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24_悪あがき

 罠を天井にまで仕掛けまくってた人達は、やっぱロボットにも色んな物を仕掛けていた。  剣に槍に斧にハンマー、ボクシングのグローブみたいなものまでロボットの後ろから出ては引っ込んで攻撃してくる。守るためのロボットのはずなのに殺意高すぎてちょっと引いた。  遠距離の武器は無いけど、前衛を一人で張ってるエルの体力がやばい。削られ方が早すぎて回復に追われている。  あんだけ攻撃受けて血も出てるのに何で平然と動けるのかが本気で謎。痛さで怯んだっておかしくないのに。  だけどエルがダメージ受ける前提で戦ってくれてなかったら、このパーティだと速攻で全滅してる気がする。剣士のエルでこんな体力の削られ方してるなら、俺とレティは当たった瞬間一発アウトだろうから。  エルが盾になって俺がひたすら回復、レティの魔法とサナの魔法銃がロボットを攻撃する戦法を続けていた。  何とか体力削ってはいるけど本当に少しずつで決定打にはならなくて。正直回復アイテム使いながらのジリ貧になりつつある。 「こりゃ落とす方が良いかな。戦闘は任せたよー!」  朗らかにそう宣言して、サナはパソコン的な機械の方に走っていった。レティが驚愕の表情でそっちを振り返る。 「ちょっと! 貴方どういう了見ですの!!」 「リモート操作してロボットの電源落とすからー! ちょっと待っててー!!」  電源落とすって家電製品かっていう。しかもリモート。パソコンかよ。しかもサナがしようとしてるのってハッキングじゃないんだろうか。そんな事が出来るんだろうか。  でもパソコンって……あんなガンガン動いてる上にぶっ叩かれて揺れまくってたら壊れるんじゃないだろうか。そうじゃん。そうだよ。精密機器は衝撃厳禁だよ。 「あんな振動しまくってるロボットにそんなデリケートそうな機能あんの!?」 「ある! ……って設備図には書いてたからワンチャン落とせるかも!」 「ワンチャンかよぉぉぉぉ!」  強制シャットダウンできる前提みたいな任され方したけど、その感じは完全にギャンブルじゃねぇか!!  気付くとエルの体力が赤ゲージになってて、慌てて回復を五連発でかける。危ない、サナに気を取られてた。  すると回復が終わったタイミングでレティから手が伸びてきた。魔力切れしたから回復薬くれっていう合図だ。カバンから明るい緑色の澄んだ液体が入ってる瓶を渡すと、少ししてきゅぽんと栓が開く音が聞こえた。  あれクッソまずいんだよな……一気に飲んでもちびちび飲んでも目に見えないダメージ食らう。だけどそろそろ自分も飲まないといけないなと思いながら、勇気を出して栓を開けた。  うえっ、くっさ。 「コータはあれの意味がお分かりですの」 「分かるけど出来るかは運次第って感じ」  栓を開けた瓶を持ったまま、戦闘中なのに珍しく話しかけてくる。分かる。飲む前に違う事考えて気を紛らわせたいよな。  パソコンの概念がないらしいレティには、俺達の会話があんまりよく分からなかったみたいだ。でもごめん、俺も上手く説明はできない。ただ正直サナの言ってた事はあんまりアテには出来ないんじゃないかと思う。  会話が途切れて、いよいよ瓶の口を近づけると体が勝手に息を止めた。  回復薬のニオイがやばい。臭い。何回飲んでも薬臭い。息止めてるのに一口入れただけでキツいニオイがする。 「……止める手立てもありませんし、かけてみるしかありませんわね」  そう言いながらレティは激マズ魔力回復薬を一気に飲み干してて二度見した。俺も最初は一気飲みしたけど、吐き気で動けなくなったんだよな……。  そんな代物を一気に口に入れて魔法の詠唱始めてるとか強者すぎる。想像しただけで気持ち悪くなってきた。  エルとレティがロボットに攻撃する中、カタカタカタカタ後ろからささやかな音がする。状況は全然分からないけどキー打つのが鬼のように早いのだけは分かる。  少しするとロボットの頭の上に見慣れないゲージがうっすら出た。目をこらすと体力と精神力の下に他より細い黄色のバーが見える。  その左側のマークは何か見覚えあるような。上が開いた丸に、縦の棒…… 「あれってパソコンの電源ボタン!? サナ、多分当たりだ!!」 「マジで!? よっしゃあ俄然やる気でてきた――!!」  キーを打つ音が速く大きくなって、ぴこんぴこん音が鳴り始めた。音が鳴る程ゲージが削れていって、ロボットの動きが鈍くなっていく。  レティの魔法にふらつくようになって、防戦一方になってたエルが押し返し始めた。相変わらず怪我しまくりで血塗れだけど。それでも食らうダメージは少しずつ少なくなっている。  突き出された槍をエルの剣が絡め取って、脆くなってたらしい付け根からボキっと折れた。 「やった武器いっこ無くなった! 頑張れエルッッ!」  そう叫びながら回復をかけると、驚いたような顔で振り向いた。するとめちゃくちゃ優しげな顔で一瞬ふっと笑って、ロボットとの戦いに戻っていった。  ……不覚にもさっきの笑顔にちょっとドキッとしてしまった。美形の笑顔は刺激が強い。 「ッシャオラァ、コマンドコンプリート! 強制終了ざまぁ――――――!!」  さっきの不本意なドキドキを振り切ろうと回復魔法に専念してると、突然ファンタジーとは思えない単語がアニメの悪党みたいなドスのきいた低い声で聞こえてきた。  カタカタとキーを打ってたのはひたすらコマンド入力してたらしい。ゲーム違いすぎるだろ。キミツナって本当に乙女ゲームかRPGなんだよな?    だけどサナの超スピードコマンド入力の頑張りで、ロボットの細い電源ゲージはいつの間にか空っぽになっていた。ぎぎぎと錆びついた音を立てて完全に止まったところで、レティがここぞとばかりに魔法を連打してブチ当てていく。 「れ、レティ!? も、もう止まってる、止まってるって!」 「ええ、ですから今の内に全損させておくのです」 「えっ」 「万が一にも再び動き出しては事ですもの。徹底的に破壊しておかねば」  そう言うとまた魔法の詠唱を初めて、バカスカ攻撃を当てて始めた。阿修羅像の腕みたいにくっついてた武器はどんどん吹っ飛ばされていく。次第に足やら腕やら、外側から少しずつ壊されていった。  容赦のなさが半端ない。 「うおー、派手に解体ショーやってる。これは中の調査無理そうかな」 「まさかあれ分解するつもりだったの」 「そりゃ解体フラグじゃん? でもまぁスクラップ材の回収だけでよしとするよ」  どんな素材使われてるのかなぁとキラキラした目で破壊されてくロボットを見るサナに、苦笑しか出てこなかった。レティとサナのせいで俺の中の女子像がやたらと強くワイルドに更新されていく。  無抵抗なのにドンドン壊されていくロボットを見てるのも何だか可哀想になってきた。剣を収めて戻ってくるエルの体力を完全回復させようと一歩踏み出した、その瞬間。    ロボットの倒れた場所にゲージがぱっと現れた。    それはさっきの電源のゲージとは違う、真っ赤な色のゲージ。しかも太くて短い。それが物凄い勢いで減っていって、キイインと高い音が響いてくる。 「え、何この音」 「ロボットだ! 今何かゲージ出た!!」 「うそでしょ、コマンドちゃんと合ってたのに」  サナが最後まで言い終わる前に、鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの爆音が響いた。激しい風と地響きが襲ってきて、とっさに耳を塞いで地面にしゃがみ込む。  だから、気付けなかった。皆が俺に何か言ってるのに。 「えっ……」  やっと衝撃が収まって顔を上げると、金属の板が目の前にあった。  逃げろって叫んでる皆の声が聞こえる。だけどあの時のトラックと重なって体が動かなくて、ひしゃげた金属板が飛んでくる様子を見てる事しかできない。  すぐそこまで影が迫ってきたと思ったら金色で視界が覆われて、勢いよく地面に体を打ち付けてしまった。    ――死んじゃったのかな、俺。  日本でトラックにぶつかって、キミツナ世界でも金属板にぶつかって死ぬとか運がない。でもすぐに死んだのかな、そこまで痛くなかったのはまだ良かったかも。血まみれで痛い痛いって苦しみながら死ぬよりはまだマシかもしれない。  ……あれ? でも死んだんだったら、何で今俺は意識があるんだろう。  恐る恐る目を開けると、サナの顔が見えた。瓦礫の上から見える顔は土で汚れて真っ黒になってる。それがくしゃっと歪んで、よかったぁ、と少し震える声をこぼした。 「ねぇ起きた! コータ起きた! ねぇねぇ!! 起きた――ッッ!!!」 「大声を出さないでくださいな! 持ち上げた瓦礫が落ちるでしょう!!」  視界のほとんどが瓦礫で埋まってるから姿は見えないけど、レティが魔法で助けてくれてるみたいだ。体にかかってる重さが少しずつ無くなっていく。視界の半分以上を埋めてる瓦礫がなくなっていって、体が動くようになってきた。 「体調変な所ない!? 苦しいとかない!?」 「だいじょ……もがッ」  駆け寄ってくるサナに答える前に、口の中へ勢い良く瓶を突っ込まれた。この草の味しかしない液体は体力の回復役だと思う。  きっと心配してくれてるんだろうけど、動けない人間に対してこの仕打ちはほぼ拷問じゃないだろうか。  とはいえ飲み込まないと息が吸えないから必死で飲む。やっと空になったと思ったら、次を開けようとしてる姿が目に入ってぞっとした。 「も、もう大丈夫! 大丈夫だからいい! それはいいってサナ!!」  頼むからそれ飲ませるのは動ける時にして欲しい。体力回復しても薬で窒息しそうだから。

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