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1.相模夕人 -3-

夕人の新居は、前に住んでいた都心の分譲マンションから車で1時間ほどのところに位置している、新築が建ち並ぶいわゆるニュータウンと呼ばれる住宅街だった。 駅までは徒歩で20分と決して近いと言える距離ではないが、少し出たところには大型ショッピングモールや市庁舎もあり、比較的便利の良く住みやすい場所と人気もあった。 ーーーにしても、静かだな… 世間はまだ正月休みの人がほとんどだろうか、車通りは少なからずあるものの、路地を歩いている人は少ない。 新居から離れ歩いて3分ほど、小型犬を散歩させる年配の女性とすれ違ったくらいで、常に賑わいのある都心部とはえらい違いだ。 路地に出て綺麗に舗装された歩道を歩くと、すぐそこにはバス停が見える。 最寄りの市営バスは朝6時台から終電近くまで、本数も多く走っているようだった。 10分刻みのバス時刻表を見て、夕人は少し安心する。 ーーー良かった……電車を使うことは、そう無さそうだ。 “電車”という言葉で、夕人の頭の中に、ある記憶がフラッシュバックする。 『相模くん』 『相模くんには、僕がいないと駄目なんだよ』 『相模くん ずっと君のそばにいるからねーー………』 「………っ……はぁっ…」 ーーーダメだ、思い出すな。 あの時の左手の傷が、ズキズキと痛み出す。もう完全に治っているはずなのに。 「……はぁっ…はぁっ…」 ーーー苦しい。嫌だ、怖い。嫌だ。 喉の奥、胸が締め付けられるように、呼吸がしづらい。 ーーー違う、これは発作じゃない。 俺、落ち着け、息して。家に、戻らないと… 頭ではわかっているのに、体が言うことを聞かない。 「…はぁっ……はぁっ…く……っ」 ーーー嫌だ、誰か…… 助けて…… 怖いーーー… 苦しさのあまり、夕人は地面に膝をついて座り込んだ。 「どうした!?大丈夫か!」 知らない声が聞こえた。 声の主は夕人のそばにすぐさま駆け寄ったが、霞む視界で見える姿はぼんやりとしていて、その時は、自分がどうなっているのかもわからずにいたーーーー…。

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