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第3話 こんな邪魔は大歓迎

 そもそも護衛騎士である彼が、殿下の側ではなく何故ここに居るんだろうと声をかけると、ユオ様は端正な顔に流れる汗も拭わずに僕の肩を掴んだ。  「ど……どこに行くつもりなんだ!?」  「え?とりあえず魔族領に行こうかと…?」  あれ、殿下の側で婚約破棄宣言聞いていたんじゃないのかな?  「頼むから、『それが何か?』みたいな顔で言わないでくれ」  ガックリと項垂れてユオ様が呻くように呟く。  いつもは冷静沈着な彼らしくない様子に、少し心配になってしまった。  「あの、ユオ様?大丈夫ですか、一体どうしたというのです?」  「どうしたも何も……。本気で魔族領に行くつもりなのか?荷物も持たないで?」  肩を掴んだまま、真摯な瞳で僕の顔を覗き込んでくる。  荷物も持たないで?ちゃんと持っているけど?  「ユオ様、荷物はちゃんと持っています」  ほら、とトランクを掲げてみせると、ユオ様は視線を流してそれ(・・)を見て。「は!?」って表情で、今度は首を回してトランクを二度見して凝視した。  「にもつ、にもつって、こんな少ない……」  何だか呟く言葉が辿々しいけど、大丈夫?  「ええっと、でも一応服も入れたし、万が一のための携帯食も入っていますけど」  「………それだけ?」  「はい?あ、あと本が一冊……」  持ち出す物は全部申告しなきゃ駄目だったのかな、と慌てて付け足すと彼は愕然とした顔になった。  「待ってくれ。何故そんなに荷物が少ないんだ。ひょっとして学生寮に置いてきたのか?」  「いいえ?僕の荷物が残っていても、学院も迷惑でしょうし全部持ってきました」  「これがぜんぶ……、いや、レイル、君には殿下の婚約者として予算が割り当てられていただろう。あの金はどうしたんだ」  「え……」  あれ、予算に対して、もしかして出納帳が必要だった?  困ったな〜、殿下に「はした金にそんなもの必要ない」って言われたのを真に受けて準備してないよ、僕。  ちょっと気不味くなって、ユオ様の顔色を窺うように見る。でも準備してないものはどうしようもない。  僕は諦めて、正直に伝えることにした。  「すみません、出納帳つけてなくて……。予算は殆ど食費に消えてしまいました」  「食費に消える……?待て。レイル、君、一体いくら貰ってたんだ?」  質問が多いな、ユオ様。  当惑した顔の彼に疑問が湧く。  まぁ、でも彼は殿下の護衛騎士なのだ。殿下の婚約者だった僕についての報告義務なんかもあるのかもしれない。  「半年に一度、10ゴールド受け取っていました」  「じゅう…………………」  僕の報告に続くように呟くと、ユオ様は青褪めた顔で絶句してしまった。  何をそんな驚いているのか分からないけど、僕はもうそろそろ出発したいな。  「あの、ユオ様?他にご質問がなければ、そろそろ失礼しても……?」  様子を窺いながらそろりと切り出すと、はっと我に返ったユオ様はぶんぶんと頭を振って、改めて僕と視線を合わせてきた。  「悪いが行かせる訳にはいかない。君の外出には陛下の許可が必要なんだ。とりあえず王宮に行こう」  え?それは嫌だ。  せっかく自由になれたのに、窮屈な王宮になんて行きたくない。  できる限り穏便に王宮行きを回避するために、言い訳を考えた。  「嫌です。だって僕、殿下に王宮から出ていけと言われてます。王族の言葉に背くわけにはいきません」  「それは……、いや、しかし……」  僕の言葉にユオ様は反論の言葉を紡げずにいた。王族の命令は絶対だからね。  暫く考え込んでいたユオ様は「はぁ〜……」と大きくため息をつくと、僕の肩から手を離し腕を引いて歩くように促してきた。  「え、あの、何処へ?」  「陛下にご報告する。何らかの沙汰があるまで案内する宿にいてくれ」  「あ、でも僕、そんなにお金の手持ちがなくて」  「………俺が払うから大丈夫だ」  前を向き歩みを進めながら、そう言う。その言葉に僕は思考を巡らせた。  支払いしなくていいなら、宿に泊るのも悪くないかな。というより、宿というものに泊まったことがないから、ちょっと楽しみでもある。  それに………。大抵の宿は朝夕の食事が付く。  ーーもしかして久し振りにお腹いっぱいご飯を食べる事ができるかもしれません!さらにさらにっ、もしかしたらお肉なんて贅沢なものも食べれるかも!?  そう考えた僕は嬉しくなって、意気揚々とユオ様の後に付いて行くのだった。

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