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第34話 かすかに響く息づかい

 二人きりの空間では二人の息づかいだけが響いている。  思う存分口づけ合い、抱きしめ合う。もどかしく思いながら衣服を脱ぎ去る頃には、ユーリはもう待ち遠しくてたまらなくなっていた。 「美しい肌ですね」 「んっ」  さらけ出された、ユーリの胸元に口づけるデイルは感嘆の息を吐き、うっとりとしている。  彼が顔を埋める場所で、小さくついばむ音がするたび、肌に赤い痕がいくつも増えた。 「この可愛らしい粒に触れたことは?」 「はあ、んぅっ……ない」  肌のざわめきとともにツンと立ち上がった胸の飾り。  デイルの指先で軽くこねられ、ユーリはくすぐったさに身をよじる。  それでもやんわりといじられているうちに、ムズムズし始めた。 「そこは、普通……触るものなのか?」 「すぐに良くなる場所ではないと思いますが、性衝動を催す箇所の一つですよ」 「ん、でも、くすぐったい」  強く触られているわけではなく、指の腹でやわやわと撫でたりこすったりするだけ。  本当に良くなるのか疑問の表情を浮かべるユーリに、デイルはクスッと笑ってから再び身を屈める。 「では、これは?」 「――ぁっ、ディー」  また胸元に口づけるのかと思いきや、尖りを舌で舐られ、ユーリは濡れた感触と驚きで肩が跳ね上がった。  しかしデイルはそのまま尖りを食み、舐めしゃぶる。  指とはまったく違う感触。 「ふっ、ぅん……ディー、そんなに舐めないで」 「指よりもお好きですか?」 「わか、らな――っ」  ちらりとデイルは上目遣いでユーリの表情を見てから、今度は反対をしゃぶり出す。  赤くなるほど舐められていた場所は、指先で愛撫を再開され、ユーリは落ち着きなく腰をもじもじとさせた。  唾液が滴り、じゅるりと音が立つたび、ユーリの細腰がビクビクと反応を示す。 「あっぁっ、ディー、ディー」  さして弾力のない胸を大きな手に鷲掴みされ、胸を吸われ、いじり回されているうちに、ユーリの声が甘くすがるようになっていく。  緩く立ち上がっていた自身の昂ぶりから、先走りの雫が垂れ出しているのがわかる。  もっと刺激が欲しくなり、ユーリが無意識にデイルの腹に擦りつければ、胸を揉んでいた手がするりと下肢へ伸ばされた。 「可愛らしいですね」 「は、ぁっあっ、ん、んっ」 「声を出してください。さあ、ユーリさまの可愛い声を私に聞かせてください」  胸の愛撫を止めぬまま、デイルはぴくぴくと反応を見せる、ユーリの昂ぶりを手のひらで扱く。  さらには必死に唇を結んでいる、ユーリを追い詰めるみたいに、胸の先端を舌先で撫でてきた。  肉厚なデイルの舌。全体を舐られるのも気持ち良いが、くぼみを舌先でいじられるとムズムズとした感覚が増してくる。 「変な声が、出そうだから、い、やだっ」 「私の手でユーリさまが感じている声を、聞かせてくださらないんですか?」 「女みたいな、声が、出そう」 「気持ちがいいのでしょう? これは男も女も関係ありませんよ?」  いまにもあられもない声が漏れてしまいそうで、ユーリが手の甲を当てて一生懸命に口を塞いでいたら、デイルは口づけでその手を避けてしまった。 (口の中も、気持ちいい。胸をいじられただけ、なのに)  忍び込んできた舌に自身のものを絡め、ユーリは快楽を貪ること以外を考えられなくなる。  そうしているうちにデイルが片足を掴んできて、無防備な尻の奥へ指を滑らせてきた。 「ふふ、ぷっくりしている。相当一人遊びをされたようですね」 「――――っ」 「私を想像して、ユーリさまが身を震わせている姿……いずれ見せてください」 「ディーっ! あなたは意地の悪い男だったのか? なにをそんなに手慣れた風に!」  愉悦の目で見つめられ、ユーリは体が丸ごと熱湯で茹であげられた感覚がした。  とっさに掴んだ枕を振り回せば、くすくすと笑われるばかりだ。 「ユーリさま、暴れないでください」 「もう、やだ。意地悪なディーは嫌いだ」 「どんな私をお望みですか?」 「……優しく、してくれ」 「私は優しくないですか?」  ジタバタとしていたはずが、いつの間にかデイルに両手をシーツに縫い止められていた。  上から覗き込んでくる二色の双眸――見つめられるだけで、ユーリはドキドキとする。 (優しいか優しくないか。ディーは優しいけど、意地悪だ)  わかっていて聞いてくるところも、甘い目をしてふて腐れるユーリを見るところも。 「ユーリさま、早くあなたの中に入りたいです」 「それ、入るか?」  先ほどからちらちら視界に映る、デイルの昂ぶりは想像以上に男性的だ。  自身も小さいというわけではないはず、と思い、ユーリはふと見比べてしまった。 「ユーリさまが中へ挿れるのが、まったくの初めてだったなら、厳しかったかもしれませんね」  苦笑しながら見下ろしてくるデイルに、複雑な気分を覚えつつも、ユーリは手を離してもらい、枕元の棚から小瓶を取り上げた。 「これ、いつも使ってるやつだ」 「離宮に準備されているのも不思議な話ですね」 「うるさい、バカ!」  小瓶を軽く投げつけ、ユーリは枕を抱き込む。 「意地悪ばっかりするな。さっきはあんなに気が逸っていたくせに」 「一度、冷静になりましたからね。ユーリさまはすっかり元気になられて良かった」 「あ、あの時は気が高ぶって」 「お互い様ですね」  目元を和らげて笑うデイルに、こくんと頷き返すと、ユーリは枕を手放し両手を広げる。 「可愛らしい、私のユーリ」  ぎゅっと体を包み込まれるだけで、彼の体温が感じられて心が満たされた。 「ディー、ずっと我慢しているから辛いだろう? 早く、中へ」 「ユーリさま、誘い文句が刺激的です」  背中を滑り落ちたデイルの手が尻を掴み、しばらくしてかすかに、小瓶の蓋を開ける音が響く。  花の香りがする香油は、小瓶から垂れ落ちると、華やかで安らぐ匂いを空間に拡げていった。 「痛みがあれば言ってください」 「うん。ディーは、男、初めてか?」 「――っ、もちろんです」  枕を立てて、ヘッドボードにもたれかかる、ユーリを正面から見つめるデイルの目は真剣だ。  問いかけに首筋を真っ赤にする素直な反応を見たら、急にユーリはほっとした。 (女と経験があるのは当たり前だろうけど。男は僕だけか、良かった)  時が止まっていたデイルといまのユーリは、肉体的に同じ歳と言っても間違いではない。  だけれど過去は八つ離れていたのだ。  デイルがいくらユーリを可愛く思っていても、大人だった彼が娼館通いを一切していなかったら、逆に心配する。 「あっ、ディーの指、僕のよりずっと太い」 「ユ、ユーリさま! 突然刺激の強いことを言わないでください!」 「だって、一本でも全然違う」 「私をもてあそんでいるんですかっ?」  香油をたっぷりとまとったデイルの指が潜り込み、ユーリはゾクゾクとした感覚に顎をのけ反らせる。  自分とはまったく違う感覚。それだけで興奮を覚えた。 「そんなわけ、ない。もっと、中、いっぱいにして。は、ぁっあっ……」 「これだけで感じてしまうなんて、どれだけ遊んでいたんですか?」 「ん、毎晩。ディーの、部屋で……いいっ、そこっ」 「そのために公爵領の私の部屋、隣にしたのではないですよね?」  指が増やされるとみっちりとユーリの後孔が埋まる。  自分のいいところに当てようと、腰が勝手に動いてしまい、デイルに呆れられてもユーリは自身を止められない。 「気持ち、いぃ。ディー、口づけもしてほしい」 「まったく困った人だ」 「ふぅっ、ん――あぁっ」  上の口と下の口からピチャピチャ、ぐちゃぐちゃと音が響き、気づけばユーリはデイルにしがみつき腰を揺らしていた。 「ユーリさま、私の手で自慰をしないで。こちらを見てください」 「あ――ごめん。でも、ディーの指、気持ちいい」  いいところを自分とは違う硬い指の腹で撫でられると、快感がビリビリと背筋を駆け抜ける。  甘えた声で肩口にすり寄るユーリを見たデイルは、深いため息を吐き出した。 「私をそんなに煽ってどうするのですか。……理性を総動員させている私に感謝してください。私の知らない間にこんなにいやらしくなって」 「だって、寂し、くて。ディーが、目を覚まさないから」 「……すみません。私が悪かったですね」  ユーリの甘えのこもった声にデイルは目を見開き、困った顔で笑ってから、頬やこめかみに口づけをしてくる。  柔らかく触れる感触がすると、彼が傍にいてくれる事実を実感し、ユーリは自身の想いを強く理解した。  思っている以上に寂しくて寂しくてたまらなかったと。 「早く、デイルが欲しい。少しも待てない」 「もう、いいですか?」 「大丈夫だ。早く」  ごくんとデイルが唾を飲み込んだのがわかる。  彼の肩にもたれながらユーリが横目で見上げると、視線が下りてきて、そのまま体をベッドへ押し倒された。

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