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表向きだけはいつも通り(中編)

 僕、中村圭介は弟である忍にレイプされた。そしてその映像を撮られて、母さんがいない日はセックスしないと世界中に配信すると脅されていた。でも忍はすっかり僕の恋人になったつもりで、僕たちのセックスを合意の上だと言っていた。そして、僕がそれに対して反論すると怒るのだ、それは僕に対しては理不尽なことだったが、忍からすれば恋人をそうじゃないと言う僕が悪いことにされるのだ。 「なぁ、圭介。今日は母さんがいないから、俺の部屋に来いよ」 「……分かった」 「なんだよ、恋人同士でセックスするだけだぞ」 「恋人同士じゃない!!」 「俺が恋人だって言えよ、圭介!! そうじゃないと母さんに全部バラすぞ!!」 「忍は僕の恋人だよ」  僕が忍が恋人だと言うと、忍は嬉しそうな顔で笑った。そして、僕に対する態度も優しくなった。優しく手を引かれて僕は忍の部屋に連れていかれた、それからはいつもの繰り返しだった。忍が僕に優しくキスをしながら服を脱がせていった、そして僕も震えながら忍の服を脱がせた。腸内の洗浄はもう僕は済ませていた、だってそうしておかないとまた忍についてきて、トイレの中で排泄する僕を見るからだ。 「良い子だ、圭介。なぁ、キスしてくれよ」 「うん」 「そんな良い子の頬にするキスじゃねぇ、早く早く口にエロいキスをしてくれ」 「うん」 「はぁ、ううん。圭介もキスが上手くなったな、恋人の俺のおかげだぞ」 「うっ、うん」  僕は最初は忍に頬や額にキスをした、それじゃ駄目だって怒られて今度は口に大人のディープキスをした。そうしながら僕は涙が止まらなくなった、忍にそれで怒られたがどうしても涙が止まらなくなった。そうしたら珍しいことに忍が萎えたと言って、僕に何もしないで僕の部屋に戻ることを許してくれた。僕は何故か涙が止まらなかった、もう悲しくもないのに泣き続けた。どこかがおかしいと僕は思った、だから次の日帰ってきた母さんに病院に行きたいと言った。 「圭介、そんなに泣かないで。ほらっ、ハンカチ」 「ありがとう、母さん」 「病院に行ったら、原因も分かって必ず治るからね」 「そうかな、そうだといいな」 「そうに決まってるよ、圭介。頑張ったね、お前は頑張り過ぎたんだよ」 「………………」  病院に言っても僕は本当のことは言えなかった、だからお医者さんに少しだけ事実をぼかして、弟の忍にいじめられていると話した。お医者さんはいじめの内容を聞いたが、恥ずかしくて何も話せませんと僕は答えた。そうして出た僕の診断結果はうつ病だった、精神が安らぐお薬や睡眠薬を沢山もらった。そういえば忍とのセックスが始まってから、僕はろくに眠れていなかった。母さんがおばあちゃんに連絡してくれて、僕は祖母の家に行くことになった。 「駄目だ、母さん。僕が家に帰らないと、忍が物凄く酷いことをする」 「圭介、忍のことは母さんに任せない」 「でも、忍が本当に酷いことをしたら、僕もう生きていけない」 「圭介!! 忍にはちゃんと言い聞かせるから、圭介は気にしないでゆっくり休みなさい」 「でも、でも、忍が!?」 「圭介は本当に辛い思いをしてたんだね、気がつかなくてごめんね。お母さんなのに、ごめんね」  僕はおばあちゃんの家に行くことになった、そこでゆっくりと休むように母さんに言われて、お医者さんからはそっちにある精神科の病院を紹介された。僕は忍が怒って何かしでかさないか心配で堪らなかった、今まで撮られた恥ずかしい動画が世界中にばらまかれたら、そんなことをされたら僕は生きていけないと思った。でもそこでやっと僕は良いことに気がついた、なんだ僕が死んでしまえばいいんだと思った。 「僕が死んだら母さんやおばあちゃんは悲しむだろうけど、でもあんな映像をばらまかれたら僕が死ねばいいんだ」  そう思うと僕は気が楽になった、おばあちゃんの家について久しぶりにおばあちゃんに会った。おばあちゃんは僕に何も聞かなかった、そしてただゆっくりと休みなさいとだけ言った。僕はもう忍のことを心配しなかった、もしあの恥ずかしい映像がばらまかれたら、僕が死ねばいいだけの話だった。だから僕は丈夫なロープをこっそり買っておいた、おばあちゃんの家を汚すのは気が引けるけど、鴨井にロープをかけて死ぬ練習もしておいた。それで、状況が知りたくて母さんに電話をかけた。 「母さん、忍はどうしてる?」 「あの子は内容は言わなかったけど、圭介に凄く酷いことをしたことだけは認めたわ」 「それで母さん、忍をどうしたの?」 「思いっきり殴りとばしてやったわ、あの子は馬鹿なんだから今頃になって、圭介に嫌われたって泣いてたわ」 「母さん、他には何も起こってない?」 「腹が立ったからあの子の部屋のパソコンや何かのDVD集めてた撮影道具、全部ぶっ壊してゴミにして捨てたわ。こっちは心配しないで、ゆっくり休みなさい、圭介」  僕はとりあえず母さんに忍が何もしなくてホッとした、忍のパソコンなどを捨てた話にはびっくりした。だがあの映像は多分クラウドシステムで、インターネット内に保管されていると思った。忍はそういうことに詳しかったからだ、だから新しく忍がパソコンを買ったら、またあの恥ずかしい映像を取り出すことができるのだ。でも、もういい。あの恥ずかしい映像が世間にさらされたら、僕が死ねば済むだけの話になったからだ。 「はい、もしもし中村ですが?」 「……携帯に出ろよ、圭介」 「忍か、何の用?」 「あの映像はまだ残っているからな」 「そうか、分かった。それじゃ、もし配信したら教えてよ」 「はぁ!? あんな映像を配信したら、圭介の人生が終わるぞ!!」 「うん、もうそれでもいいんだ」 「圭介!! 圭介!?」  僕はおばあちゃんの家の電話に出て忍と話をした、やっぱり忍はあの恥ずかしい映像をまだ持っていた。僕はそれ以上話したくなくて忍からの電話を切った、これでもしあの恥ずかしい映像が配信されたらと思って鴨居を見た、でも死ぬことは全く怖くはなかった。すっかり忘れていた携帯を見ると百件以上の忍からの着信履歴が入っていた、メールも何百件も入っていてとても読む気になれなくて僕は未読メールを全部消去した。 「はい、もしもし中村ですが?」 「圭介!! 俺だけど切るなよ、圭介!?」 「もしかしてあの映像を配信したお知らせ?」 「馬鹿!! 違うよ!? ……ただ圭介と話したいだけだ」 「一体何を話すの? 僕はもうどうでもいいんだけど」 「圭介、ごめん。本当にごめん。俺のこと殴ってもいいから、だから戻ってきて」 「母さんやお医者さんから、そっちの家に戻るなって言われてるんだ。だから無理」 「圭介、お願いだから俺を捨てないで、嫌いでもいいから捨てないで」  忍がまたおばあちゃんの家に電話をかけてきた、でも僕は母さんやお医者さんから家に戻るなと言われていた。忍は僕に捨てないでと言いながら泣いているようだったが、僕はもうどうでもよかったから電話を切った。そしてとりあえず僕はお医者さんから渡された薬を飲んで、眠たくなったから眠ることにした。そうやって僕は一日のほとんどを寝て過ごした、おばあちゃんはそんな僕に何も言わなかった。 「はい、もしもし中村ですが?」 「圭介!? お願い、電話を切らないで!!」 「あの時、忍が僕のお願いを聞いてくれたことがあった?」 「本当にごめん、ごめんなさい。圭介、あの映像は全部もう処分したから、…………俺を許して」 「うん、そういうのもうどうでもいいんだ」 「圭介!? 好きなんだよ!! 俺はやり方を間違ったけど、圭介が本当に好きなんだよ!!」 「僕は……、よく分からないや」 「止めて、圭介。電話を切らないで!?」  僕は忍に何て言っていいのか分からなくて電話を切った、そうして鴨居を見てもう首は吊らなくていいのかと思った。そう僕は思ったけれど何も変わらずただそれだけだった、忍の必死そうな電話の声にも何も感じなくなっていた。そうして僕はまた薬を飲んで眠った、夢の中では幼かった忍が僕のことを呼んで泣いていた。そのことに僕は少しだけ胸が痛んだ、忍は大切な僕の弟だった。そうあんなことをしでかすまでは、忍は大切な僕の弟だったことを思い出した。 「おばあちゃん、忍は可愛い弟だったよね」 「ああ、そうじゃったね」 「なんでだか、忍の小さい頃のことが思い出せないんだ」 「忍はいつも圭介、圭介ってお前を呼んで、後を追いかけまわしてたよ」 「それ、いつ頃の話? 幼稚園? 小学生?」 「今も変わらんじゃろ、あの子は圭介が好きじゃったからね」 「それってどういう好き?」 「…………恋焦がれるような好きじゃったね」  僕はおばあちゃんとの話が終わってから、恋焦がれるという言葉を携帯で探してみた。『ひたすらに一途に思慕する・恋する』『恋いしさに堪えられないでもだえる』『はげしい恋情に心をもやす』僕は兄弟に対して使う言葉じゃないなと思った、でもおばあちゃんはそう言っていた。忍は本当に僕を好きだったのだろうか、いつから僕のことをそんなふうに見ていたのか、僕には忍がどんな弟だったか思い出せなかった。ただ僕の大切な弟だったことだけは思い出した。 「はい、もしもし中村ですが?」 「圭介!? 俺もう圭介に絶対に酷いことしないから、圭介が結婚したって好きだけど邪魔しないから、だから帰ってきて!! 圭介!!」 「忍、いつから僕のこと兄弟じゃなくて好きだったの?」 「分からない、分からないよ。物心ついた幼稚園の頃から圭介が好きだった、他の人間は目に入らなかった」 「それじゃあ、どうしてあんなに酷いことしたの?」 「圭介を確実に手に入れたかったんだ!! 他の誰にも渡したくなかった!! 俺は圭介を逃がしたくなかったんだ!!」 「僕の気持ちはどうでもよかったの?」 「かっ、体の関係ができれば少しずつ俺を好きになってくれると思った。圭介を壊すつもりじゃなかったんだ、ごめんなさい!! もう何もしないから圭介、帰ってきて!!」  僕は忍が大切な弟だったことを思い出していた、少しずつ、少しずつ、思い出してきた。でもまだ忍には会いたくなくて、僕はごめんまだ帰りたくないと言って電話を切った。そう忍は本当は優しくて可愛い弟だった、僕に褒められると真っ赤な顔になって喜んで、僕に怒られた時には死にそうなくらい落ち込むような子どもだった。僕は僕をからかったり、優しく手伝いをしたり、嬉しそうに僕の名を呼ぶ忍をやっと思い出した。 「はい、もしもし中村ですが?」 「圭介? なぁ圭介。やり直せないか、俺はただの弟でいるから、兄弟としてやり直せないか」 「忍、もう僕を抱かなくても平気なの?」 「凄く辛い、本当は圭介を抱きたい。でも圭介が俺の傍にいないより、我慢する方が良い」 「我慢なんてできないんじゃないの?」 「それなら俺は去勢したっていい、そうしたほうが圭介も安心できるだろ」 「そんなことできないよ、忍。血がいっぱい出て死んじゃうよ」 「じゃあ、どうすればいいか教えて!! 圭介に会いたい!! キスできなくても!! セックスできなくても!! 俺以外と圭介が幸せになってもいいから会いたい!!」  僕の心の中に泣いている小さな忍がいた、僕はもう一度だけ忍を信じてみることにした。もし全て嘘だったら僕が首を吊って死ねばいいだけの話だ、だから明日帰るよと忍に伝えて電話を切った。僕たちは普通の兄弟に戻れるだろうか、忍は僕のことを愛していると前に言っていた。それが本当なら兄弟に戻れるだろうか、以前のように忍と二人でいられるだろうか、それは帰ってみないと僕にも分からなかった。 「駄目だったら忍に諦めて貰おう、忍が好きになれるような優しい人を見つけられるといいな」  そうして僕がまた眠っていたら、慌てているおばあちゃんに真夜中に起こされた。忍が怪我をして病院に緊急搬送されたという話だった、母さんからの連絡があって、でも母さんは仕事で動けなかった。行きたくなければ行かなくていいからと、母さんは僕に言ったが忍と話がしたいからと僕は急いでその病院に向かった。そうして病院の先生から、忍の状態について説明された。動脈を傷つけたところからかなり出血をしているが、性器も無事で傷が残るだろうが機能には問題ないと言われた。 「去勢しようとしたと言うんです、それで本当に切り落とそうとして、間違えて太もも付近の大動脈を傷つけて出血多量で眠っています。不幸中の幸いですかね、性器の方は縫い合わせただけで無事です。彼には女性になりたいような願望があったのですか?」 「いいえ、そんな願望は弟には無いと思います」 「それではどうして、去勢なんてしようとしたんですかね?」 「………………」 「今はICUで眠っています、顔を見られますか?」 「はい」  忍は記憶の中の忍よりも痩せていた、目の下にくまがあってあまり眠っていないのも分かった。今にも目を覚ましそうだったが、輸血中で目は覚まさなかった。僕はどうせ眠れないからそのまま朝まで、ICUの前にある椅子で忍が目を覚ますのを待っていた。そうして忍は輸血が終わったら一般病棟に移された、個室しか空いていなかったので忍はその部屋に移された。僕は眠ったままの忍についていった、個室にあった椅子で少しうとうとしながら忍が目を覚ますのを待っていた。 「こうしてみると忍は小さい僕の弟だ、どうして僕はあんなに忍が怖かったんだろう」

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