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7 観覧車と花火とプロポーズ2
ギュって抱きしめられると胸がドキドキするだけではなく、身体の奥まで熱くなってくる。お世話になっている医者に訊ねたところ、病気と関連があると言われ、軽く落ち込んだ。一輝の愛情を感じる行為なのに、それをされると病気が悪化してしまうのか。なら離れたほうが良いのかと訊くとその必要はないと。そのままでいいと言われ、どうしていいのかわからなくなる。一度熱くなってしまうとなかなか治まらないからだ。
やっぱり自分の身体はおかしいのだと認識し、そんな自分でもいいのだろうかと不安になる。
こんな身体で一輝の負担になりはしないだろうか。
本当に結婚、となった時に迷惑をかけやしないだろうか。
そんなことが頭の中をぐるぐると巡り、でも誰にも相談できないまま時間だけが過ぎていった。
少しずつ家事を教えてもらい、ちょっとずつ料理も作っていく。まだ家族に振る舞うほどの腕前はないから簡単なものだけだが。
一輝が喜んでくれればいいなと思いながら、夏休みに入ってから本当に初歩的なことを教わりながら少しずつ家事を覚えるのも楽しい。
一輝と一緒になったらどんな生活になるのだろう。
そんなことをぼんやりと考えては顔を赤くしていった。
「碧坊ちゃんはまた天羽さんのことを考えてるのね」
年配のお手伝いさんがからかってくるが、それすらも恥ずかしながら嬉しい。
もう頭の中は一輝のことばかりだ。
そして迎えた誕生日、一輝は本当に両親に許可を取ってくれ、花火大会に連れて行ってくれた。
「この薬は毎夜八時に飲むことになっております。それまでにお食事を済まされますように」
昼過ぎに迎えに来た一輝に、執事はそう言いながら碧の薬を渡した。
「わかりました。肝に銘じます」
たった一錠だが、碧にとっては大事な薬だ。それがなければ平穏な日常が送れないと医者にも強く言われている。
「面倒なことお願いしちゃってごめんなさい」
「いいんだよ。碧くんのことなんだから。しっかりとアラームをセットしたから安心しなさい」
一輝がいつも持ち歩いている電話にはアラーム機能もあるらしい。凄いなと感心していると笑われた。
「こんなことくらいで感心されたら、私がすごいように勘違いしてしまう」
「でも一輝さん実際にすごいじゃないですか」
優しくてカッコいいだけではなく仕事もできると両親が言っているのを耳にした。なんでも、部長になって二年目なのに今までにないほどの営業成績を出していると。凄いなとただただ思うのだ。
「碧くんに褒められると嬉しいね」
笑いながら丁寧な運転を続ける。
二人きりの空間が好きだ。
特に一輝の愛車に乗っているのが。
他愛ない話を繰り返し、車は以前行った道を走っていく。水族館に行った時と同じ道だ。
前回はそれほど混んでいなかったのに、今日はやたらと車が多く、渋滞している。
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