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11_討伐隊クエスト

 ギルドの入り口で大声を上げた俺は、この街でもきっちり説教を受ける羽目になってしまった。  メアリさんみたいな美女ならまだよかったのに……この街は冷静な顔して淡々と理論で詰めてくるタイプのお兄さんだった。削られた。色んな意味で。    ヨボヨボしながらエルの方へ戻ると、さっきの女の子がまだカウンターに居た。どうやら俺が説教を受ける姿を二人して眺めてたらしい。飲み物片手に何してんだ。ワイングラス持って悪役かよ。 「お二人も王都へ行かれる所でしたのね」  ……何かいつの間にか情報交換してるし。  やけに薬草になれって食い下がるから、パーティ組めないコミュ障なのかと思ってたのに。そうじゃないなら何で他の奴と組まないんだろう。謎すぎる。 「どうせ通る道ですもの、討伐隊に参加されてはいかが?」  討伐隊はボブ氏が参加してた掃討クエストの大規模版らしい。いやいや無理無理。ここに来るまででもちょっとヒヤリハットな場面があったのに。 「討伐隊なんて俺らには荷が重……」 「それもそうだな。頭数は多い方がいいだろう」 「はぁ!?」  何言ってんだ、魔物にすぐ突っ込むくせに!  プニンやウルフ相手だからカスダメで済んでるんだろうが。アイテム使うのサボってすぐダメージ蓄積させんのに。  どうせカスダメだからってのんびりしてたら、お約束にエルが瀕死になってたのはつい昨日の話だ。   「俺らレベル低いんだぞ! 危ないだろ!」  相手はプニンやウルフって訳じゃないだろうし、無謀突撃常習犯に討伐隊クエストは嫌な予感しかしない。いつのまにか倒れてる未来しか見えない。  なのに。 「なら薬草は留守番をしているといい」  一番の懸念材料がドヤ顔で言いやがった。お前だよお前、ドヤってるお前心配して言ってんの。  ゲーム知識があって命を大事にモードの俺じゃなくて、ガンガン行こうぜ過ぎてすぐやっつけ負けしそうにになるエルが問題なの! 「俺が居ないとすぐ瀕死になるくせに!」 「行きたくないと言うのなら仕方ない」 「……うう――――ッ!!」  勝手に行けと言いたいけど、解散すると俺はパー活もといパーティー募集活動をしないといけない。んでもってこの街で討伐隊に参加してない冒険者がいる気もしない。  とすると選択肢は街で遊び人するか、ギルドでコキ使われるかだ。しかもこの街のギルド責任者はあの理詰めのお兄さんだ。  ……理詰め説教のトラウマを抱えた俺には詰み、である。  結局押し負けてしまった俺は二人と一緒に討伐依頼を受けて、パーティを組むことにして。もうどうにでもなれとヤケクソになりながら現場へ向かう馬車に乗り込んだ。  デカめの乗り合い馬車に詰め込まれて、板張りの固い椅子に腰を落ち着ける。  周りはどう見ても筋肉自慢な連中とか。不健康そうなどう見ても魔法使いな奴とか。どうでもいいけど何で魔法使いって基本的に不健康そうなんだろうか。  あと始まりの村には居なかったけど矢筒を抱えた弓使いとか僧侶っぽいのも居る。混成部隊って感じだ。 「そういえば、自己紹介がまだでしたわね。わたくしは魔法使いのレティリフレーナ。レティと呼んで下さいませ」  ……そういえばそうだった。  ちゃんと最初に自己紹介してたのはボブ氏とメアリさんだけだ。エルの時で間抜けー!って思ってたのに……うっかりまたやってしまった。  一人反省してる俺を余所目に、エルはしれっと自己紹介を始める。 「私は剣士のエルだ。これは薬草」 「コ ー タ だ !!」  エル以外の奴にまで薬草呼ばわりされてたまるかと力一杯叫ぶと、周りの視線が一気に集まってしまった。  すみませんすみませんと謝る俺。また笑いを堪えてやがるエル。しかもレティにまでくすっと笑われてしまった。……悲しい。   「その服装、コータは僧侶ですわよね。神殿の方ですの?」  馬車の中の注目が外れた頃、思わぬところに言及されて言葉に詰まった。  神殿とは関係ないなんちゃって僧侶だから、嘘ついて肯定するのは気が引ける。だけど違うって言うと何でその服着てんだよって話だよな……説明しようにも僧侶が乗ってんだよこの馬車。  正直に言っていいのかどうか、悩む。 「……あら、事情持ちですわね」  俺の気まずい雰囲気を察したのか、レティの声が内緒話をするみたいに小さくなった。 「ええと、その……ギルドで適正検査したらたまたま僧侶だったから……僧侶っぽい服こっそり着とけって感じで、こう」  ぼそぼそと答えると、レティは成程と頷く。神殿の出にしては動きが素朴ですものね、と一言付け足して。  煽るみたいな言い方は無意識らしい。エルといい、レティといい。この世界の美形は他人を煽るって法則でもあんのか。  むくれる俺にやっぱりレティは笑う。 「道理でエルと一緒でも平気そうでしたのね」 「? どういうこと?」  言われた意味が分からなくて、思わず見つめ返した。目の前の顔は相変わらずくすくす笑っている。 「神殿の方は闇夜を連想する黒を嫌いますの。エルのような黒目黒髪はこの世界で異質な様子ですし、わたくし達の様な魔法使いも闇属性を包括するので扱いがよくありません」 「ふうん、変なの」  俺の地元は黒目黒髪ばっかだけどな、とは流石に言わないでおいた。夜を連想するから黒が嫌いとか子供かよ。そういう面々が日本に来たら発狂してそう。  でも、そうか。  回復魔法をやっと覚えたばっかの俺をパーティに誘ってきたのは、エルの事を怖がらない僧侶が少ないからなんだ。これはいい事を聞いたぞ。  自分が思ったより貴重な存在らしい情報に、心の中でほくそ笑んだ。    ガタガタと揺れながら馬車は走る。  初めての馬車は意外と快適だけど、道が悪いと上下に揺れるのはどうにかならないかな。乗り物には強い方で酔いはしないけど……何せ尻が痛い。 「なるほど。意外とバランスが取れていますわね、このパーティ」  レティがぽすんと手を軽く叩くように合わせる。  俺が僧侶だって話をきっかけに、今度は職業とか使えるスキルとかについて情報を交換し合っていた。  エルは俺の知ってる通りの剣士。使える武器は剣で、ずるいことに魔法もちょっと使えるらしい。でも頭の上の数値バーだと魔力がちょっとしかないから、多分数回しか使えないと思う。そんな何でも使えてたまるかっての。  レティは自己紹介の通り魔法使い。各属性の中級魔法くらいまで使えて、レベルが俺達の中で一番高い。魔力の値もぶっちぎりだけど、体力とかがエルと同じくらいだからレベルが追い付いたら俺にも抜かれると思う。お約束に魔法使いは魔法関係以外大して伸びないらしい。  俺は……まぁ、うん。精神力と逃げ足が伸びる回復が得意な村人A。せめて魔力くらい伸びてくれ。本気で薬草になりそうだから。  そんな話を終えて話題がなくなってきた頃、レティが少し考えた後に話を切り出してきた。 「それにしても、お二人は何故王都に?」 「王に謁見をする」  えっ、そうなのか。そういや何で王都に居たかとかは聞いてなかったけど。  予想外の事実を知ってしまった俺がキョトンとしてると、レティは少し顔を曇らせた。 「……それは、難しいのではないかしら」 「何故だ」 「王は魔王の影に乱心していると噂が立っていますの。魔物もまた増えているともっぱらの話ですし」  おお、魔王とかいかにもRPGらしいワードが出てきた。いや魔物だけでも十分すぎるくらいRPGなんだけど。  とはいえ冒険じゃないファンタジーでも魔物は出てくるから、やっば魔王が出てくると剣と魔法の冒険RPGって感じがする。 「魔王は討伐されたのだろう」 「そうらしいですわね。けれど噂はどうあれ、黒を纏う貴方が王に拝謁できるとは思えません」  一瞬あれって思ったけど、そういやキミツナ2の世界なんだった。たぶん1のボスが魔王で、その討伐後の世界が2なんだな。    魔王がいた世界だからエルの黒色は影響があるのかなもしれない。しかも服までオール黒系ファッションかましてるし……黒が好かれないなら変えるべきか。ファンタジー世界にかつらやカラコンがあるか分かんないけど、服屋くらいは王都にあるだろ。 「万が一王が乱心しているのなら、尚更だ」 「何故そこまでこだわるのです?」  黒の剣士イメチェン計画を脳内で立ててる俺をよそに、エルは断固として王様に会うとだけ繰り返していた。そんな様子にレティは不思議そうな顔で問いかける。  ……だけど、その質問に返ってくる返事はなくて。  妙な沈黙が落ちたまま、俺達を乗せた馬車は依頼の現場へと向かっていくのだった。

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