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傷跡 1-1

卒業式を間近に控えた、3年生の生徒たち。 仲の良いクラスメイト同士で日帰り旅行に行く者もいれば、お揃いのものを買いに出かけたり、写真を撮りに行ったりーーなどと、残りわずかな中学生活の思い出作りを、各々で楽しんでいた。 「ーー……卒業祝いのパーティ?」 夕人は上履きから靴に履き替えながら、速生に聞き返した。 「そう、俺のクラスのやつで、レストラン経営してるオーナーのお父さんが、卒業祝いってことで貸切パーティ開くらしいんだ。 それで、仲の良いやつたくさん、呼べって言われてるみたいで…」 「へぇ……いいじゃん、楽しんでこいよ。」 夕人はそっけなく返事をして、家路をスタスタと歩く。案の定、全く興味を示さない。 「いや…だから、それにさ…夕人も一緒に行かねえかなーって!」 「………ええ? いや、俺、まずそいつと面識ないんだけど。行ったところで気まずいだけじゃん」 夕人の言葉に、速生はとにかくどうにか説得しようと顔を覗き込む。 「なぁー!いいじゃん、行こうぜー! タダだぞ!?フランス料理だったかイタリア料理だったか忘れたけど……。 パーティって…なんか、すっげーご馳走とか出るんだって、絶対!な〜〜お願いだから!」 ーーフレンチとイタリアン、全然違うけどな。 夕人はそう思いつつ、なぜ速生はこんなに自分をしつこく誘うのか謎だった。 「ーーなんでそんな、俺にこだわるわけ? 俺とご飯食べに行っても、はっきり言って楽しくないと思うよ。自分で言うのもなんだけど」 無愛想で、気遣いもさしてする気もない、食べることにそんなに楽しみを見出しているわけでもない…そんな自分と食事に行きたいなんて。 そんなやつ、いるとは思えない。 「だーーってさぁ……実は、ペアで来いって。」 「ペア?」 「おう。仲良いやつ連れて、ペアで来るってのが参加条件。彼女でも、友達でも、最悪、親でもいいらしいけどさ。」 人数合わせの関係か…?はたまた店の宣伝効果か。 確かに貸切ということなら、人数が多い方が主催側もなにかしら得があるのかもしれない。   ーー仲の良いやつなら、他に、伊勢くんでも誘えよ?…と言いかけて、夕人は立ち止まって速生の顔を見た。 「…………な?俺、夕人と行きたいんだよ。 俺の仲の良いやつって言ったらーー…夕人じゃん……」 少し拗ねたように、いつもなら折れる速生が、今日はかなり強情だった。 夕人はため息をついて、“仕方ないな”と呟いた。 「わかったよ。行くよ。 ーーーけどさ、俺、そんな気遣いとか、テーブルマナーとかも全然だし。ほんっと、楽しくないと思うけど、いいな?」 その言葉に速生は、一瞬でパァッと明るい表情で頷く。 「おう!そんなの俺だって知らねーから大丈夫! よっしゃー!じゃ、行くって返事しとくな! ………夕人、」 「なに?」 「……へへ、いや、やっぱ何でもない。よし!じゃあ走って帰るぞ!」 「は?意味わかんねぇ…俺歩くから1人で走れば?」 相変わらず〜とニヤニヤしながら速生は、駆け足の真似をしながら、夕人の前を早歩きした。 道路沿いに均等に植えられた桜の木は、ちら、ほら、と蕾が桃色に色づき始めていた。 夕人は上を見上げる。 「春……かーーーーー」 やっと、寒い冬が終わって…暖かい季節が近づいてきた。 だけど、暖かい春が近づくに連れ、気温の上昇に合わせ身体は、思い出そうとしていた。 とてつもなく暑い時期に起こった、あの、忌々しい出来事をーーーー。

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