を指先で弄る。
「…その、…えっと…友達作るの好きな人?」
「···いや、特には」
「あ…そうなんだ」
何が言いたいのかよくわからないが、俺は香束の逸れて行く視線を気にもせず少し冷めてしまったコーヒーに口を付けた。
ふと思い出したのはあのパフォーマンス。
「香束、さっきは随分と派手に転んでたな」
「な!おい、恥ずかしいから言うなよ」
口を少しへの字にして俺をキッと睨む。
いいね、その顔。
ゾクゾクする。
あわよくば…もっと見たい。
「おっちょこちょいなの?」
「違…うー…違わないか」
俯いて髪を掻きあげ体を丸める。
「…あの会場に友達がいたんだ」
「同じ大学のやつか?」
「そうじゃなくて…しばらく会うことがなかったから話したかったんだけどタイミングが悪くて…俺より先に出て行ったから慌てて飛び出したらカーペットに足を引っ掛けて…かっこ悪ぃ」
「転び方は見事だったし、多分俺しか見てないから·····まぁ大丈夫だろ」
「気楽に言うよな。でもあのタイミングで追いかけても間に合わないのは分かってたけど…話したかったから…だから…さ」
香束は急に寂しそうな顔をして、それからドリンクの蓋を指で弾いた。
「大切な友達なんだな」
「ああ、凄く」
そう言った香束の顔は今正面にいる俺なんか見ていなくて、どこか遠い所に想いを馳せているようだった。
チリッと胸が痛む。
なあ、目の前の俺を見ろよ。
今話してんのは俺だろが。
急にそんな思考に囚われて驚いた俺は慌ててドリンクを口にした。
「熱ッち!」
少し冷めたとはいえ急いでカップを離しても保温性の高いカップが仇となって舌先が熱でが痺れヒリヒリする。
「大丈夫か?良かったら水飲めよ。まだ口つけてないから」
心配そうに香束から差し出された水を口に含み患部を冷やすが時すでに遅し。
熱を持った痛みがあり火傷したのは間違いない。
「サンキュー。水なんか用意して薬でも飲むのか?」
「いや、そうじゃないんだけどね」
そう言って香束はまたちよっと遠くを見るような目をして笑って見せた。
暫く自己紹介のような雑談をした後MINEを交換しそのうち会うという約束を忘れずに取り付けて俺達は別れた。
駅に向かうのかと思ったが、用事があるからと言って駅とは反対側に歩いていった香束。
あいつが働くのならあの会社に入ってもいいかな、なんて事を考えながら俺は地下道に続く階段を降りていった。
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