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大事な存在
「まぁ、とりあえず北原くんと久しぶりに会えるのは嬉しいですよ。彼のことは任せてください。それよりもその三連休、透也くんが帰ってくるなら、大智さんもずっと一緒にいたいんじゃないですか?」
「うん、そうだね。でも北原くんが来るなら、透也は彼と過ごす時間もあるのかも。同期だって言ってたし、かなり仲が良さそうだったし……」
「ふふっ。大智さん、それって嫉妬ですか?」
「えっ? いや、そんなんじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「本社で働かせる前にこっちでわざわざ勉強までさせておきたいっていうくらいだから、大事な存在なんだろうなとは思ってる」
彼が被害者だと知ってものすごく落ち込んでたしな。
今回恋人さんと一緒に来るって透也の方から教えてくれたし、北原くんに恋愛感情はないんだろうけど、大切にしてるとは思う。
「違うよ、透也にとって大事な存在と言えるのは、大智さんだけだ。きっと彼をわざわざこっちに連れてくるのも、勉強以外に何か理由があるんだと思うよ」
「祥也さん……」
「一応あれでも弟だからね。あいつの考えることくらいわかっているつもりだよ。だから、心配なんてしないで、自分だけが愛されてるって思っていればいいよ。あいつは好きになったら一途だからな。あっちにもこっちにもいい顔なんてできない性分なんだ。まぁ人のことは言えないけどな」
そういうと、祥也さんは大夢くんをさらに強く抱きしめた。
大夢くんは嬉しそうに笑いながら、
「祥也さんのいう通りだと思いますよ。それに、あの二人がそんななら、もっと早く恋人になってるはずですし」
「確かにそうかも……」
「でもね、僕はずっと北原くんは僕たちと同じゲイなんじゃないかって思ってたんですよ」
「えっ! 本当に?」
「はい。自分がそうなせいか結構気づくことが多いんですけど、でも彼はそういう話題になるのを避けていたみたいでしたし、きっと知られたくないんだろうなって思ったので、仕事上のこと以外はあまり話さないようにしてたんです。だから、今回恋人さんと一緒だって聞いて、正直どっちなんだろうなってそっちの方が気になってます」
「どっちって……あっ、恋人さんが女性か、男性かってこと?」
「はい。でも、男の恋人を連れてくるのはずっと自分の性的指向を隠してた北原くんぽくないし、かといって、女性の恋人は想像つかないんですよね、申し訳ないですけど」
「へぇ、北原くんってそんなタイプなのか?」
祥也さんが驚きの表情を見せる。
「そうなんですよ、祥也さん。僕も彼と会うのは久しぶりだし、いろんな意味で楽しみです」
大夢くんの表情を見ていると、俺もなんだか彼のことが気になってきた。
彼も俺と同じように自分の性的指向を隠していたんだとしたら、すごく親近感が湧くな。
すっかり話が盛り上がり、あっという間に夜も更けて来てそろそろ休もうかということになり、今日泊まる予定の部屋を案内してもらうことになった。
「この奥にお風呂もトイレもあるので、好きに使ってください。着替えはこれです。新品ですから安心してください。あと、ベッドの隣に置いているのは飲み物用の冷蔵庫なので、これも好きに飲んでもらっていいですよ」
「すごいな、でも寝室に冷蔵庫か……いいな」
「ふふっ。喉乾いても離れずに済みますからおすすめですよ」
「――っ、やっぱり気づいた?」
「はい。そのための冷蔵庫ですから。あ、でも念のために言っておきますけど、このベッドに僕も祥也さんも寝たことはないので安心してください。ここは元々、透也くんとか祥也さんのご家族のために用意していた客間ですから」
「ああ、そうなんだ」
「でも、透也くんは遊びには来てくれても泊まったことはなくて……」
ああ、そうだ。
――幸せな新婚家庭みたいな家に独り身で行くのは辛いですよ。しかも兄貴が高遠さんとデレデレしているのを見たくないですし。
なんてさっき言ってたっけ。
「でも、多分これからは泊まるんじゃないかな」
「そうですね、大智さんも一緒のとき限定でしょうけど」
透也と二人で義兄夫夫の家に泊まる。
今までだったら考えられないようなそんな日が来るんだ。
それはそれで楽しそうだな。
それからあっという間に数日がすぎ、今日はとうとう透也が一時的に帰ってくる日。
この三連休をどれだけ待ち侘びたか。
もう飛行機に乗っていて今日の午後三時には空港に着く予定。
そこから透也と北原くん、そして恋人さんも一緒に直接このL.A支社に来てくれることになっている。
昨日ギリギリまで、空港に迎えに行ってもいいかと許可を取ろうとしたけれど、最後まで良いとは言ってくれなかった。
――何度も言いますけど、大智は自分の魅力をわかってなさすぎです!!
なんて言っていたけど、そんなことを言ってくれるのは透也くらいのものなんだけどな。
でも、それを大夢くんと祥也さんに話すと、
「はぁーーーっ」
と二人して大きなため息を吐かれてしまったから、流石にそれ以上は言えなかった。
でも心配しすぎなんだけどな。本当に。
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