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最初で最後の……
「俺……こっちにくる少し前まで付き合っていた人がいたんだ……」
そういうと、一瞬息を呑むような音が聞こえた気がした。
以前に付き合っていた人がいたことはなんとなく仄めかしてはいたけれど、こんなにも最近だとは思っていなかったのかもしれない。
でも、もう全てを打ち明けるって決めたんだからここで止めたりはしない。
「自分が男しか好きになれないってわかってから、ずっと誰とも付き合ったことがなくて……でも、誰かに愛されてみたくて……それで、勇気を振り絞って、出会いの場に出かけてみたんだ。そこで知り合ったのが、元カレだったんだ」
「どれくらい……その方と付き合ってたんですか?」
「2年、くらいかな。でも……付き合ってると思ってたのは俺だけだったみたいだ」
「俺だけ、って……どういうことですか?」
「男しか好きになれない俺と違って、元カレは男も女もどっちもイケる人だったから、俺のことはただの遊び相手としか思ってなかったって言われたんだよ」
「だから、俺が女性との交際経験があると知って不安になったんですね?」
「ああ。そうだ。久しぶりに会おうって呼ばれたと思ったら、突然言われたんだ。上司の娘と結婚するから別れてほしいって。男の恋人がいるってバレて結婚話が流れたら困るって……」
「そんな一方的に?」
「ああ。俺もその話で一気に冷めて、そんなやつに縋り付きたくもなくて、そのまま別れたんだ。でも、その時……」
「何があったんですか?」
あの時、ゾワっとしたあの感覚。
忘れたくても忘れられない。
嫌な記憶に身体を震わせていると
「無理しなくていいんですよ? 嫌なことは話さなくていいですから」
と優しく抱きしめられる。
ふわりと甘いバニラの香りと共に透也の安心する匂いが鼻腔をくすぐる。
そうだ。
怯えることはない。
もう全てを聞いてほしい。
「最後に可愛がってやるって……俺のが欲しくて疼いてるんじゃないかって、抱きついてきて……それがあまりにも気持ち悪くて、思いっきり押しのけて逃げたんだ。だから、俺……」
「大智。よく頑張りましたね。そんなやつに最後傷つけられなくてよかった……」
優しい透也の言葉が心に沁みる。
「――っ、うっ……っ、ぐすっ……っ」
「大智? すみません、傷つけてしまいましたか?」
「ちが――っ、俺……嬉しくて……。元カレのこと知られたら、嫌われるんじゃないかって……」
「ふふっ。嫌いになるわけないです。過去は過去。大事なのは今、大智が俺のそばにいてくれるってことでしょう?」
「透也……」
「俺は絶対に大智を裏切ったりしません。大智を嫌いになることなんて、一生ありませんから。離れたいって言われても離しませんよ」
そうキッパリと言い切ってくれた透也の真剣な表情を見れば、それが本心から言ってくれていることは誰の目から見ても明らかだった。
「嬉しい……っ」
あんなにも不安だったのに、今は幸せでたまらない。
俺は透也の胸元に顔を擦り寄せながら、透也になら抱かれたい……と心の中で呟いた。
その瞬間、
「だ、いち……っ、い、まの……ほんき、ですか?」
と透也の震える声が聞こえた。
「えっ? 今のって――っ!!! もしかして、聞こえ――」
「ああっ!! もうっ!! なんでこんなに可愛いんですか!!」
「あ、あの……」
「もう、我慢できませんよ! 大智に出会ってからずっと煽られて、俺も限界なんで……」
「煽るって……わっ!!!」
抱きしめられていた身体を軽々と抱き上げられ、透也はそのまま奥の部屋に俺を連れて行った。
「とうや……ここ……」
「はい。前に一緒に寝たでしょう? あの寝室です」
「じゃあ……俺のこと、抱いてくれる?」
「――っ!! 本当にいいんですね?」
「ああ、俺……初めてだからあまり良くないかもしれないけど……」
「えっ? は、じめて……?」
あれ?
その話、してなかったっけ?
目を丸くして驚いている透也になんと言って説明していいか分からず、
「ああ。女性と付き合ったことはないし、俺は……その、挿入 てほしい方だから、童貞だし……元々、そういう欲求もあんまりないから、元カレとは最後までしたことはなくて……だから、えっと……後ろも処女だから、本当に初めてで……あの、透也が面倒臭いなら、別に最後までしなくても……」
とうだうだと話をしていると、
「大智っ!!!」
と突然大きな声をあげながら、抱きしめられた。
「えっ、あの……透也?」
「最初に言っておきますけど、別に俺は処女信仰を持っているわけではないです。さっきも言いましたけど、過去は過去。大事なのは今だと思っています」
「あ、うん」
「でも……大智が初めてだと聞いて身体が震えるくらい嬉しいです。大智の最初で最後の男になれることが幸せでたまらない」
「透也……」
「あ、一応言っておきますけど、俺も童貞ですから」
「えっ? ほ、んとに?」
「ええ。だから、初めて同士……気にしないでください」
そう言われて、俺も震えるほど嬉しい。
透也と愛し合った人がいない……その事実が俺を最高に幸せにしてくれたんだ。
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