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幸せだよ
「透也、宇佐美くんの話は聞いたか?」
迎えの車に乗って早々どうしても気になって尋ねてしまった。
「そう尋ねると言うことは、大智も聞いたのですか?」
「ああ。今日宇佐美くんの代理人だという弁護士さんから連絡が来たんだ」
「弁護士さんから? わざわざ大智宛に?」
まさか弁護士さんからとは思わなかったのかな。
もしかしたら宇佐美くん本人から連絡が来たと思ったのかもしれない。
「宇佐美くんが頼んだらしい。婚約したと言う報告を受けていたからだろう。解消したら報告しないといけないと思ったんじゃないかな。本当に宇佐美くんは真面目だな」
「なるほど、そういうことですか。それで敦己の様子はどうだって言ってましたか?」
「うーん、あんまり詳しいことを俺の口から話していいのかはわからないんだけど……でも、思ったよりは大丈夫そうだよ」
「それなら良かったです」
透也に安堵の表情が見える。
あの調査内容をみてきっと心配していたんだろうな。
「透也は宇佐美くん本人から聞いたのか?」
「はい。<婚約解消になった、詳しくは会ってから話す>とそっけないメッセージだけでしたけど。まぁ、調査内容も知ってましたし、今回の帰国でそれを知ったんだろうなとはあたりをつけています。大智にも彼女に会いに行くと話をしていたでしょう?」
「ああ、やっぱり行かせなければ良かったって後悔してたんだ」
「大智のせいじゃありませんよ。あんなこといつまでも隠せることじゃありませんし、結婚前のこのタイミングで知って良かったんです。何も知らずに結婚していた方が辛いでしょう?」
「ああ、そうだな」
上田先生と同じことを言う。
やっぱりそうだよな。
後で知ったら、傷はもっと深くなるだけだ。
「なにかありましたか?」
「えっ? なんで?」
「なんだか嬉しそうな顔をしていたのが気になって」
「ああ、ちょっと思い出したんだ。今日の弁護士さんの言葉を。透也と同じこと言ってたなって。今は辛いだろうけど、これからの未来のために必要だったんだって言われて、俺もそうだなって思ったんだ。俺も知りたくない事実を知って傷ついたけど、あの時知ることができたから今こうして透也と幸せな時間を過ごせてるんだなって思ったら、真実を知るにはあながち悪いことではなかったんだなって思ったんだよ。だから、宇佐美くんにもきっとこれからいい出会いも、幸せな未来も訪れるんじゃないかってそう信じてる」
「大智……今、幸せですか?」
「何言っているんだ、そんなことわかってるだろう? 俺が幸せじゃないように見えるか?」
「大智の口から聞きたいんです」
ふふっ。きっと俺が弁護士さんの名前を出したから嫉妬してくれてるんだろうな。
俺には透也だけだってわかってるんだから、心配することなんてないのに。
でもちゃんと言葉にすることも大事だよな。
「透也と出会えて今だけじゃなくて、これから先も一生幸せだよ」
俺の言葉に嬉しそうに微笑む透也にもっと喜んで欲しくなって、ちょうど赤信号で止まったタイミングでチュッとほっぺたにキスをした。
「透也、愛してるよ」
「――っ!!! 大智っ!! ああ、もうっ! なんで今、運転中なんだ!!」
「と、とうや?」
「覚悟しておいてくださいね。大智が煽ったんですから」
「――っ!!!」
目の奥に欲情の火を灯しながら、ギラギラとした目で見つめられるだけで身体の奥が疼く。
ああ、もう俺は本当に透也なしじゃ生きていけないな。
透也にたっぷりと愛されつつも、挿入は一度だけで済ませてくれたおかげで――その分、中に挿入っている時間は長かったけれど――翌日は起き上がれないということがなくてほっとした。
流石にセックスしすぎで起き上がれないから休むなんてことを社会人がそんなしょっちゅうできるわけもないし、そんな理由は恥ずかしすぎる。
今日は宇佐美くんも出社することだし、俺もちゃんと出ないとな。
つくづくこの支社では内勤業務ばかりで良かったと思う。
「おはようございます!」
そう言って元気よく入ってきた宇佐美くんに驚く。
声もそうだけれど、表情もかなり明るい。
睡眠もよく取れているみたいで寝不足でもなさそうだ。
上田先生が吹っ切れたみたいだと話をしていたけれど、それは本当みたいだな。
自分が原因でもないことでずっと悩み続けるのは時間の無駄だもんな。
俺も吹っ切れたらそう思えるようになった。
とりあえず、宇佐美くんには俺が話を知っていると言うのを伝えておかないと上田先生が頼まれた仕事をしていないと思われたから困るからな。
来て早々で悪いけれどと声をかけながら、とりあえず防音設備のある会議室に連れて行ったけれど、宇佐美くんは俺からの突然の呼び出しに大体の見当はついているようだった。
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