6 / 12

第6話 そうだ、ビッチのふりをして抱いてもらおう②

「ごめんね、帰るところだったのに」 「かまわないよ。悠生に呼ばれて来たけど、急用ができた、って出かけたから時間はあるんだ」 「そう……」  郁実君に支えてもらって部屋に戻った。   咳や息苦しさだけでなく、ここ半年ほどずっとあった体のだるさも軽くなったように感じる。  やっぱり、片恋の相手がそばにいるだけでも症状がやわらぐとか、あるのかもしれない。一時的にでも楽になれる薬のような。 「部屋に行く? それともリビングの椅子に座る? ……真生?」  俺は返事をせずに、支えてくれている郁実君の上着の衿を握りしめ、胸に顔を埋めた。  息を大きく吸い込む。香水が肌に馴染んだいい香りがした。大好きな、郁実君の香り。  ────やるんだ。誘い慣れた感じで、でも甘えるようにねだるように……悠生みたいに。 「……部屋、連れて行って?」  郁実君の首に手を回して、小さな子供みたいに「抱っこ」と言ってみた。かなり恥ずかしい。 「……あ、ああ。かなり辛いみたいだね」  でも郁実君は、戸惑うような声を出しつつも横抱きに抱えてくれた。    ……夢みたいだ。ずっとこんなのに憧れてた。  ふわっとした暖かさが幸せ過ぎて、目頭が熱くなる。 「ベッドに降ろしたらいい?」 「うん……」  狭いアパートだからすぐに俺の部屋に着いた。ベッドに寝かされて、郁実君の身体が離れていく。 「……待って」  感情を読み取られないよう、できるだけ静かに言い、長い指の手を掴んだ。一度目を閉じ、うつむいて小さく深呼吸をする。  ……俺は、遊び慣れたビッチ。俺は、遊び慣れたビッチ。   「ねえ、俺とも、試してみない?」  悠生のように、口角を上げて目を覗いてみた。 「なに、を……?」  郁実君の眉が寄り、手が強張る。  俺はその手を力任せに引いて、郁実君をベッドに引き込んだ。  不意を突かれた様子で俺の上にかぶさった郁実君の背を、間髪置かずにかき(いだ)く。 「真生!?」 「ねえ、悠生の身体とどう違うか……」  震えるな、声。  出るな、涙。 「セックス、しようよ」 「なに言って……んっ!」  俺の腕の中から離れようとする郁実君を引き寄せ、唇を押し付けた。キスは初めてでやり方も知らないけれど、好きな人とキスしている。それが気持ちを奮い立たせた。  唇をついばんで、吸って……郁実君とのキスは、美味しい果実を味わっているかのよう。   もっと、もっと味わいたい。  「……真生っ」  思い切って舌を差し込むと、両肩を押されて唇が離れた。郁実君の困惑が眉間の皺から見て取れる。 「どうして、こんなこと」  怖気づきそうになるけど、引いちゃ駄目だ。最後までビッチを演じきれ。 「……駄目? 郁実君、悠生と付き合ってるってことは男がいけるんでしょ? 俺もそうなんだ。郁実君、かっこいいもん。俺も郁実君としてみたい。それだけだよ」  違う。郁実君が好きだからだよ。 「いいじゃん別に。悠生には言わないし、気持ちよかったらお互いに楽しいじゃん。俺、たくさん経験あるから上手にできるよ?」  嘘。想像の郁実君で、自分でしたことしかない。でも、想像ならたくさんしたから。  ジーンズのボタンを外して脱ぎ去り、手が震えているのに気づかれたくなくて、急いでボクサーパンツに指をかけて下ろした。  下半身があらわになる。  大きくはないけれど、俺の劣情を表すソコは、慣れないことをしている興奮と、過去にしてきた淫らな妄想がよぎったために緩く反応していた。 「抱いて……」  ベッドに膝をついて困惑している郁実君に体を寄せ、スラックスの前立てに手を添えた。 「っつ……真生、やめるんだ」  郁実君は俺に触れないようにしているのか、手を行き場なく宙に浮かせ、突き飛ばすことも後ずさることもできないでいる。  紳士で、真摯だね。そこも全部好きなところ。でも今日だけは、俺の決死の演技に流されてほしい。 「俺が先に気持ちよくしてあげる」  なんて言って、俺の腹の下は先に快感を感じていた。  郁実君は服を着ているけれど、暖かい体温をじかに感じられる。骨格や筋肉の作りも感じて、裸で抱かれているような感覚に溺れる。  俺のものは完全に勃起し、先からじわりと露が漏れた。  郁実君の首に腕を絡め、歓びに涙が滲んだ目で顔を見つめながら、二度目のキスをする。  郁実君のものに添えていた手を動かし、すり、と撫でれば、質量を増したソレの感触が充分に伝わってきた。

ともだちにシェアしよう!