24 / 44

第24話

 次の日の朝、悠哉が目を覚ましスマホを確認すると、三十分前に彰人からLINEが来ていたことに気がつく。内容はと言うと、文化祭の準備があるから先に行くというものだった。文化祭…もうそんな季節なのかとカレンダーを確認するが、文化祭までまだ三週間近くあるではないか。俺はまた彰人に避けられているのか…?と朝から悠哉は不安な気持ちで起き上がった。 「ああ、今年の三年生は気合いが入ってるらしくて一か月前から準備始めるみたいだよ。しかも放課後は受験勉強で忙しい人も多いらしいから朝早くから集まってるみたい」  結局今日も陽翔と共に学校へ向かっている悠哉は陽翔に文化祭のことを聞くと、納得のいく答えが返ってきた。どうやら今度こそ嘘はついていなかったようだ。それにあんなキスをした手前、彰人にどのような顔をすればいいのか分からなかったため正直ほっとしている自分もいた。 「慶先輩も大学受験に向けて勉強大変そうでさ、部活引退してからすぐに受験勉強に気持ち切り替えててほんとすごいよね」  陽翔が言うには難波は父親の会社を継ぐために国立大学への受験が控えているらしい。あいつも大変なんだなと他人事のように「ふーん」と悠哉は相づちを打つ。 「神童先輩は進路どうするの?」  陽翔のその一言に「えっ」と悠哉は思わず立ち止まる。 「なんで俺に聞くんだよ」 「え…?だって悠哉なら知ってると思って」  「俺が知るかよ」と悠哉はそっけなく答え、そそくさと止めていた足を動かした。  そういえば彰人から自分の進路のことなど一度だって聞いたことがなかった。元々自分の話をしたがらない彰人だったが、少しぐらいそういう話をしてくれてもいいのではないか。よく考えてみたら悠哉は彰人のことを全然知らなかった、自分は彰人に信頼されていないのだろうか、と悠哉は少し不安な気持ちになる。 「そっか。そういえば昨日は彰人さんに会えた?」  悠哉の浮かない表情を感じ取った陽翔は話題を変え、昨日のことを聞いてきた。そういえばあのまま陽翔のことを置いて彰人と二人で帰ってしまったなと今更になって悠哉は思い出す。 「ああ、結局自分の教室にいたよ」 「そうなんだ、それで仲直りは出来たの?」  仲直り…、昨日のことを思い出すと悠哉の顔はまた熱くなる。仲直りは出来たが仲直り以上のことをしてしまったため陽翔にはとてもじゃないが話せなかった。  悠哉は少し間を開けて「…まぁな」と答える。 「悠哉…神童先輩とまたなんかあった…?」  眉を下げ恐る恐るそう聞いてきた陽翔に対して「はぁ!?」と悠哉は勢いよく振り返った。 「なんかってなんだよ?!」 「そう言われても困るんだけど…、だって悠哉変なんだもん」  こいつはエスパーかよ、と思ってしまうほど自分の異変に敏感な陽翔に嫌気がさす。顔を赤くしてムキになった悠哉は「何もねぇよ!」と陽翔に怒鳴り、早足で学校へと向かった。  教室へ入ると、いつもよりもガヤガヤと騒がしく悠哉は違和感を覚えた。不審に思いつつも席につき荷物を置くと「マジで!?」「マジマジ、やばいよな」と何やら興奮気味で話している男子の会話が耳に入る。 「何かあったのか?」 「なんかみんなザワザワしてるね」  クラスメイトの様子に陽翔も不審がっているようで、なんだか落ち着かない様子だ。  「おーいお前ら席につけー」と担任が入ってくると「やべっもう時間かよ」と先程まで騒がしかった教室内が少しずつ静かになっていく。いつものようにHRが終わると担任が「今日の一時間目は文化祭の出し物決めるからお前ら始まる前に考えとけよ」とみんなに声をかける。するとクラスメイトの一人が「先生!文化祭に那生が来るって本当ですか!」と勢いよく手を挙げた。 「なんだ、もう広まってるのか」  「マジかよ!」「やっぱり噂は本当だったんだ!!」と担任の一言でクラス中は大騒ぎになる。担任は出席簿を片手に「ははは、お前らちゃんと出し物考えとよ」と騒ぎ立てる教室を後にした。 「悠哉聞いた!?あの那生が来るんだって!!」  前の席の陽翔はくるりと振り返り、キラキラとした瞳で悠哉を見た。そんな陽翔とは対照的に悠哉は冷めきった態度で口を開いた。 「那生って誰だ?」 「えっ…?」  目を丸くした陽翔はしばらくの沈黙の後「悠哉那生のこと知らないの!!?」と悠哉の耳をつんざくほどのバカでかい声をあげた。 「うっせーな!!」 「あっごめん…、でも悠哉の声の方が大き…」 「は?」 「なんでもないです…」  陽翔をひと睨みした悠哉は「で、那生って誰なんだよ」と指で机をトントンと叩いた。 「今大人気の男性のモデルさんだよ、雑誌や企業広告はもちろん最近テレビにもよく出てるから知名度もすごい上がってるみたい」 「お前芸能人とか詳しくないのによく知ってるな」 「僕でも知ってるぐらい有名ってことだよ。だから流石の悠哉でも知ってると思ったんだけど…」 「知らなくて悪かったな」  誰でも知ってるのが当たり前のような言い方をされ、不機嫌な態度が露骨に出る。野球の試合中継ぐらいでしかテレビを見ない悠哉にとって今人気の芸能人、ましてやモデルの事など知るわけが無かった。 「でもなんで那生がうちの学校に来るんだろ?」 「さぁな」  那生のことなど、悠哉にとっては微塵も興味がなかった。その為どんな男なのか調べることもせずに、そのまま机に突っ伏しスマホをぼーっと眺めていた。

ともだちにシェアしよう!