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第26話 知らない衝動*
体にじっとりと濡れたような、嫌な感覚を覚えて、蘇芳は目を開いた。
「うう……」
全身に汗をかいて、着物が体に張り付いている。
しかし、嫌な感覚はそこからというよりも、腹の下の方と、足の間からしていた。
ごそり、と起き上がる。
蘇芳は、自分の部屋の布団に寝かされていた。
——そっか、鉄郎が運んでくれて……
どのくらい寝ていたのか記憶がないが、まだ外は暗い。
ちょうど月のない晩らしく、いつにも増してあたりは墨を流したような闇に覆われている。
なのに、今の蘇芳の目には、なぜか明かりも灯していない部屋の中の様子が満月の下で見るように、はっきりと見てとれた。
とにかく、体が熱くて、着物を脱ぎたくてみじろぎをした途端、蘇芳は、ずくん! と臍の下が疼くのを感じた。同時に、とろり、と足の付け根の間から、濡れた感触が広がる。
「え……」
そんなところが濡れたことなどあるはずもなく、もしや粗相でもしたのかと蘇芳は慌てて着物をはだけようとした。
しかし布が肌を擦るその刺激に、言いようのない甘美な痺れが全身を駆け抜ける。
「ぁ……や、ッ、これ、なに、」
くち、と音を立てた足の間の濡れたものを拭おうと、手を伸ばして、
「ふぁ……ッ!」
濡れそぼった足の間、硬く勃ち上がってたらたらと雫をこぼしているものよりもっと下の、今までは体を清める際ぐらいにしか触れたことのない場所に指の先が掠めたとき、蘇芳は腰が浮くような激しい感覚に襲われた。
「うそ、なっ、ぁ、あ……」
経験などあるはずもないのに、本能がこの中を擦って欲しいと訴える。
そんな激しい欲望に突き動かされたことなど蘇芳にはついぞない。
だが底知れない未知の感覚への恐怖は次第に渇望に飲み込まれていき、蘇芳は本能の駆り立てるままに自分の張り詰めた屹立を扱き、足の間の秘所へも体を丸めて指を突き入れ、一心に快感を追い始めた。
そのとき、部屋の戸がぎい、と開く音がした。
「蘇芳? 起きて……」
鉄郎だった。
提灯を手にして一歩、二歩、と部屋に入ってくる。
今の今まで、鉄郎のことさえ頭から抜け落ちていた蘇芳は、あられもない格好を隠す暇もなかった。
「あ……」
——見られてしまう。こんな、はしたない姿を……
そう思っているのに、蘇芳の頭は体の中で依然として燃え盛る悦楽の炎に霞んでおり、鉄郎に見られてしまうということですら、一種の快感に置き換わる。
くちゅり、と濡れた音が静まり返った部屋に響く。
しかし、ゆらゆらと揺れる提灯の灯りがぼうっと蘇芳の顔を照らしたとき、それを見た鉄郎の顔に浮かんだのは好色ではなく、恐怖だった。
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