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第36話 魔王戦の宣言します!

 朝、目が醒めると僕は一人でベッドで寝ていた。  多分、魔王様は一緒に寝てくれていたみたい。シーツにシワが残っている。  でも、その場所を手で触れてみると、既にシーツはひんやりと冷たくなっていて、魔王様が起きて時間が経っている事が分かる。  「……起してくれたら良いのに」  ちょっと淋しくなって呟く。  すると僕の目醒めを察知して、朝の支度のお手伝いに来てくれていた真っ黒さんが、くるりと振り返ってきた。  「あ、なんでもありません」  慌てて手を振る。  しかし、真っ黒さんが手をしている今日着る服を目にした僕は、ベッドからぐっと身を乗り出してお願いをしてみた。  「あ、あの!僕、今日着たい服があって。それを準備して頂けませんか?」  僕の言葉に一瞬キョトンとした真っ黒さんは、その後大きく頷いてくれた。  「うわぁ……、キレイになってます!」  着替えが終わり、姿見の前でチェックをする。今、僕が着ているのは、学院の制服だ。  何年も着ていたから袖口や裾が擦り切れていたけど、キレイに繕われていた。  「これ、真っ黒さんがして下さったんですか!?」  嬉しくて全開の笑顔で真っ黒さんを見上げると、彼はやっぱり『いやいやいや……』と頭を掻いて照れていた。カワイイ!  制服って、着るとやっぱり気が引き締まる。今日のイベントには丁度いい。  僕は胸に手を当てて、大きく深呼吸した。  ーー絶対に成功させてみせます!  ★☆★☆  「そろそろレイルも起きる頃か……」  俺は執務室の机に書類を広げながら、ぐっすりと眠っていたレイルを思い出す。  気持ちを言葉に出せと言うと、戸惑いながらも『明日』と可愛く約束をしてくれた。  だから、今日は早めに仕事を終えレイルとの時間を設けれるように、早朝から精をだしていたのだが……。  「ラニット、一人でニヤニヤしているのは、怪しい以外の何ものでもありませんよ」  プルソンが嫌そうに眉を顰める。  それに便乗してアスモデウスも袖で口元を隠して、わざとらしくため息をついた。  「怪しいもなにも、ねぇ……。昨夜はレイルちゃんを送ったきり戻って来ないしぃ〜。もぉ〜ナニしてたのかしら♡」  接吻(キス)一つでいつまでも恥ずかしがる子供に、ナニをするというんだ。  俺は見境なく襲うケダモノじゃないんだぞ。  誂ってくる二人をまるっと無視して、処理し終えた書類をアスモデウスへと渡す。  「さっさと行け」  しっしっと追い払うように手を動かした時、突然外からレイルの声が響いてきた。  「まおうさまーーーっ!!」  力一杯叫んでいる声に、はっとして目を窓の向こうへむけると、石畳の広場で両足を踏ん張って立つレイルの姿があった。  瞬間、全身の肌が粟立つほどの威圧に曝される。  「ーーこれが審判を下す者の覇気か……」  ビリビリと肌を刺す様な覇気。  その凄まじい圧に、さっきまでふざけていたアスモデウスもプルソンも、顔を青褪めさせ身動き一つできずにいる。  それをチラリと見た俺は、椅子から立ち上がると窓際へと向かった。  そうしている間にも、レイルは言葉を発しようとしていた。  「僕が役に立たないのは知ってますーーっ!!でも接吻(キス)までして、『僕のモノになる』って約束してくれたのに、『必要ない』って酷すぎると思いますーーーーっ!!」  ……………。  オマエ、魔王戦を挑むための広場に立って叫ぶコトか、それ。  唖然としてレイルを見ていると、背後ではアスモデウスとプルソンが嬉しそうに声を弾ませていた。  「え、ラニット………?手、出しちゃったのぉ?やだぁ……ムッツリ大王♡」  「ラニット?レイルは子供ですよ………?笑」  レイルの覇気に当てられて一歩も動けないクセに、余計な事は言える二人に殺意が湧く。  しかし、レイルのヤツ、やはり俺達の話を聞いて勘違いをしているようだ。  どう宥めようか、と考えあぐねていると、続けて響いたレイルの言葉にバキッと身体を固まらせてしまった。  「僕、僕……っ!魔界に居たい!!このまま大好きな魔王様の側に居たいんです!!だから!魔王様に必要なくても、魔界に必要な存在になってみせます!!魔王様!!僕、魔王戦に挑みます!」  「ーーーーーーは?」  「おやおや………。とうとう魔王も世代交代ですか」  「んまぁ……可愛い宣言♡」  三者三様の声が洩れる。  「魔王様に勝って!僕、魔王になります!!」  「ーーーーー待て、何故そうなる?」  言葉にしろと言ったが、何故そうなったレイル………。  ズキズキと痛むこめかみを、人差し指で押さえる。  そんな俺の気も知らず、レイルは最後にトドメの一言を発した。  「僕には魔王様が必要なんだから、ずっとずっと永遠に、僕のモノでいて下さい!」  最早、愛の告白にも似たその言葉の意味を、アイツがちゃんと理解して発しているのかは分からないが………。  予想もしていなかった告白まがいの宣言に、望外の喜びが湧き上がる。  俺は自分の顔に掌を当て、熱を持つ目元を覆い隠すのだった。

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