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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛19

「瑞稀、機嫌直して」  彼が照れていることを指摘せずに、違うことを口にしてから、背中を擦っていた手で、頭を優しく撫でてあげた。 「機嫌は直ってます……」 「それはよかった。きっともうすぐ、お風呂のお湯が溜まる頃合だと思う。入ってきたら、どうだろうか?」 「それじゃあ、お先に……」  瑞稀は首をもたげたまま、足早に俺の前から姿を消した。 「行ってらっしゃい。ゆっくりするといい」  浴室の扉が開閉した音を耳にした瞬間、その場に踞る。胸を押さえながら、大きなため息を吐いた。 「瑞稀の帰る時間が近づくたびに、離れ難い気持ちがどんどん膨らんでいく。それを自覚すればするほど、彼に酷いコトをしそうだ……」  テーマパークで楽しそうにはしゃぐ瑞稀を見てると、本当に連れて来てよかったと思える一方で、かわいい瑞稀を誰にも見せたくない思いが、ここに連れて来てしまった結果だった。 「一緒に風呂に入りたいが、我慢しなければ。絶対に、卑猥な行為しかしないのがわかりすぎる」  喉が干上がることで、吸血鬼になったことを知る。昨夜も瑞稀の血を飲んでいるハズなのに、躰が瑞稀を欲した。しかも――。 (吸血鬼に変身していることといい、下半身が痛いくらいに熱り勃っているのも問題だ)  昨夜何度か絶頂したが、一晩経って回復することのできる己の貪欲さに辟易する。 「とりあえず、瑞稀に知られないようにしなければ」  耳で浴室から聞こえるシャワーの音を確認しつつ立ち上がり、ベッドヘッドに置いてあるボックスティッシュを手にして、部屋の様子を眺めた。なにかがあって、瑞稀が唐突に現れてもいいように、トイレに引き篭もるのもいい案なのだが。 (――想像力の働くベッド近辺のほうが、すぐにヌける気がする)  昨夜ベッドの上で、吸血鬼の唾液で寝乱れた瑞稀を思い出す。頬を紅潮させて、涙目で俺を睨み、「もうイきたくないのに」や「やめて」などなど、掠れた声で全身をビクつかせて絶頂していたっけ。  そんなことを脳裏に描きつつ、自身を激しく扱いた。 「はあぁ……かわいかったな、瑞稀」 「マサさん?」  思いきり肩を震わせながら、扱いていた手が止まる。見られてしまったというのに、萎えることなく、むしろさらに硬くなるのは、どうしてなのだろうか?  機械仕掛けの人形のように振り返ると、髪の毛から水を滴らせた瑞稀が、驚いた表情を浮かべて俺を見下ろした。 「み、瑞稀のえっち……」  この状況を打破すべく、とんでもないことを口走った俺を、瑞稀は顔を歪ませて視線を逸らす。 「ごめんなさい。えっと、マサさんはそのーー」 「ここで疲れた瑞稀に手を出さないように、マッサージしてた、みたいな」 「マッサージ、ですか。それは気を遣わせてしまって、ごめんない」 「謝らないでくれ。それにその格好でいたら、風邪をひいてしまうかもしれないよ」  残念ながら今の俺は下半身の事情で、彼の髪の毛から滴る水気すら、拭うことができない。 「俺ひとりでお風呂に入るのが、寂しかったんです。その……昨日ちょっとでしたが、マサさんと一緒に入ったのが楽しかったので」  行為のあと、一緒に躰を洗った際に、狭い湯船に入ったことを告げられたのだが。 「あれが楽しかった?」  照れた瑞稀を抱きしめた俺と一緒に、お風呂のお湯を溢れさせながら温まったのが、楽しかったなんて。

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