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傷跡 2-2
受講初日、夕人は母と一緒に塾へ向かい面談を受けた。
個別指導を行うにあたり苦手分野・教科を塾講師と話し合い、授業のカリキュラムを作るためだった。
そして、夕人の担当講師となったのが、風間 だった。
「はじめまして、担当講師の風間です。
ーーーー相模くん、よろしく」
黒髪に眼鏡、痩せ型の30代半ばに見える、どちらかというと地味な印象を受ける風間は、夕人の母と、夕人から聞き取りを丁寧に行い、几帳面そうな字でメモを取る。
「相模くんは、理数が少し苦手ということだね、ではこちらのコマは、30分とーー…」
「あの、すみません。この子……持病の喘息で、1年の頃はよく欠席してたので、基礎が抜けてしまってるのかもしれないんです。そのあたり、しっかり指導して頂けると……」
風間は“持病”の言葉に、ペンを書く手を止める。
「そうですか……喘息、つらいですよね。
ーー相模くん、僕も、子供の頃はひどい喘息でね。あれって、すごく苦しいよね。だけど、大人になってかなり良くなったから…きっと相模くんも大丈夫だよ。
一緒に頑張って行こうね」
そう言って、風間は目の前に座る夕人の手を握った。
「あ……はい、ありがとうございます」
突然手を握られて少し違和感を感じたが、自分の過去の話まで出して励ましてくれるなんて、きっと信頼できる講師なのだろうと、安心をしていた。
ーー帰りの電車の中…
「あの先生なら大丈夫ね、真面目そうな先生でよかったわ…最近、塾の講師って、こう、派手でチャラチャラした、面白さで売ってる、みたいな人が多いイメージだったから」
母もそう言って安心していた。
「うん…」
「ーーねぇ、見て、あそこの男の子…中学生?すっごい綺麗な顔…」
「うわ、ほんと…。モデルとか、もしかして芸能人かな?」
近くに座った女子大生二人組が、夕人を指さしてヒソヒソと話す。
「…………」
夕人も母も、聞こえないふりをするが、その声を聞いた他の乗客たちも、夕人へと視線を向ける。
「ーーイケメン…というか、美少年?羨ましいよね、あんな綺麗な顔だったら人生楽しいだろうなぁ〜」
「ーーだよね〜、絶対モテモテだよ、男からも女からも!」
ーーー聞こえてるんだよ。
この顔で、人生楽しいと思ったことなんか一度もねぇし。
夕人は俯いて耐えた。
侮辱されてるわけではないのに、悔しさと、恥ずかしさで、早く電車から降りたくて仕方なかった。
顔が整っているというだけで…何がそんなに羨ましいんだって言うんだ。
普通に……健康な体で、人並みの生活を送れるってことが、どれだけ幸せなことか…
そういうの、わかってないんだろうな……。
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