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第38話 魔族は恥ずかしがり屋?

 四将軍達に僕の口上を聞かれたのは恥ずかしいけど、そもそも執務室の前で叫んだんだから、聞かれてない方が可怪しいよね。  僕はふるっと頭を振って羞恥心を振り払うと、もう一度ラニットを見上げた。  魔王の座を奪っちゃったけど、ラニットはちゃんと此処にいてくれるよね?何処かに去ってしまうなんて事、ないよね?  「ーーラニットはずっと側に居てくれますか?」  「当然だ。さっきも言っただろう?オマエの望みを叶える事が、俺にとっての喜びだと。オマエの側に在ることが、俺にとっての幸せなんだ。オマエが不要と言うまで側に居る」  キッパリと言い切ってくれたから、僕はホッと胸を撫で下ろした。  「まぁ、魔王交代とはなったが、まだ審判の日を迎えていない以上、オマエの負担を増やしたくはない。このまま俺が魔王の仕事を捌く。オマエが自分の役目を終えたら、全てを引き継ごう」  クシャッと髪をかき混ぜるように撫でると、ヒョイと僕を縦抱きで抱え上げた。お尻にラニットの逞しい腕の感触がする。  僕はモゾモゾと身じろぎ、ラニットが着ている上着の胸元をキュっと握り締めた。  「あ……あの、僕、魔王になったのなら、抱っこされるのはちょっと……」  「ーーーー嫌か?」  抱き上げられる事にちょっと抵抗を示した僕に、ラニットは物憂げな表情になる。僕は慌てて両手を振って、ラニットの言葉を否定した。  「あ、いえ!あの、嫌というより、威厳も何もないですよね、コレじゃあ……」  そう訴えると、ラニットは苦笑いを洩らした。  「威厳など必要ない。魔王の存在は唯一無二だ、そのままの在り方で許される。もしそれで不都合があるなら周りが何とかするだろう」  すりっと僕の目元を親指で擦る。  「オマエはオマエのまま、変わる必要はないんだよ、俺の(・・)魔王。そのまま、可愛い存在でいてくれ」  緩む瞳には甘い光が宿る。口の端には僅かに微笑みが浮かび、厳しいラニットの雰囲気を柔く変化させていた。  ーー俺の、魔王………。  その言葉に、じんわりと喜びが湧き上がる。  ふふ……っと笑いが溢れ、僕は嬉しくなってラニットの首筋に腕を回してきゅっと抱き着く。  そんな僕の背中を、ラニットが優しくあやすように撫で擦ってくれた。  「歓天喜地(かんてんきち)ですよ!さあ、新たな魔王の誕生を祝わなければ!」  「実力勝負が当たり前の魔王戦で、まさかの無血開城が起こり得るとはな……」  『え〜?可愛いも立派に武器でしょ?まぁ、ラニット限定で発揮する破壊力だけどさ』  「…………………ねぇ〜え?新魔王の誕生を祝うのも良いけどぉ。ちょっと待てば、ラニットとレイルちゃんの初や………モゴゴっ!!」  アスモデウスが何かに気付いたのか、ぴょこっと右手の人差し指を立て、左指で輪っかを作って言葉を紡ごうとした、その瞬間。  プルソンは思いっきりアスモデウスの頭を(はた)いていたし、ヴィネとベレトはぱしん!と音を立てて掌で彼の口を押さえ込んでいた。  キョトンと瞬いて、アスモデウスを見てラニットに目を向けると、ラニットは穢らわしい物を見るかのような凍てつく目をアスモデウスに向けていた。  「?」  片方の指を立てて、片方の指が輪っかで……。で、皆に怒られたアスモデウス。  「ーー!!ああ、成る程、それって性交の意味なんですね?」  ポンと拳を掌に打ち付ける。その意味に気付いた自分を誇りつつ笑みを浮かべて確認のために声を上げると、歩き始めようとしていたラニットはパキンと凍り付いたようにその動きを止めた。  あれ?とラニットを見て、四将軍達を見る。  プルソンは両目を隠した顔を愕然とさせて此方を見ているし、ヴィネは片手で顔を覆ってしまっているし、ベレトは『あ〜あ………』みたいな顔をして残念な子を見る目付きで僕を見ていた。  そんな中、アスモデウスだけは最高に素晴らしい満面の笑顔で、僕にサムズアップしてくれていた。………………はて?  三者三様ならぬ、五者五様な様子に、僕は言ってはならない事だったのかな?とこっそり首を傾げる。  ーー魔族の皆さんって性に奔放かと思ったけど、意外に恥ずかしがり屋さんですね…………?  意外だなぁと思いながら回答をくれるのを待っていたけど、随分長い時間、誰も何も言葉を発してはくれなかったんだ。

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