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第3話 犬もたまにはやり返す
「抜く、だけって、言った、くせにぃっ」
「そう言ったのはおまえだ。俺は相手をすると言ったはずだが?」
「ひぃっ」
小さいながらも必死に勃起しているペニスを左手で擦ると、小柄な体がおもしろいようにビクンと跳ねた。ペニスで感じさせながら、アナルに突っ込んだ右の人差し指と中指をグチュグチュと動かす。
(そろそろいいか)
発情期だからか思っていたよりも早くほぐれた。それとも猫だからだろうか。
猫は俺たち犬よりも体が柔らかい。だからといってこんな場所まで柔らかいとは思えないが、人差し指と中指を広げても痛がる様子はなかった。それどころか濡れた中が指に纏わりつくように動いている。
「も、尻、いじるなってっ」
うつ伏せで尻だけ高く上げたまま涙目の顔を向けてくる。小さいながらもしなやかに反る背中と、それを遮るように揺れている白と黒の尻尾に思わず口を開いていた。
カプ。
揺れている尻尾の先端を甘噛みした途端に「にゃがっ」という聞き慣れない悲鳴が聞こえた。見れば倍の大きさに見えるほど尻尾の毛を逆立てている。
「なに、しやがるっ!」
「あぁ、すまない。ちょっとおいしそうだったから」
「おま、マジでスプラッタに、する気、かよっ」
「おまえだってよく噛むだろう?」
そう言ってやれば、ニャン太が涙目でグッと唇を噛み締める。
(まぁ、猫が噛みつくのは普通か)
それにしては噛みすぎのような気もする。お菓子の食べ過ぎだと取り上げれば手の甲に噛みつき、ちゃんと服を着ろと裾を引っ張れば腕に噛みついた。寝ているときに肩を噛まれたこともある。
(そういえば、猫が噛みつくのは愛情表現だと聞いたことがあったな)
目の前でプルプルと体を震わせている猫を見る。体が小さいからか子猫が噛んでいるようにしか感じなかったが、もしかしてそういうことだったのだろうか。
「……なるほど」
猫がツンデレと言われるのがわかった気がした。超大型犬の俺に噛みつくとはいい度胸だと思っていたが、違う意味で噛みついていたのだとしたら……。
(それはそれでおもしろい)
種族は違うものの、犬と猫の共存区域ができてからは猫と番う犬も少しずつ増えている。これだけ体格が違うといろいろ心配になるが、一度試してみてから考えればいいだろう。
「腰をもっと上げろ」
「な、んだよ」
「あぁ、いい。俺が持ち上げたほうが早い」
「は? ……って、何しやが、っ!?」
掴んだ腰は俺の両手にすっぽり収まりそうな細さだった。これで本当に大丈夫か心配になるが、そのまま膝立ちしている俺の腰まで尻たぶを持ち上げる。そうして熱くほぐれたアナルに先端をググッと押し込めた。
「ひ、ひぃっ」
「……まだ、少しきつかったか」
「っ、っ!」
茶色の髪が無理だと言うようにブンブン揺れている。シーツを掴む指に力が入っているのは節を見てわかった。腰を持ち上げられ中途半端に曲がったままの膝では力が入らないのか、足の指がシーツを力なく引っ掻いている。
「すぐによくしてやる」
すっかりへたれてしまった耳を見ると可哀想な気もしたが、ある程度のところまで試してみなければ先に進めない。そう思いながら右手を腹に回して腰を支え、自由になった左手で尻尾の付け根をパンと叩いた。
「ひゃっ!」
聞いていたとおりだ。猫は尻尾の付け根を叩かれると気持ちいいらしい。なかには嫌がる猫もいるそうだが、続けて叩いても甘い声で鳴くということはニャン太にとっては気持ちがいいのだろう。
「ひゃっ、なに、やめ、やだ、そこ叩いたら、だめ、って」
「気持ちよくないか?」
「そういう、ことじゃ、なくって、ひゃっ! ひゃ、んにゃっ」
やめろと言う割には尻尾がピンと立っている。おかげで俺を咥えているアナルがよく見えた。
「なんというか……エロいな」
小さな穴がめいっぱい広がっている様はエロいとしか言いようがない。そう思いながらじっと見ていたからか、ペニスが一回り大きくなってしまった。
「ひぐっ!」
「あぁ、すまない。全部は入れないから安心しろ」
まずは尻で気持ちよくなれるようにしなければ。犬も猫も最初の躾が肝心なのは変わらない。まずは俺のペニスは気持ちいいと覚えさせるのが先決だ。
「ぃっ、うご、くなって、ひっ、ひぃ!」
「たしかこの辺りに……」
アナルが小さすぎてあまり動けないが、小柄な体のほうを少しずつ動かして探りを入れる。
「っ!?」
「……ここか」
見つけた。思っていたよりも手前にあるからか通り過ぎていたらしい。ゆっくりとペニスを引き、雄でも感じるところにカリ首を押しつけるようにゆっくりと擦る。
「ひっ、なに、ひゃっ、なにこれっ」
「一発目から感じるとはな。やはり発情期だからか?」
「待って、そこ変だか、らぁっ。ひっ、ひぃっ、やだ、にゃにっ、ひんっ!」
ほんの少しニャン太の体を揺らしただけなのに一気に鳴き始めた。気のせいでなければ中もいい感じにうねっている。これなら全部入れられる日もそう遠くなさそうだ。
「さぁ、気持ちよくなろうな」
「やだっ、やめ、そこゴリゴリ、しにゃ、でぇ!」
「嘘はいけない。体は気持ちいいと濡れまくりだぞ?」
「ちがっ、んなこと、あるわけ、にゃ……っ!」
少し強く押し潰すと小柄な体がブルブルと震えだした。左手で前を探ればトロトロとひっきりなしに子種を垂らしている。
「イッてるじゃないか」
あまりに早い射精に驚かされたが、きっと発情期だからだろう。どちらにしても相性は悪くないに違いない。問題は体格差だが、そのうち何とかなるだろう。
「同じ犬同士でも怖がられてきた俺だが、おまえなら大丈夫そうだな」
かつての恋人たちを思い出すと、ベッドの上で青ざめていた顔ばかりが浮かんでくる。俺のペニスは同じ犬にとっても恐怖だったのだろう。ベッドの上だけじゃない。出かけても食事をしていても「楽しい?」と聞かれることが多かった。
(楽しくないわけじゃなかったんだがな)
それでもニャン太と暮らし始めて、ようやく楽しさの意味がわかった。穏やかな日常ではなくなったが、日々ニャン太の忙しない姿を見るだけで楽しくなる。面倒だと思っていてもおもしろさが上回った。
(それに、ニャン太は面倒くさい俺の性格にも文句を言わない)
俺が口うるさく言っても噛むか殴るか程度で出て行ったりはしない。俺が作る食事もおいしそうに食べる。風呂が嫌だと言いながらも毎日入り、寝るときはぴったりくっついてきた。
いまだってそうだ。嫌だと頭を振りながらもこうして受け入れ、前も後ろもたっぷりと感じてくれている。「毎日ほぐせば全部入りそうだな」と思いながら、先端だけ入れたままビュッと吐き出した。
「……しまった、ついそのまま出してしまった」
猫と違って犬の射精は長い。ただでさえ苦しいだろうに、先端だけしか入っていないとはいえ十分ほどこの状態が続くのはつらいはずだ。
さすがに謝っておくかと声をかけたが反応がなかった。見れば両手はだらりとベッドに落ちていて、枕に頬を埋めている頭も動いていない。
(気絶させてしまったか)
おそらく初めての行為だったのだろう。挿入する前も一度イッていたし、中で感じながらイッたのなら疲れてしまっても仕方がない。
そもそも腹を抱えながら突っ込むこの体勢がよくなかったのかもしれない。ニャン太にとっては尻を吊り上げられているようなものだし、不安定で集中できなかっただろう。
(最初は座位のほうがいいか)
それなら俺も支えやすいし安定感も増す。温かな体を抱きしめながらというのも悪くない。問題は奥に入りすぎることだが、少しずつ慣らしながらやれば何とかなるだろう。
「ま、追々だな」
そのまま射精が終わるのを待ち、もう一度一緒に風呂に入ってから整え直したベッドで眠った。
・ ・
「おまえっ、自分がバカでかいこと忘れてんだろっ!」
翌日、昼前に起きたニャン太は相変わらず忙しなかった。
「忘れるわけないだろう。もちろんペニスが大きいこともわかっている」
「お、おま……っ!」
ニャン太の顔が真っ赤になった。完熟したトマトのような顔を見ていると、トマトソースのパスタが食べたくなる。
「ミネストローネでもいいか」
「何の話だよ! ってか、俺の話聞いてんのか!?」
「聞いている。昨夜は抜くだけの話がなぜ突っ込んだんだという話だろう? 抜くだけだと言ったのはニャン太のほうで、俺は最初から相手をすると言っていたはずだが?」
「だ、だからって……っ」
真っ赤な顔のまま少し俯き唇を噛み締めている。嫌がっているわけではなさそうだが、この怒りようというのは……。
「恥ずかしいのか」
「言うなよ! おまえ最悪だなっ!」
「発情期なんだから恥ずかしがる必要はない。それに猫の発情期は秋頃まで続くぞ? 毎回恥ずかしがるつもりか?」
「犬だって似たようなもんだろうが!」
「時期はほぼ同じだが、その間二回程度しか来ない。それに比べて猫は頻繁に発情する。毎回恥ずかしがっていたら大変だと思うが?」
またもや唇を噛んだニャン太が、ぼそっと「初めてだったのに」とつぶやいた。
「やはり初めてだったか」
今度は噛みついてこなかった。首まで真っ赤になった肌がおいしそうで、少しだけ喉が鳴りそうになる。
(犬が強く好意を抱いた相手を噛みたくなるのは本当みたいだな)
てっきり噂話程度だと思っていたが、どうやら間違いではなかったらしい。
(つぎはうなじを噛んでみるか)
猫は交わるときにうなじを噛むと聞いている。犬としても支配欲が高まって快感が増すに違いない。
(なるほど、支配欲か)
自分が抱いている感情の根源がわかったような気がした。それにニャン太を自分のものにしておきたいという明確な欲求も感じる。つまり、俺はニャン太に強い好意を抱いているということだ。しかも番いたいという類いの好意だ。
真っ赤に茹だったニャン太の体を抱き寄せると、わずかにピクッと反応したが噛みついたり叩かれることはなかった。それに少しだけ笑みをこぼしつつ、腰を屈めて耳元に口を寄せる。
「大丈夫だ。責任を取って今後の発情も相手をしてやる」
そうしていつもニャン太にされているような甘噛みの要領で、耳の先端をカリッと噛んだ。
「っ!?」
ビクッと派手に跳ねた小柄な体が腕から遠のいた。見れば噛んだ左耳を両手で押さえながら真っ赤な顔で俺を見ている。見開いた緑色の目が光って見えるのは、恥ずかしさか興奮かで潤んでいるからだろう。
(なるほど、噛むのは楽しいものだな)
これはいいことに気がついた。今後は俺もニャン太を甘噛みすることにしよう。これまで噛みつかれ叩かれてきたささやかなお返しにもなる。
「さ、昼飯にするぞ」
冷蔵庫に熟したトマトがあったはず。それでミネストローネを作ろう。パンにはニャン太が好きな苺ジャムとたっぷりのバターを載せるか。そんなことを考えながら俺は足取りも軽くキッチンへと向かった。
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