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第22話 僕の意思と希望と想いの行方

 「はい?」  え、何で?別に撤回しなくていいんだけど?  怪訝な顔で、得意そうにニヤつく殿下を見ると、彼は心底僕をバカにするような目になった。  「陛下が、お前と婚姻を結ぶなら立太子も検討すると言ってくださったのだ。そうなれば、お前も王太子妃だ。嬉しいだろう」  「えっと……?」  この人、何言ってるんだろ。散々馬鹿にしてくる人と婚姻なんてとんでもない!そんなの普通に嫌だ。  ふるふると首を振る僕を見てどう解釈したのか、殿下は盛大に高笑いをして(のたま)った。  「自分を知ることは良いことだ。安心しろ。王太子妃といっても形だけだ。成り損ないを表舞台に立たせるわけがないだろう。ちゃんと身代わりを立ててやる。お前はおとなしく今までの部屋に引っ込んでいればいい!」  僕の拒否の意思表示を、『僕に王太子妃なんてムリです』って受け取ったぽい。  う〜ん、今の殿下に何を言ってもムダな気がする。  それより陛下にさっさと婚約破棄の裁可を頂く方が良さそうだ。  こっそり殿下を見てそう判断する。  無言で考え込んだ僕を殿下もずっと見ていたらしく、「ふむ」と一つ軽く頷いた。  「髪の色さえどうにかなれば、お前を抱けんこともなさそうだな。光栄に思えよ、『成り損ない』」  その言葉にゾッと身震いするほどの恐怖を感じて、思わず僕は反論していまっていた。 「僕は殿下と婚姻は致しません!僕は魔界に戻ります(・・・・)!!」  瞬間、物凄い衝撃が頬に走る。  何が起きたか分からなくて固まっていると、僕を叩いた掌を握り拳にして、殿下は憎々しげに睨んできた。  「何様だお前!成り損ないの分際で王族を拒否するなど、身の程を知れっ!!」  そう叫ぶと、僕の腹を蹴飛ばそうとしてきた。  ーーあ、  酷くゆっくりに見える脚の動きと共に、魔王様の言葉が脳裏に浮かんだ。  『そのボタンに防御と攻撃の魔法陣を刻んでいる。余っ程の事がない限り、お前には傷も付けれんだろう』  「殿下っ、待って………っ!」  静止の言葉を発するには既に時は遅く、カッとジャケットのボタンが閃光を放ち、一気に爆風を巻き起こし殿下へと襲いかかっていった。  「うわぁぁぁぁっっっ!!!」  攻撃の魔法陣が発動し、カマイタチみたいなモノが殿下を切り刻んでいく。  「っ!!」  「殿下!どうされました!」  「ナットライム殿下!!」  僕には止める(すべ)がなくて、呆然とその様子を眺めるしかない。  殿下の叫び声に、入り口の扉向こうに控えていた護衛騎士達が凄い勢いで流れ込んできて、床に倒れ伏し血を流す殿下を見つけると恐ろしい形相で僕を睨みつけてきた。  「貴様が殿下を害したのかっ!!」  「成り損ないめっ!魔族と通じたのかっ、卑怯者めっ!」  口々に責め立ててくる。僕はハクっと口を開いたけど、何の言葉も紡ぐ事ができない。  「ユオ!成り損ないの術を止めろっ!聖騎士(パラディン)だったお前ならできるだろうっ!」  「早く殿下をお救いしろっ!!」  騎士達の言葉に思わず視線を向けると、入り口で愕然としていたユオ様と目があった。  思わず『違うっ!』と首を振ったけど、ユオ様は途端に目を険しくして呪言を唱え始めた。  その時、僕の身に何が起きたのかよく分からない。  でもユオ様の術が作動したんだろう。  魔法陣が刻まれたジャケットのボタンは、着たままの状態で爆発し始めていた。  防御の魔法陣が刻まれたボタンはその力を封じられたらしく輝きをなくし、攻撃の魔法陣が刻まれたモノだけが次々に破裂していく。  その度に、殿下を襲ったのと同じカマイタチが僕を深く切り刻んでいった。  今まで経験したことのない激痛が身体を襲う。切り刻まれた箇所から吹き出す勢いで血が流れ、僕の身体は力をなくしガクンとその場に両膝を付いてしまった。  血を失いすぎたのか、目が霞む。  暗くなる視界に、凄まじい形相で剣を振りかぶる騎士の姿が見えたのが最後だった。  瞼が重くて重くて、どうしようもなくて……。  もう、どうでもいいか……と、抵抗を諦めて瞼を閉じてしまう。  その時瞼の裏に、少し眉間のシワを深め目を細めて僕を見つめる魔王様の姿が浮かんだ。  この顔の時はいつも僕を心配する言葉をくれるんだ。  顔はちょっと怖いけど、優しい優しい魔王様。  懐柔するためとはいえ、いつも僕を甘やかしてくれた………大好きな魔王様。  ーー僕………。  魔王様の幻に向かって唇だけでポツリと呟いた。  ーー魔界に戻りたかった……。

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