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〜反故〜

 京介は、先日の出来事を割と反省していた。(『攻撃は最大の…』〜発作〜の回)  自分でもよくわからない感情なのだとしても、余りにも直情的でてつや に責任を負わせすぎた気がしている。  あんな色気を目の当たりにして当てられたのかもしれないけれど、それでももう少し… いやでも…等と考えながら歩いていると、目の前に 「よっ!」   といきなり人が現れた。 「え…?あ…」  学校の帰り道。京介は運動がてら歩いて通っているがその時の出来事である。 「久しぶり〜」  前に立ったのは丈瑠だった。  てつやが辞める前に、一つやっておきたかったこと。それがてつやと京介の関係をすこ〜しだけ前向きにしたかった。  稜にてつやにはいうなと言われたけど、京介に言うなとは言われてないもんね、へっへんな勢いで、M大の門までやってきている。  しかし多分…目的は違う… 「あ、お久しぶりです…え、なんですか?てつやはここじゃないのわかってますy…」 「京介くん待ってたんだよ」  食い気味に言われて、やっぱいい顔だよなと見惚れたのは一瞬で 「え?俺を?」  と、秒で警戒体制。 「なんですか…?」  丈瑠はふふ〜んと笑って、京介に近づき耳元で 「てつやのことで話があるんだけど」  と、京介の興味をそそる言葉を投げかけた。 「え?なんかあったんすか?てつや」  前のめりに聞いてくる京介に 「いやいやいやそう言うんじゃなくてね、京介くんとてつやの事で勝手に相談がね」  やはり怪しい…と眉を顰め、自分らのことをこの人にとやかく言われる筋合いはないなと、 「なんのことかわからないですけど、別段俺らなんもないんで、相談って言われても困ります」  丈瑠は歩き出した京介に並んで歩き出し、 「相談っていうとちょっと違うかもだけど…京介くん、てつやのことしか見てないじゃん?だから…」  などと言っている間に、瞬時に胸元を掴まれた。 「それがどうした…あんたが入ってきていい領域か?そこは。俺の事は構わないでくれよ。特にてつやに関してはな」 ーあらら、よっぽどの地雷なわけねー両手を上げて戦意はないのポーズを取る丈瑠をちょっと強く突き放して、京介は歩幅を開いて歩き出す。 「待って待って違うんだって」  追ってくる丈瑠に振り向きもせずにスタスタと歩いている京介は、少し怒っていた。 『こいつは…こいつだけは俺は許せないんだ…てつやの最初の相手となんで俺が話をしなきゃならないんだよ』  心の中はハリケーンが吹き荒れていて、丈瑠を寄せ付けない。 「俺が言いたいのはね?京介くん、もしてつや抱こうとした時急にできるのかなってことだよ〜」  その言葉に京介の足が止まる。  ゆるりと振り向いて 「今なんて?」  よっしゃ!と内心ガッツポーズをし丈瑠は 「だからね?男相手にする時に経験がないとさ、ほら…色々大変だろ?だからさ」 「あなたが教えてくださると?」  ずいっと前に立たれると、京介は丈瑠より数センチではあるが大きくて、てつやが絡んでいるからだろうかすごい威圧感。 「まあ、有り体に言ってしまうとそゆこと」  はあ、やっと言えた。と、大した仕事をしたように言うが、結局は興味本位で結構見栄えのいい京介を試したかっただけなのだ。  京介はしばし考える。  そんなX DAYが来ることがあるのか。ないかもしれない…が、可能性は0ではない。そんな時にオタオタしていたら、この道百戦錬磨の(言い過ぎ)てつやの前で恥をかくかもしれない。しかも!てつやの初めての相手(男)と自分が初めての男が同じ人物というのも…お揃いでいいか…丈瑠モデルのキーホルダーが頭に浮かぶ。  京介はてつやのこととなると人格変わるから… 「わかりました…お受けします」 「え?ほんとに?」  逆にびっくりしたような顔をされ、『あんたが言ってきたんだろ…』とちょっとこめかみがぴくっとしたが、 「はい、経験値をあげようかなと思いまして」 「いいね、経験値。俺なら損しないと思うよ」  にこにこして、丈瑠はーじゃいつにしようか?ー  と聞いてみたが、 「今からでもいいですよ」  京介もニコッと笑う。  え…と思ったが、逆に間隔が空くよりいいかも…と丈瑠は唇を舐めて、 「じゃあ行こうか」  と語尾に♪をつけて、歩き出した。 「柏木さぁ〜ん…」  夜8時ちょっと過ぎ。  丈瑠は事務所に泣き言のような声で入ってきた。 「ん?お前今日来る予定じゃなかったんじゃねえの?まあ稼ぐんなら好きにし…どした…やつれてんな」  ちょっと笑いながらそういう柏木に、 「若い子怖いよ…」  ゲンナリとそう言って、ソファに突っ伏してさめざめと…泣いてはいないが、ちょっとヘロヘロと座り込む。 「何があったんだよ」  事務デスクの向こうでパソコンを閉じてメガネを外す。 「てつやは?」 「店にいる。呼ぶか?」  丈瑠はソファに正座して、呼ばなくていい!と慌てた。 「なんだ?てつや絡みなのか?」 「そうとも言うし…」  煮え切らない態度に柏木はため息をついて、再びパソコンを開くと作業を始めようとした…が 「今日さぁ、てつやに気がある男子と会ってきたんだよ」  パソコンから目をあげて、話しだした丈瑠を見る。 「もうてつやしか見ていないような子でさ、でもちょっとだけいい男なんだよ〜俺の好みってことでね、だからさ?この先てつやと致すときに、男童貞じゃ戸惑わない?かなんか言って誘ってきたんだけどね」  柏木が舌を鳴らしてパソコンの画面に視線を戻した。 「あいつはさ!ずるいんだよ!」  何がだよ… 「まだ19のくせにっ!」 「んっんぅっんちゅ…ぁ…んっ…ちゅ…」  ラブホの部屋に入った途端に、京介は丈瑠を抱きすくめキスをした。  なかなかいい男なので、最初の男としては満点だ。てつやとお揃いだし。 「ね…きょ…すけくん…んっんぅ。シャワーあびよ…?」  抱きしめられながら尻も揉まれ、背中にも指を這わせられて、丈瑠は毛穴を逆立てる。 ーこの辺りは女の子相手と同じでも通用するんだな…ーと京介なりに色々考えて行動しているようだった。 「風呂場でやります?」 「そうじゃなくてね、取り敢えず、俺に準備させてよ…」  胸に手を当てて目を合わせると、そういうものなのか…と優しく丈瑠を離し、自分もコートを脱いで入り口脇のハンガーにかけた。 「準備って、しないとどうなるんです?て言うか、準備とは…」  浴室へと向かう丈瑠の後について、京介は質問攻め。 「ん〜、やっぱりさ?セックスってからには、挿入という行為があるわけじゃん?それって男同士の場合どこに入れるかわかるよね?」  浴室へと入り、浴槽に栓をしてお湯を出す。 「40度くらいでいいかな。で、わかる?」 「はぁ、一応は…」  丈瑠は京介を反転させて、お湯が溜まるまでちょっと待機、といいながら部屋の方へ背中を押してゆく。 「そこはさ、普段は結構狭くなっちゃってるんだよね。そりゃそうでしょ?ゆるかったら大問題」  クスクス笑いながら、小学生かよと呟いた。好きだよね小学生って。 「だから。そこをね、指で柔らかくしてあげるんだよ」  京介の前にピースした指を出して、win-winのように蠢かす。 「なるほどねえ…それもやらせてほしい」  積極的。 「あー、いいけど…優しくやってよ?」  こうやって話しながら、丈瑠は服を脱ぎ始めていた。 「京介くんも脱いで、脱いで」  京介のシャツのボタンに手をかけ、今度は丈瑠からキスをする。最初先制攻撃喰らったけれど、いつまでもやられっぱなしではいられない。  キスをしながらシャツを後ろに落とされ、Tシャツをたくしあげられてとりあえず上半身は裸になった。  京介の手は丈瑠の両胸の乳首を親指で探り、コントローラーを回すようにいじり始めていて、その感触にキスをしながらの丈瑠の口元から声が漏れる。 「んぅ…やらし…なんでそんなことできる…?」  元々そこが弱いから余計に息が上がってきてしまい、すでに全裸の丈瑠は半分ほど立ち上がったものを京介へと擦り付けた。 「あ…下も脱がないとね…」   京介のベルトを外し、ボタンを解くと、一気に下着ごと下げてしまう。 「京介くんも…感じてんじゃん」  しゃがんで見上げてくる丈瑠に、京介も流石にゾクっとした。こうなった時の色気はやっぱすげえな…と内心感心しながらいると、もういきなり自身をくわえられた。 「んくっ!」  急なことだったので思わず声が出たが、今までだって女性に何度もしてはもらってきたが、段違いだった。  舌が絡みつき、唾液を使って程よくぬるみをだして滑りを良くして、単に出し入れするだけではなく首を左右に曲げたり振ったりして舌と唇で圧迫したりで、とにかく未知の感覚。 「あ…すげぇ…うまぃっすね…すげえいい…」 「ほんと?嬉しいな…もっと感じてよ…」  袋も下から優しく揉み上げて、時々それすら口にして京介の性器全てを愛おしそうに愛撫してゆく。 「は…ぁ…ほんと気持ちいぃ…」  丈瑠の頭を掴んで、京介もゆっくりと腰を揺らし始めた。  少しやばい?と思う奥まで行ってしまっても、丈瑠の喉の奥で締められて、それはそれでまた快感を促され、何をしても気持ちがいい。 「あっあっ…も…俺イク…はぁ…いいっすか…」  腰を振りながら、口を犯している京介も流石に限界が早い。 「ん…うん…」  口を離さずに返事をして、何回か頷くと、それをみた京介は頭をしっかり抱えると、そうそう激しくはないがそれでも優しくもない抽送を繰り返し、 「あぁ…あぁ…あっあっイクイクイクッんっんんんっ」  頭をガッチリホールドして、丈瑠の喉の奥で精を放つ。 「あ…あぁああぁ…きもち…い…」  何度か小刻みに揺らして、そしてゆっくりと口から抜いてゆく。 「あぁ…すごいな、やっぱ…上手すぎ…」  そう言っている京介の言葉を聞きながら、丈瑠はちょっとイラマっぽい行為に少し欲情をし始めていた。 「京介くんこそ…すごい…いつもあんなことしちゃってる?女の子に…」  喉の奥に出されて、そのまま飲み下したので口の中に味はそんなにしていない。欲情した丈瑠は京介に抱きついて、再び唇を貪る。 「凄く…エロい…俺がやってたのに…やられちゃったよ…」  キスの合間に呟きながら目を見てくる丈瑠に、京介も少し気を持ってかれてゆく。 「女の子は…ああいうの好きな子は一定数いるけど…んっまあ普通にはあまり…」  しないんかい…と思ってはみたが、気持ちよければなんでもいい。 「じゃ。ここ、触って…」  京介の手を取って、自分のバックへを導いてその場所を指で探ってもらう。 「実は今日は…自分でやってきてる…でも準備知りたいでしょ…?やってみて」  京介は時々キスをしながら首や喉元に舌を這わせながら、指を丈瑠のバックへ触れていた。 「最初…第一関節くらいまで…あっ…あぁ…そう…いい…」  準備してあった場所は、すぐに指を受け入れてしまい京介はそれを小さく出し入れする。 「んっん…ぅん…そ…う…でね、指徐々に増やして行って…それで余裕ができた頃…ああぁっっんっもう2本…あっ」  2本の指で掻き回しながら、空いた手は丈瑠の髪を撫でている。  その行為に丈瑠はー慣れてるなぁーと顔を見てやった 「ん?」 「結構京介くん遊んでるよね…」 「丈瑠さん( あ  な  た)程じゃあないです」  指を開いたり閉じたりして、その間にーなるほどねえーなどと呟きながら丈瑠を苛んでゆく。 「あっあっああ…ねもう欲しいい…挿れて…これ…挿れて」  京介のものを握って扱きながら、懇願してくる丈瑠を一度抱きしめるが 「お湯…汲みっぱなしです…浴室いきましょうか…」  焦らされて、丈瑠は京介に抱きついたまま離れない。 「仕方ないなあ」  笑いながら丈瑠を抱えて、抱き上げるのは無理なのでそこは歩いていただくことにして浴室へ向かった。  丈瑠は浴槽の蛇口を閉め、そのまま浴槽に手をつき 「はやく…欲しい…ここ」  と京介に向かってねだるように腰を振る 『準備がいる以外は、あまり女性と変わらないかもだな…こういう風になると男でも可愛いし…』  丈瑠の腰を掴みに行きながらそんなことを考えて、 「ここかな…」  と自身を当ててみると、丈瑠の腰が迎えるように京介へと寄ってくる。 「そう…そこ…はやく」  京介は腰を掴み、ゆっくりと挿入してゆくと丈瑠はため息のような息を吐き、浴槽をつかむ指が白くなるほど握りしめた。 「ああ…いい…凄く大きいから楽しみだった…」 「それはどうも…」  そう言って京介は前後に腰を揺らし始め、丈瑠を攻め立て始める。 「んっあっぁんっ…あっあっああいいぃぃ…すご…い広げられて…て…ああ」  丈瑠のそこは本当に女性と変わらなく、もう少し潤滑剤的なものが欲しいとは思うが、なぜかそれほどキュッキュするほどでもなく十分出し入れができている。 「俺も…気持ちいい…」  腰を振りながらつい声が出てしまうほどには気持ちがいい。時々リズムを変えたり、浅いところで突いてみたりもしながら丈瑠を煽ってゆき、とりあえず一度二人でイってしまわなければと、丈瑠の前にも手を伸ばし京介は腰を深くまで差し入れてそこを少し押し込むように何度も突き立てる。  女性だと子宮口だが、男性でも気持ちいいのかな…とか考えている間に 「ああっいいっいいいっすごっそこいいっ」  と反応が良かったので、いいものなんだな…と心のメモに記しておいた。 「もっと強くてもいいっもっとしてっもっと…あああああっそうそうそういいっいいおっあんっあああんっ」  豹変した丈瑠に少しビビったが、このままいけばとりあえず一回は終わるな、と冷静に考え京介はねだられるがままに腰を打ちつけ丈瑠をあげていった。 「ああああっもっもう許して…京介くん…すごすぎ…あっあああっ」  浴室でとりあえず一回行き着いた後、浴槽に入って対面でもう一度、のぼせながら浴室から上がって、ちょっと水分を補給しながらキスをされ、そのままソファでもう一回。  そしていい加減広いところで…と言ったベッドの上で、今3回目を致していた。  激しく打ちつけてくる腰を受け止めて。丈瑠はもう喉が掠れた声で喘ぎ続けている。 「男同士も…はぁはぁっ…いいっすね…俺も…ハマりそ…」  てつやといつかできるX DAYまでには、もっと腕を磨かなければ。 「あっあああっんんっも…もう…ほんと許し…あああああんっ」  流石の丈瑠ももうギブ寸前で、腰がもうミシミシ言い始めている。 「んっんっ、俺も…も…イクから…はぁっはぁっあっあぁ」  京介も限界らしく、最後にとばかりに今までで一番強く打ちつけてきて、丈瑠は絶叫と共に果て、京介も腰をしっかり掴んだまま丈瑠の中へと放っていった。  並んで寝転びながら、丈瑠はしばらく声が出せないでいる。物理的にも精神的にもだ。 「大丈夫?」  隣で肩肘をついて伺ってくる京介を横目で見て 「京介くん…」 「ん?」 「てつや壊すなよ?」  その言葉にあはは〜と笑って、 「てつやにはちゃんと手加減しますって〜」  としれっと言ってのけて、丈瑠はーやられたよーと右手を額に当てた。  京介は立ち上がり、床に放り出された斜めがけのバッグからタバコを取り出して、ソファに座って一服火をつけた。 「今までは女の子だけでしょ?」  相変わらず動けないのか、天井をみながら丈瑠が聞くとはなしに聞いてくる。 「ああ、そうですね…女の子しか知りません『でした』丈瑠さん魅力的だったからついやりすぎただけですよ。普段はもっと俺優しいです」  たけるが何を言いたいのか既に察して、牽制球を投げてきた京介に丈瑠はーちっーと舌を鳴らす。 ー割と自分好みの顔立ち。スタイルも悪くない。声もいい。でもー 「京介くんって…いじめっ子体質だろ…」  25歳になった丈瑠が『いじめっ子』って… 「嫌いですかね…そういうの」  京介はタバコを灰皿で消して、ベッドまで歩いてくる。 「シャワー浴びにいきませんか?」  傍に座って、丈瑠の頬を撫でてやる。 「それとももう一回くらい…」 「シャワー行こうかな…」  もう勘弁してほしいので、少しきしむ腰を無理して起こして丈瑠はやっとベッドに座った。 「好き放題してくれてありがとうな」  激しく嫌味を込めたつもりだったが 「さっきも言ったじゃないですか。丈瑠さんが魅力的だからですよ。まあ、てつや がいくら魅力的だとしても…ここまではしませんけどね」  言い返されてーくっーと唇を噛む丈瑠を、京介は優しく手を貸して 「介助しますから。シャワー行きましょう」  と優しく微笑んできた。 「老人かよ…おれは」  と反抗するものの、手だけは借りてベッドを降りて浴室へ向かう。  ちょっと腰がな…と言いながらなんとか体を流していたが、不自由そうな動きに京介が手を貸してやったついでに、もう一回戦させられて、丈瑠の足腰はもうズタボロになってしまった…。  柏木がデスクの椅子の上で声出して笑っていた。 「笑い事じゃないよほんとに!ひどいやつだよあいつ!もうやだって言ってんのにさ!」   柏木はもう腹が痛いどころじゃなく、声も出せずに笑い転げている。 「調子づくから…ヒィっおもしれ!お前がなあ、ぎゃははは」  もう、足をバタバタさせて笑っている柏木を悔しそうに眺めてクッションを抱えることしかできない。  なんせ腰が痛いから。 「でね?飯でもと思って誘ったらさ?『あんま親しくない人と飯食っても面白くなくないですか?』だってよ!クッソ!好き放題やったくせにぃぃぃぃ」  クッションをボスボス叩いて本当に悔しそうな丈瑠。 「やられてんな」  相変わらず笑っている柏木は、ティッシュで涙まで拭っている。  そんな時 「自業自得って言うんだよ。そういうの」  店に続くドアから、ちょっと不穏な声が聞こえてきた。 「え…稜…?今日入る…日…?」 「僕がいつ入ったって、丈瑠に関係ないだろ。それにしても…あんたなにしてんの」  腕組みしたままその場から動かない稜に、妙な威圧感を感じて丈瑠はゆっくりとソファーに座り直す。  稜の『あんた』呼びは初めて聞いたから、結構マジで怒ってるのかなと察しがついた。 「僕言ったよね?あの二人に口を出すなって」(〜思春〜の回) 「いいいや、てつやには何も言ってな…」 「『京介くんにも言うんじゃない』も含まれてんのわかんないのかな…」  食い気味にそう言って腕を解いて歩いてきた稜は、ソファの後ろに立って丈瑠の頭をつかむ。 「まさか、そんな親しくもない京介くんに何か言うとは思わないから言わなかっただけだろ。この頭の中に、お味噌は入っているのかな?ん?」  グイングインと頭を回し、苛立った表情で丈瑠を見下ろした。 「やめろやめ…目がまわる」  柏木は何がなにやらわからずにいたが、稜の雰囲気に圧倒されて意味もなくパソコン仕事を再開している。耳だけそっちへ向けながら。 「京介くんがかなりマジなの解ってたんじゃないの?そっとしておけって言っただろ」  頭を放るように話して、丈瑠の前へ立つ。 「あの時僕が言った言葉覚えてる?」 「二人に口を出すな…って」 「そこじゃない!」 「え…と…」  しばし考えてから、ハッと気づいて徐にぐしゃぐしゃな髪のまま稜を見上げた。結構恐怖の顔をして… 「思い出したみたいだね…」 「あ、うん…でも今日はちょっと都合が…」 「あんたの言い分が通るとでも思ってる?」  笑ってる…怖い…でも今日一晩中なんてされたら…  流石に丈瑠が気の毒になったのか、柏木が近くまで来て 「りょ…稜?なんの話かよくわからないけど…今日はやっぱり丈瑠の体ch」 「店長は黙ってて!悪いのは丈瑠(こ い つ)。青年達のこれからの動向を弄ったんだからね。罪が重いんだよ」 『稜〜、道重さんが来てるけど、今日空いてるかって』  そんな折に、店のてつやからコールが入った。  丈瑠はその声に、急速に罪悪感が湧き上がる。 「あ、ごめん。僕『急用』が入ってね、これから上がるんだよ。道重さんに謝っておいてくれないかな。また後日、サービスするって」  普段通りの声に切り替えて、稜は返答する。 『あ、そうなんだ。わかった伝えとく。じゃ、お疲れさま〜』 「はーい」 「てつやの声聞いて、なんか思うことあった?ま、いっか。じゃあ、行こう?」  この切り替えエグ…  スイッチはてつやの側にあるので、マイクは間違いなく切れてはいるはずだ。 「いったいなんなんだよ?今からなにするんよ」  先ほど一喝はされたが、こんな丈瑠を放っておくのも酷だなとなんとか回避を試みるも 「店長がしっかり捕まえておかないから、こんな奔放な子になるんでしょ。別に身体で遊んだって構わないけど、どっかで一本芯通してやんなよね」  え?俺にもくんの?ええ?  反撃を喰らう。勢いに身じろいでいる間に、稜は丈瑠の腕を取って立ち上がらせ、 「じゃあ上がります〜また明日〜」  気力も体力萎え切った丈瑠は、さっきから一言も発せないまま稜に連れられて、両手を合わせて『助けられなくてすまん』のポーズをしている柏木を恨めしそうに見つめながら店を出た。 「まずは、腹ごしらえだなぁ…丈瑠もお肉でも食べたら元気でるよ」  外に出た途端、にこやか稜になって歩き出す。  まあ確かに何も食べてはいなかったなと思い出した丈瑠は 「じゃあ、焼肉でもいこうか…」  と、多少は元気無くだがそう言って、稜の後に続いた。  稜とは何度か対戦しているし、とりあえず一晩乗り越えれば大丈夫かーとたかを括って食事に意欲を示し出す丈瑠だが、食事後の悪夢は丈瑠が一生忘れない出来事になることは、今はまだ知らない…

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